2025年11月14日

無意味なものと不気味なもの

春日武彦 2007 文藝春秋

買ったわ良いが,この装丁,なんとなく見たことあるなぁと思っていたのですが,研究室の本棚をざっと見たところ,見当たらない。というのも,私は春日武彦ファンであり(ただし,一時期,御母堂を失くされた後に書かれた本が,ものすご~くジメジメとした筆致で,まさにタイトルは,『鬱屈精神科医,占いにすがる』であり,こんなに切れ味悪かったかなと思って,読むのを止めていた時期がありますが),ファンであるが故に買っているはずだと思ったわけですが,やっぱり見当たらない。

ならば記憶違いかと思っていたのですが,しかし,どうも読んだような記憶があるようなないような。読んだとは言い切れないぐらい曖昧だから,読んでいて面白かったけれど,第十二章「世界の構造」に至って,明らかにこれはかつて読んだことを思い出しました。今から18年前ですか。

そう思ってもう一度丹念に研究室の本棚を探したのですが,やっぱり,ない。小説以外,本を売ることも捨てることも基本的にないんだけどなぁ。でも,これ,前に読んでるぞ絶対。

と,まぁ,ある意味,メタに不思議な読書体験でした。


2025年11月8日

デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場

河野啓 2020 集英社

右手の親指以外の指をすべて凍傷で失ってまでエベレスト登頂に何度も挑戦し,最後は滑落死した登山家・栗城史多氏(35歳没)。当時,知名度の割に登山家としての実力が諸方面で疑問視される中,両手の指のほとんどを切断してまで登り続けるこの栗城と言う人を,なんだか痛々しく思った記憶がある。何というか,(登りたくないのに)登らざるを得ない状況に追い込まれている(自ら自分を追い込んでしまってる)んだろうなぁと。引っ込みがつかなくなって,泣く泣く登山して,手の指までほぼ全部失くして,まだ全然若いのに最後は唐突に滑落死・・・。その根源は単なる見栄なのか,称賛欲なのか,名誉欲なのか,あるいは金銭欲なのか,その時は,別に登山そのものには興味がないので,よく分からなかったわけですが,気にはなっていました。

かつて「ヤンキー先生」だったあの義家弘介氏が政治家になってドンドン様子が変わっていくのが不思議だなぁと思っていたわけですが,その義家氏のことを書いた『ヤンキー母校に恥じる』が出て,おおなるほど,そういう背景があったのね,とその取材力と筆力に読みごたえを感じていた,河野啓氏の前作が,これでした。で,即座に購入。ようやく読めました。

今回も,おおなるほど,そういう背景があったのね,と,あっという間に読み切りました。読むにつれ,登山には全然向いてなかったけど,ある意味で稀有な才能を持った栗城氏にはもっと別の人生があったかもと,「たられば」を考えてしまいますが,しかし,でも,たまたま登山であったのではなく,やっぱり登山でなければ世に出て来られなかったかもしれない,とも思いました。義家氏が,「先生」でなければならなかったように。

どんな人であっても(ヒーローでもアンチヒーローでも),生きててさえくれればなぁ。かの義家氏は今年の3月に政治家を引退し,今は少年院の篤志面接委員と通信制高校の特任教諭をしているそうです。


2025年11月5日

SNS時代の戦略兵器 陰謀論 民主主義をむしばむ認知戦の脅威

長迫智子・小谷賢・大澤淳 2024 ウェッジ

敵対国の社会的混乱(例えば国民の分断等)によって政治的な意志決定を麻痺させ,戦時における自国の優位を確保するために,平時からSNSを通じてディスインフォメーション(偽情報)を蔓延させて対象国の国民の認識に影響を与えようとする「認知戦・情報戦」が盛んに展開されている。このとき,いわゆる陰謀論的言説がそのネタに大いに用いられている,ということをアメリカ大統領選やウクライナ戦争などを例に解説した本。

選挙だとか戦争だとか政治的なイベントだとかの前後で,よく分からない謎な(荒唐無稽な)情報がどうしてこうもしょっちゅう出回るのかが,よく分かりました。


2025年11月1日

霊的最前線に立て!オカルト・アンダーグラウンド全史

武田崇元・横山茂雄 2024 国書刊行会

これは面白かった!ひたすら二人のオカルト談義(400ページ)。まさに博覧強記とはこのこと。