2020年11月9日

メメント

(原題:Memento)(アメリカ,2000)

妻が殺され,そのとき自分も頭に怪我をした後遺症で記憶障害の一つ「前向性健忘」になった男が,妻の復讐のために奔走する話。前向性健忘とは,発症以前の過去の記憶は残っているが,発症以後の新しいことを記憶できない(物語では,10分ぐらいで忘れていく),という症状である。

クリストファー・ノーラン監督の,ものすごく奇妙な映画。時間軸通りに進むことを「前進」とすれば,この映画は時間軸に沿って「後退」していく構造になっている。つまり,113分の映画そのものは(当然)我々の時間軸通りに「前進」していくのに,話はどんどん「後退」していくのだ。ややこしい。ものすご~くややこしい(笑)。もちろん場面場面は「前進」しています。決して巻き戻し映像を見ているわけではない。場面が切り替わってどんどん「後退」していくのである。なお,冒頭の場面は,この映画が「後退」の物語であることを暗示するために,あえて巻き戻し映像を見せています。

先の場面で繰り広げられるやりとりが,後の場面で明らかになっていく。だから構造自体は謎解きの連続になっている。でも(だから),観ていて,今,時間軸上のどこにいるのか混乱する。この混乱はある意味,記憶障害である主人公の主観の混乱を暗示しているのかもしれない。

10分で忘れてしまう症状を自覚している主人公は,忘れないように,ポラロイド写真を撮り,メモを取り,自分の身体にタトゥーを入れる。毎度毎度,写真を見て人物や場所を確認し,メモを見て判断し,タトゥーに気づいて考える。タイトルの「メメント(memento)」は,(過去を思い出すための)思い出の品,という意味ですね。

混乱必至の映画なので,観た直後の頭の中はすっちゃかめっちゃかですが,人間というのは,「整理されていないと反すうする」傾向があります(これを,埼玉学園大学の遠藤寛子さんと私は,「思考の未統合感」と名づけています)。だから,この映画のことが2日間ぐらい頭から離れなかった。で,ようやく書いています。どうも最近の映画の傾向として,こういう,極端にややこしい映画が流行ってると言われますが,そうすることによって謎が残るために余韻が残る,というのはありますね(だから,戦略的にややこしくする,ということもあると思います)。

★★★


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