G.レイコフ・M.ジョンソン(著)渡部昇一・楠瀬淳三・下谷和幸(訳) 1986 大修館書店
ようやく読みました。認知言語学,特に認知意味論の原点の一つとなる名著です。
学問は常に新しくなっていきますから,この領域に興味があって色々勉強しようと思ったときに,やはり新しいものを読まないと,結局古い情報だと効率的ではありません。仮に2000年代の本を読んでも,それは2010年代になると様相が変わっていたり,すでに議論されていなかったり,なんてことはいくらでもあるからです。
もちろん定説のようなものだとか,古典の引用の仕方だとかはあまり変わらないのですが,定義だって変わるし,用語一つとっても研究が進むにつれて変化していきます。特に認知言語学はまだまだ新しい分野だと思うので,心理学のように「定説」だけ載っている教科書のようなもの(誰が書いても代わり映えのしないもの)はまだありません。だからこそ,なるべく新しい本を読むに越したことはないわけです。
特に僕のような門外漢(言語学の専門的な訓練を受けていなくて,独学で勉強している者)は,何が正しいか(古いか新しいか)に関する嗅覚が感覚的に備わっていませんから,単純に,その書籍・論文の刊行年で都度都度判断するしかありません。
そういう理由で,認知意味論の冒頭や要所で必ず出てくる”Metaphors We Live By”はいつか必ず読もうと思いつつ,後回しになっていました。しかし,ようやく今,読み終えました。
今から読めば,全体的には荒削りだけれども,その観点の新しさと意気込みの熱さが十分に伝わってくる力作です。以前は,ものすごく高度な言語学の専門書だと勝手に思い込んでいましたが,これ,普通の読者にも分かりやすく自分たちの(当時は)独自の主張を伝えようとする,とても良心的な読みやすい一般書でした。ただ,これは多くの人がすでに指摘していますが,『レトリックと人生』って日本語タイトルは,イマイチですね。せめて原題に近づけて『日常とメタファー』とかの方が良かったのではと思います。(実際,2013年に『メタファに満ちた日常世界』(松柏社)というタイトルで別の翻訳書が出ていますね)
訳書は,つくづく,訳者の翻訳力に依存すると思っています。恥ずかしながら私もこれまでに数冊翻訳書を出していますが,そのことをつくづく思いながら,つまり,なるべく読者に分かりやすいこなれた日本語にしようと思いながら,翻訳をしています。その点,本書はとても読みやすい日本語です。ひっかかるところはほとんどありませんでした。さすが言語学者の翻訳です(ただ,言語学者の文章でも,読みにくいものはありますけどね;笑)。
というわけで,認知言語学・認知意味論をやりたい人は,いつかは読んだ方が良い,メルクマールとなる名著です。
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