岸田秀 2019 いそっぷ社
私が大学で心理学を専攻しようと思ったきっかけは,1年生のときに読んだ岸田秀の『ものぐさ精神分析』である。1977年刊行(青土社)の本書はロングセラーであり,加筆して1982年に中公文庫で文庫化されている。私が読んだ記憶があるのは文庫版だったので,この1982年版だと思う。
私が大学に入学した年は,1990年。文庫版が出てから8年も経っている。でも確か,大学の書籍部に置いてあるのを見て,面白そうだと思って買った覚えがある。まぁ多分,早稲田の文学部の書籍部だから,偉大なる(?)先輩の有名なロングセラー本だから,置いてあったのかもしれない。
今はどうか知らないけれど,早稲田(一文)は当時,1年次の成績でもって2年次からの専攻が割り振られた。どうせ割り振られるなら希望したところに割り振られたいと思って,1年次は結構勉強した記憶がある。入学前は漠然と哲学をやりたいと思って,格好つけて哲学本を読んだりしてたが,言葉面を追うだけで本質的にはさっぱり意味が分からず,哲学の授業(確か,伴博という先生だった)も分かったような分からないようなそんな中,『ものぐさ精神分析』を読んで,「これだ!」と衝撃を受けた記憶がある。
でも,心理学って,精神分析じゃないことは,2年に進級してすぐに分かりました。なにせ,主流は,統計やったり実験やったりする学問なのです。これは偏に自分に責任がある。というのも,1年時に一般教養科目の「心理学」を取らなかったのだから。無謀にも,「心理学」を事前によく知ることなく,「精神分析」みたいなものだと思って選んだのです。
ただ,結果的に現在,心理学者をやっているので,あながち間違った選択ではなかったのだろうと思うが,とにかく,そういう意味で,岸田秀の『ものぐさ精神分析』は思い出深い一冊なのである。
その岸田秀の著書は,この『ものぐさ精神分析』から始まり,著書・翻訳書多数,そして本書が自身,人生最後の本としている。なので,これは読まないわけにはいかないと,積読(つんどく)しておいたものをようやく読みました。
これまでいろいろなところで書いていることの総まとめというか総仕上げというか,だから,どこかで読んだことのある話の繰り返しだったりしますが,まぁ,でも,岸田秀ってこういう感じだよな,岸田流精神分析,やっぱり面白いし,説得力あるよな,と思って引き込まれました。
大学で心理学をやろうと思っている人ややっている人は,できれば,精神分析は教養としてでも良いから概要は知っておいた方が良いし,逆に,精神分析を一切毛嫌いする「科学者」顔した心理学徒はあんまり信用できない。そういう人はなんだか余裕や遊びがないような気がする。残念ながら,余裕や遊びのない人が,良い研究をするとは到底思えない。
岸田流精神分析が精神分析の神髄だとは思いませんが,とりあえず,『ものぐさ精神分析』は読んでみても良いんじゃないかんと思います。本書はそのあとで。
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