2025年4月28日

ユー・アー・ノット・マイ・マザー

(原題:You are not my mother)(アイルランド,2021)

うううむ。怖いけどね。

うつ病の母親がある日,行方不明に。しかし,まもなくして家に帰ってきていた。が,その母親はどうも様子がおかしい。どんどん壊れていく。暴力的に狂っていく。精神も身体も壊れていく。ハロウィーン。あの世とこの世。あっちとこっち。

怖いけどね,根本的なところで理屈がイマイチ分からん。なんで「徐々に」壊れていくんだろうか?それに,この,主人公の女子高生シャーは,じゃあ一体何者だということなのだろうか?

あと,ホントいつも思うけど,なんでカタカナでそのままのタイトルにするんだろうなぁ。もちろん,そのままでもいいんだけどさ,これだと長いしさ,中黒(・)が多いしさ,何かひねった邦題が欲しいよね~。ここの配給会社には,良いコピーライターがいないのかな。日本公開用のポスターも,内容となんか違うしなぁ。

そのポスターには「『ミッドサマー』に続くフォークホラー!」ってあるけど,「ミッドサマー」(2019)はむしろ,ジャンルとしては田舎ホラーだよね。どえらい田舎にある奇妙な風習が残ってる狂気の村に来ちゃいました映画。この「ユー・アー・・・」(ああ,長い!)は,違います。

ちなみに,いつもの母親があるとき中身だけ別人に入れ替わっているかもしれない,という恐怖(妄想)は,小さい頃に抱く恐怖としてはそんなに珍しくないでしょう。これが疾患レベルだと,いわゆる「カプグラ症候群」というやつですね。実際,僕自身も,確か小学生ぐらいの頃,お袋が中身だけ別人になってたらマジで怖いなと,布団の中で震えた記憶があります。もちろん,そんなのは妄想だということは分かってるんですけど。この映画の主人公は思春期の女子高生ですが,そういう恐怖がモチーフになってるよね,たぶん。

★★



テッド

(原題: Ted)(アメリカ,2012)

面白かった。テンポが良いよね。小気味よくて気持ちいい。ギャグも下品だけど,よくあるB級アメリカ映画のドストレートな(ひねりのない)下ネタじゃなくて,まぁ,下品だけど全体にスタイリッシュ(笑)。なんでしょう,単に下ネタで観客受けを狙おうとしているのではなくて(つまり小学生が喜びそうなアホな演出ではなくて),テディベアというぬいぐるみの友だち(これがそもそも虚構であって,メタ映画であることの印なわけで)が下ネタを連発するという,下品さやアホさを映画的にメタにいじってる感じ,でしょうか。っていうか,全体にそういう作りの映画だもんね。面白かったから「2」を観よう~。

どうでもいいけど,主人公ジョンを演じてるマーク・ウォールバーグって,マット・デイモンと似てるよね。

★★★


2025年4月23日

西洋の敗北

エマニュエル・トッド(著)大野舞(訳) 2024 文藝春秋

今の世界の情勢を知る上で,これは必読書かもしれない。ハラリの『サピエンス全史』ぐらい,目から鱗でした。

ウクライナ戦争について,ロシアについて,アメリカについて,ヨーロッパについて,そうかそういうことなのか,だからなのかと,いろいろと疑問に思っていたことが氷塊した気分です。物事は,別の角度から見るとこうも違って見えてくる,そのことを改めて思い知らされました。多角的に物事を見ることは良いことだと分かっていても,なかなかそうはできない,特に,フィルターバブルだエコーチェンバーだといった情報環境に生きている我々は,気をつけて公平性を保とうとしたところで,見方が偏ってしまいます。

エマニュエル・トッドの肩に乗って,まったく別の角度から世界を見ることができる,現代の必読書だと,僕は思います。



2025年4月21日

破墓/パミョ

(原題:Exhuma)(韓国,2024)

面白かった。134分,話がどんどん展開する飽きさせない作り。面白かったけど,展開が早すぎて,なんでそうなってるのか細かい理屈がよく分からないところもありました。話が回収されているようなされていないような。だから,世界観というかスケールは一見深そう(大きそう)だけど,そのよく分からなさによって結局,深いのか浅いのか,大きいのか小さいのか,よく分からなくなってます。

しかし,ユ・ヘジンは,いつ見ても,どんな映画でも,やっぱり味があって良いなぁ。あの顔だよなぁ顔。それから,あの,唾を飛ばしながら(実際は飛んでないかもしれないけど)しゃべるしゃべり方。あの顔は,一度見たら忘れられない。

★★★


2025年4月19日

第51回全日本杖道大会(京都)二段の部:準決勝

昨年度の京都での第51回全日本杖道大会,二段の部準決勝の動画がようやくYouTubeにアップされました。白谷・湯川組ーニーマン・藤井組の対戦です。奥が白谷さんと私です。残念ながら結果はここで負けまして,ベスト4でした。




2025年4月18日

未知との遭遇

(原題:Close Encounters of the Third Kind)(アメリカ,1977)

SF映画が好きだとか公言しておきながら,実は今まで観たことがなかった『未知との遭遇』。やっと観ました(笑)。いや,これだけ有名な映画だからもしかしたらどこかで観ているのかもしれないけれど,観た覚えがない。勝手な先入観で,ただ宇宙人がやってくるだけの(ひそかに侵略しにきたり,あからさまに襲ってきたりしない:笑)退屈な映画なんじゃないかと思ってましたが,そうか,こういう映画なのか~。

最初のUFO目撃事件と言われているケネス・アーノルド事件は1947年。『美しい星』(1962)を書いた三島由紀夫も入っていた「日本空飛ぶ円盤研究会」の設立は1955年。宇宙人が謎の飛行物体に乗って地球に飛来している。世界のいたるところでそれは目撃されている。宇宙人はいるに違いない。いつか人類にコンタクトしてくるときが来るはずだ。いや実は,合衆国政府が隠蔽しているだけで,NASAはすでに接触しているのかもしれない。そういう心理がもんもんと醸成されていたであろう1970年代後半に,スティーブン・スピルバーグが,目に見える形で映画にした,という感じでしょうか。

実際,1977年の作品にしては,有名だけあって,よくできてるよなぁ。フワーッと物理法則無視して飛んでくるUFOは,機械的だけど生命感があって,UFOそのものが宇宙人のようにも思える。最後には,お約束のグレイタイプの宇宙人が降りてきましたが,グレイって,一説には『2001年宇宙の旅』(1968)のスター・チャイルドが原型って言われているので,1970年代後半は,すでに宇宙人といえばグレイタイプだったんでしょうね(僕は幼稚園生~小学校低学年ぐらい)。ただ,大人(成長した形の宇宙人?)は,ややタコ型の手足でしたね。タコ型説にも配慮した,ということでしょうか。なお,タコ型の由来は,H.G.ウェルズの『宇宙戦争』(1897)に出てくる火星人という説もありますが,定かではありません。

タイトルの原題は,「第三種接近遭遇」ですが,これは,ジョーゼフ・アレン・ハイネック博士の言うところの,宇宙人(UFOの搭乗者)との接触のことですね。ここで,第一種接近遭遇とは,UFOを近くで目撃すること,第二種接近遭遇とは,UFOによる物・人・動物などへの何らかの物理的影響が確認できることを指しますが,この『未知との遭遇』は,その辺りの手順もちゃんと踏んでいて,第一種接近遭遇と第二種接近遭遇を丁寧に描いています。

世界中で起きてきた謎の消滅・失踪・誘拐事件とも絡めているところ,UFOに憑りつかれた人のどんどん病んでいく(かのように見える)様子やその狂気性を理解できない家族の崩壊の様子を描いているところなんかは,ただの宇宙人飛来ものではないことが,これでようやく分かりました。宇宙人との交信を音(音階)でするところも素敵です。なお,キャトル・ミューティレーションを彷彿とさせる大量の動物(牛,馬,羊)の死骸はなんだったのかはよく分かりません(第二種接近遭遇?)。ま,しかし,とにかく,UFO(宇宙船)が荘厳で綺麗だよね。

★★★★


2025年4月16日

X エックス

(原題:X)(アメリカ,2022)

キモい。怖い。痛い。

時は1979年,アメリカはテキサス州の田舎にある古びた農家。そこに,ポルノ映画を撮影しに来た男女6人。一攫千金を狙うプロデューサー・ウェイン,ポルノ女優マキシーンとボビーリン,ポルノ男優でベトナム帰還兵のジャクソン,自主映画監督のRJと助手(彼女)のロレイン。老夫婦が住むその農家の離れに泊まって,ポルノを撮る6人。その様子を覗く老婆。どうも様子がおかしい。

知らずに先に『パール』を観てしまったわけですが,それはそれで良かったかもしれない。あれから60年,パールとハワードは,お互いを労わり愛し合う夫婦をちゃんと続けていました。人を次々に殺しながら。6人が来てしまったのは,二人の住むあの家でした。

第3弾は『マキシーン』。6月6日に日本公開。今回のこの映画の舞台となった時から6年後だそうです。どうなるんでしょう~。

★★★


2025年4月14日

Pearl パール

(原題:Pearl)(アメリカ,2023)

うひょ~怖~。超怖いシリアルキラー映画。

主演ミア・ゴス,監督ダイ・ウェスト。これ,『X エックス』に続くシリーズ第二弾なのね。まだ『X エックス』は観てなかったから,先に観ておけば良かったかも。で,三部作第3弾が『MaXXXine マキシーン』なのね。今度観よう~。

時は1918年,アメリカはテキサス州の田舎にある貧しい農家。スペイン風邪が世界中に大流行する中,結婚したばかりの夫は第一次世界大戦でヨーロッパに出征していて不在,厳格な母親と全身麻痺で車いす生活の父親と暮らすパールは,映画の中の踊り子に憧れ,自分もいつか舞台に立つことを夢見る。しかし,第一次大戦中という時節柄,ドイツ系であることを理由に,目立たぬようひっそりと大過なく過ごそうとする母親に,ことごとく否定される。

最後の,パールの作り笑顔が頭から離れない。怖すぎる。マジで夢に出そう。でもねぇ,彼女のこの著しく抑圧的な境遇だったら,壊れてしまうのも仕方がないところはあるし(だからといって,人を次々に殺しちゃいけないけど),言ってることの筋も通っている(からといって,人を次々に殺しちゃいけないけど)。だから,なんだか可哀想でもある(けど,人を次々に殺しちゃいけない)。

★★★★


2025年4月13日

テラフォーム 侵略

(原題:Risen)(オーストラリア/アメリカ,2021)

なんとなくコンセプトというかアイディア的にはすごく面白そうだったので観ました。

映画は,核となるコンセプトが最も大事。それを生かすも殺すも脚本次第。その独創的なコンセプトをどう肉付けして120分間,観客を惹きつけ続けるか。飽きさせない展開,伏線と謎解き,道具の細かい描写,セリフ,映像,カット,カメラワーク,・・・。なんてことを,映画を観ていて,素人ながらに色々と思うわけです。

この映画,コンセプトは確かにすごく良いんだけど,とにかく最初からずっと全体的に間延びしてます。間延びしてるから,挿入されてる音楽がやたら気になる。音楽でもってなんとか物語を奥深く,重厚に,感動的に,荘厳に,深刻にしようとしてますが,間延びした尺にはただ邪魔なだけ。これは静止した画面を観ながら鑑賞する音楽映画なのか?それにしては大した音楽ではない。無理矢理110分の尺を持たせようとしてるから,前半の1時間をもっとぐっと縮めたらどうでしょう。それから,種明かしを最後にもったいつけてもってくるんじゃなくて,早々に種明かししてそこのところの奇妙な運命をもっと描いたら良いんじゃないかなぁ~。と,素人にさえ色々と改善策を喚起させる,ある意味で,おそらくは映画学科の人には良い問題材料になるのではないかと思える学習映画。


2025年4月12日

アビゲイル

(原題:Abigail)(アメリカ,2024)

踊る吸血鬼。スプラッタホラーのアクション映画です。話に深みがない。吸血鬼バトルを観せたいだけだから,吸血鬼バトルを観たい人には良いと思います。一応,吸血鬼は少女なので,親子愛がテーマに入っていますが,そこはもう,カレーに隠し味の牛乳を少々入れたぐらいで,カレー味であることに変わりはありません。

っていうことは,つまり,カンフー映画はカンフーバトルを観せたい映画だとすると(無論,バトルに至る文脈や背景に面白さや斬新さがあれば映画として味や深みが増すわけですが),そこに至るまでにあんまり味や深みはないことが多いわけで,そうなると,カンフー映画はカンフーバトルを観たい人には良い映画ということですね。

そう思うと,この前,キアヌ・リーブスの『ジョン・ウィック』シリーズの第4弾『コンセクエンス』(共演は真田広之とドニー・イェン!超豪華日中二大アクションスター!!)を観たのですが,途中でつまらなくなって観るのを止めました。というのも,ストーリーというか文脈はもうどうでも良い感じなんですよね(笑)。とにかく,映画が始まってからずっと,キアヌの銃撃と総合格闘技の連続アクションをひたすら観せるためだけの映画です。一番最初の『ジョン・ウィック』(2014)は,ナメ殺映画としても,その奇妙な裏社会のある世界観も,斬新で面白かったけどね~。

★★



2025年4月10日

侍タイムスリッパ―

(日本,2023)

いやぁ,良かったわ~。第67回ブルーリボン賞,第48回日本アカデミー賞最優秀作品賞。自主製作らしいので,全体にチープさはあるけど,コメディでありながら泣かせる,良い映画です。

生真面目な幕末の会津藩士・高坂新左衛門が,密命を受けて京の都で長州藩士・山形彦九郎を闇討ち中に雷に打たれ,現代にタイムスリップしてしまう。気が付くと,そこは140年後の,京都の時代劇撮影所であった!

高坂新左衛門(山口馬木也)の一挙手一投足が,いちいち面白い(笑)。それでいて,人生を命がけで生きてきた幕末の侍が,文明の発達した平和な現代を,豊かになったと喜ぶ半面,時代劇として残っているものの,すっかり忘れられたかつての本当の日本と侍たちを憂う姿は,真に迫っている。

★★★★


2025年4月7日

キャンディマン

(原題:Candyman)(アメリカ,2021)

製作・脚本はジョーダン・ピール他。

クライブ・バーカーの小説『禁じられた場所』を映画化した,1992年の『キャンディマン』と連なる続編。アメリカの人種差別問題が背景にあり,本作も『ゲット・アウト』のジョーダン・ピールが製作・脚本に入っている。これはもう,『キャンディマン』(1992),『キャンディマン2』(1995),『キャンディマン3』(1999)を観てみたいね。

★★★


2025年4月6日

ブライトバーン/恐怖の拡散者

(原題:Brightburn)(アメリカ,2019)

うひょ~。恐ろしいや~。まさに宇宙から降ってきた恐怖の大王。スーパーマンのブラックパロディホラー。そうだよね,そうなるよね,普通,少年がそんな特別な力を持ってたら,そうなってもおかしくないよね~。

<もしもクラーク少年がサイコパスだったら・・・>。本作の主人公の少年ブランドンは,一見おとなしく知的な少年だが,逆に言えば,感情の発露が薄い。共感性が低く,欲望に対して衝動的で,規範や善悪が分からない。サイコパスである。鬼に金棒を与えてしまいました。

最後に流れるビリー・アイリッシュの「バッド・ガイ」が妙に切なくて怖い。90分間,口をあんぐり開けっ放しで見入ってしまった。残酷大魔王降臨。暗黒超人爆誕。

しかし,副題の『恐怖の拡散者』ってのはイマイチだよなぁ,何だよ「拡散者」って(笑)。別に何にも拡散してないし。主題の『ブライトバーン』は舞台となる街の名前だから,これだけじゃよく分からないので,邦題に副題が付いていて良いんだけど,どうせ副題付けるなら,なんかもっと良いのはなかったのかね。ノストラダムスの予言にちなんでシンプルに「恐怖の大王」じゃダメかね?実際,空から降ってくるわけだし。『ブライトバーン/恐怖の大王』。

★★★★


メサイア・オブ・デッド(メシア・オブ・ザ・デッド)

(原題:Messiah of Evil)(アメリカ,1973)

ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は1968年で,『ゾンビ』(Dawn of the Drad)は1978年。

赤い月が昇るとき,その街の住人は目から血を流し,ゾンビと化す。って話だけど,全体にのったりまったりしてて,全然怖くない。



2025年4月4日

偽物論

尾久守侑 2022 金原出版

面白かった。尾久氏自身を含む一群の「偽物クラスタ」(造語)に含まれる人々についての考察。尾久氏の論は,前にも書いたけど,自己(の考察)に対して常に(強迫的に)客観性を保ち続けようとするところが,(自己演出的であれ)滑稽でありまた(自己演出的であるがゆえに)知的であり,面白いです。