2023年3月5日

刑事物語

(日本,1982)

久しぶりに,なんとなくまた観ました,武田鉄矢の『刑事物語』。昔,何度も観ているはずなんだけど,ああ,こういうストーリーだったかと,改めて思いました。意外とちゃんと覚えてないもんだなぁ,ストーリー。

武田鉄矢の蟷螂拳とハンガーヌンチャクにばっかり目が行って(まさに「舐めてた相手が実はカンフーマスターでした映画」),ストーリーや役者の芝居をちゃんと観てなかったんだろうけど,けっこう人間描写されてて驚きました。

片山刑事の一本気なところは,心底の正義感と親切心でもあるんだけど,その裏にはエゴも強烈にあって,そういうエゴと暴力性を抱え込むように,普段はおとなしくて優しい男を「演じて」いる。だから,帽子から靴まで全身「白」の服をまとっているのは,その外面的外殻的な純朴さの象徴である。しかし,昔,母親に捨てられた(育てられなくて預けられた)恨みと寂しさがトラウマになっていて,また,見た目のモッサリ感もあって,やたら言葉は多いけど,うまく相手(愛する女性)に本心を伝えられない,そういう矛盾を抱え込んで生きている,青年32歳(武田鉄矢,若い!)。

最後,犯人の居場所に乗り込むとき,片山刑事は同僚刑事にこういう。「憎むんですよ。憎むと人間の力は二倍にも三倍にもなるんです」。そう。片山刑事の心の中には憎しみがある。ただのずんぐりむっくりで朴訥な優しいだけの男ではなくて,その裏には,憎しみを原動力として生きるエゴと暴力性が住んでいる。

回想シーンから,昭和30年に少年(小学2~3年生?)だった設定だから,戦後まもない復興期に生まれたことになる。だから憎しみは,社会に対する憎しみであり,貧困に対する憎しみがあり,自分の生きてきた境遇への憎しみであり(預けられた警察官の親には感謝していて,だから今,自分も警察官になっている),孤独への憎しみであり,そこに,愛憎入り混じった実母への思慕,うまく女性と付き合えない自分に対するふがいなさなども複雑に絡んでいる。

今見ると,連続殺人事件の裏で暗躍する組織のやり口は荒唐無稽なところがありますが,武田鉄矢の強烈な芝居で,32歳の刑事・片山元がとがっていて,良いです,やっぱり。シリーズは5まであります。

★★★★


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