2021年11月17日

感情の哲学 入門講義

源河亨 2021 慶應義塾大学出版会

感情とは何かという問題,そして,感情にまつわる問題について,神経科学や心理学などの知見を元に解説している本。「感情の哲学」なんだけど,感情だけをテーマにしたら(講義する順番はともかく)僕ならほぼ同じような話をすると思うので,「感情の心理学」の本だとも言えます。大学での授業をベースに作っている,ということで,一般教養科目として大学生1・2年生対象の入門レベル。基本的には,感情に関する問題にまつわる標準的な理論や考え方,立場を紹介している内容なので,一つのテーマに踏み込んだものではないし(著者もそのようなものではないと宣言しているし),感情といえばこういう話があるよね,という基本事項をさっとなぞるには良い本です。

感情に興味があれば,こういう問題群があります,という意味で,心理学や神経科学をやりたい人は読んでおくと良い本だと思います。逆に言えば,この辺りを全然押さえないで自分のテーマだけの感情研究をやってる心理学者や神経科学者がいるとしたら,それは専門家としてちょっとどうかと思うので,感情研究者だと自負するならこのぐらいは知っておいた方が良い,そういう本でもあります。だから,テーマの網羅性という点でも,有意義な本と思います。

ただ,文末に「でしょう」が多くて,それがちょっと気になりました。


2021年11月15日

ミッドサマー

(原題:Midsommer)(アメリカ・スウェーデン,2019)

「ヘレディタリー」のアリ・アスター監督作品。「ヘレディタリー」がものすごく怖かったので,大いに期待してたけど,うううむ,なんだか全体的に「映画のセット」感というか「作り物」感がありすぎて,全然入れなかった。こういう因習もの?民俗もの?って,リアリティが肝なんじゃないかと思うんだけど,スウェーデンの奥,ヘルシングランドに住むホルガという共同体のリアリティがなさすぎる。

もしかしたら意図的にリアリティのないぐらい吹っ飛ばして作ったのかもしれないけど,もしそうなら,それが逆に裏目に出てる感じな気がします。期待してた分,あんまり面白くなかった。もっと逆なでするような怖さがグイグイ迫ってくるのかと思いきや,なんかのっぺりしてるし,共同体の儀式とか動作や行為のわざとらしさが鼻についてしょうがなかった。アリ・アスターの名作的な評価もあるけど,これ,けっこう失敗作なのではないかと思います。賛否両論あるでしょうね。

夏至祭だからみんな労働もせず,祭りを祝ってる,って設定も分かるけどね。村全体に生活感がなさすぎる。どうやって成り立ってんのよ,この村(むろん,映画内のセリフに説明はあるけどね)。なんか全部,小道具感高すぎて,もうちょっと何とかならなかったのかなぁ。

ちなみに,原題の「midsommer」はスウェーデン語でミッドソンマルと読むそうです。「夏至」って意味ですね。

【追記】あとから思い返して思ったのが,本作は,わざと全体に「(舞台)演劇的」にやってるのかも。例えば,主人公のダニーが泣き叫ぶ場面で村の娘達が一緒になって泣くのだが,そのときのカメラワークと娘達の位置が演劇的(テレビドラマ的)。俳優さん達の顔や演技が全部ちゃんとカメラに写るように,カメラ側に俳優がいない。映画なのに不自然。若者たちを村に迎えるときの迎え方。生活感のないミュージカル風な俳優の動き。儀式のときの村人達の立ち位置。部屋から部屋へ移動するときのカメラワーク。カメラは壁を無視して(横切って)移動。スタジオセット感まるだし。だから,建物がハリボテ感満載だったり,共同体の風習を描く絵画が安っぽかったり,死体がオモチャっぽかったりするのは,もしかして意図的なのかな?いやきっと,そうにちがいない。これは実際に存在する村ではなく,虚構ですよ,という暗示。虚構の中で問う家族とは何か人間とは何か生死とは何か。そういうことでしょうね,きっと。

★★


2021年11月12日

気にする心,気にしない心

つくづく思うに,私たちは,ほんとに色んな「べき」とか「ねばならない」といった思考に縛られている。実際はそうでもないのに,あるいは,もともとしたくて始めたことなのに,いつの間にか強く自分を縛っている。自分で作り上げた規則や義務に雁字搦めになっている。

だから,「べき」と思ってることや「ねばならない」と思ってることをあっさり捨ててみると,とっても楽である。身も心も楽になる。

でもなかなか簡単に捨てられないのは,他人にどう思われるか心配だからだ。ただ,他人に迷惑がかからない範囲ならどう思われても構わないと考えれば,捨てるところは捨ててしまった方が,明らかに楽である。

結局,人間は社会(他者)に縛られている。しかし,そう思っているのは私という個なのであって,思いというのは私という個が作っているのである。社会の中でこうありたいという思い(承認欲求)に動かされた思い(私的規則,私的義務)である。

意外と他人は私のことなど気にしてない。どうとも思ってないのが現実。だから,評価懸念なんてのは,詰まるところ,意識過剰なのだ。

人様に迷惑をかけない範囲の全てを手放したい。そう思って今までいろいろ手放してきたつもりだけど,まだまだ全然足りない。色んな思いがくっついてしまって離れない。

2021年11月。今月でとうとう50歳。この世に半世紀。けっこう長い。自分が50年も生きるとは思ってなかった。というわけで,これを機に,もっといろいろと手放せたら,もっと楽チンなことは明らかなので,楽な方へ楽な方へ,どんどん向かっていくことにします。

と,結局こうしてブログに書いてること自体,人にどう思われるか気になっている証拠(笑)。そもそもブログなどの発信メディアが,意識過剰ですね。他人を想定したメディアですからね。とても自己愛的で自己顕示的な行為。つくづくそう思います。

だから,書評だって映画評だって,つい悪いようには書かないようにと気にしながら書いてしまうわけです。これは疲れる。気を遣うから。だから,これからはあんまり気にせず,どう思われようが構わず,書きたいように書こうと思います。

もう50歳ですからね。人の評判気にしてたら,残りの人生モッタイナイ。ああ,こうして老害満点のジジイになってくんだなぁ。ジジイ道入門。これからは立派なジジイになりたいと思います。


2021年11月3日

樹海村

(日本,2021)

清水崇監督「犬鳴村」に続く「村」シリーズ(?)第二弾。富士の樹海には,自殺して死にきれなかった人が暮らす村がある。都市伝説をモチーフにした作りは,前作「犬鳴村」と同じ。「犬鳴村」は古い因習がテーマでしたが,今回もそうした因習も若干は含みつつ,中心は霊感の強い家系が引き寄せてしまう呪い,です。

こうして「樹海村」を観てみて「犬鳴村」と比べてみると,どちらかというと「犬鳴村」の方が面白かったかもしれません。「樹海村」も悪くはないですが,痛そうなのは嫌いです。刃物で切るようなやつ。

もう少し妹(ひびき)の方があれこれと巻き込まれていくのかと思いきや,だんだん姉(めい)の話になっていくのも,分かりにくかったし,その姉の恋人友人関係になぜいつも妹がくっついているのか(普通,姉の交友関係に妹が加わることはないでしょう),しかも姉妹が出だしから仲が悪いのはなぜなのか,分かりにくかったかも(その辺の理由があんまり説明されてない感じがしました)。

怖いかと言えば,うううん,あんまり怖くありませんでした。痛そうでした。思い起こせば,「犬鳴村」の方が怖かった。村シリーズ第3段「牛首村」というのも近々公開されるようですね。ううううううん,もう観ないかも。どうだろう。

★


2021年10月30日

寅さんの「日本」を歩く 寅さんの聖地探訪大事典

岡村直樹 2019 天夢人

「男はつらいよ」シリーズが好きな人は,最初から最後まで読み飽きません。著者は,映画評論家ではなくて,旅行作家(旅に関する著述家?)です。なので,全体としては著者の旅行記(日本各地の訪問記)なのですが,寅さんが映画の中で訪れた先について,映画の中のシーンと著者自身の知識とが絡んで,単なる映画解説に留まらない内容になっています。

旅行作家が本業とは言っても,「寅さん」ファンならず評論家として深い知識とデータを持っているので,映画シリーズそのものの情報から,映画に出てくる時代背景やアイテムに関する情報まで,ふんだんに込められています。

僕も「男はつらいよ」シリーズは昔から好きで,映画館には行ったことはないのですが,テレビで放映しているときは結構好んで観ていました。ここ最近はBSテレ東が土曜日の夜に全作放映しているので,撮りためては観たりしています。それでも,今回,この本を読んで,ああ,この作品はまだ観てないな,というのが数本ありました。48作もあれば,そりゃ,抜けてるのもありますよね。そんな,「まだ観てない」寅さんを,いずれ観たいと思っています。



2021年10月26日

ディレクターズカット/ブレード・ランナー 最終版 

(原題:Blade Runner: The Director's Cut)(アメリカ,1992)

1982年公開の「ブレード・ランナー」は,いくつかのバージョンがありますが,このディレクターズカット版が,リドリー・スコット監督の描きたかったバージョンだということで<最終版>となってます。他には,<完全版>とか<ファイナルカット>とかありますね。この<最終版>は,主人公デッカード(ハリソン・フォード)のモノローグを削除,デッカードの見るユニコーンの夢の挿入,エンディングの変更,などが他のバージョンとの違いです。

なぜブレード・ランナーを突然久し振りに観たかというと,今やっている後期の授業「心理学的映画論」の課題映画にしているからです。今週の授業で取り上げるので,改めて観てみた,というわけです。



2021年10月18日

1手ずつ解説!さばきの感覚が身につく棋譜並べ上達法 振り飛車編

佐藤慎一 2020 マイナビ出版

振り飛車の感覚というか,全体的な流れの感覚を掴みたくて買いました。タイトル通り,1手ずつ一言説明が付いていて,初心者にとっては非常に親切な本です。今の棋力の自分にはちょうど良い振り飛車解説書でした。

そもそもなぜこれを買おうと思ったかというと,いわゆる「棋譜並べ」というのが楽しそうだなと思って,実際に,NHKの「将棋講座」を買ってNHK杯の一局の棋譜並べをしてみたら,これが予想通り楽しかったために,であれば,振り飛車の棋譜集でも買ってみようと思ったのが始まりです。

もう一つ,定跡の解説書だと,どんどん枝分かれしていって,こうなったらこう,ああなったらこうと解説されていく,あの説明方法に疲れてしまいます。ある程度は知っておかないとそもそも将棋が分からないので,いくつかは読みました。ただ,人間は物理的に並列処理はできません。著者が定跡の分岐をいろいろと説明しようと思ったらその並列的な分岐を直列でしか説明できないわけで,こればっかりは仕方がありません。その点,棋譜並べは当然一本で流れていくので,行ったり来たり分かれたりしません。棋譜並べは好き嫌いがあるようですが,現段階の私はこれの方が好きです。将棋は趣味なので,強くはなりたいですが,無理して頑張るのも本末転倒なので,好きな方法で勉強しようと思うわけです。

それで,いきなり格好を付けて,鈴木大介プロの『中飛車名局集』なんぞを買ってみましたが,字は小さいわ(老眼にはきつい),解説は専門的だわ(初心者にはきつい)で,かなり手強かったので,まずは初級中の初級,1手ずつ説明しているこの棋譜集に辿り着いた,という次第です。棋譜並べをしてみたいけど,あまりにも専門的な本は読みづらい,という方にはオススメだと思います。

なお,同じ佐藤プロによる前著『1手ずつ解説!将棋の筋が良くなる棋譜並べ上達法』というものもあります。こちらは特に戦法を特定していませんので,まだ買っていません。とりあえず,振り飛車を徹底的に勉強したいなと思っています。とにかく初心者ですから,一つ戦法を決めて,それで色々と将棋のイロハを勉強するのが良いかなと思うからです。

戸辺プロの攻める中飛車が見ていてとっても気持ちよい戦い方なので,これは良いぞ!と最初,ある程度勉強してやってみましたが,思うに,攻める先手中飛車は,高度だと思います。差しこなすのは難しい。あれは中級者以上でしょう。各交換型の振り飛車なので,相手に攻め込まれるし,逆に手持ちの角をどう使って攻めたら良いかも見極めが難しいので,実際にアプリ(CPU)相手に指しても,なかなかうまくいきません。

これに対して,やっぱり,角交換しない振り飛車,ノーマル(クラシック,ベーシック)振り飛車が,初心者には向いていると思います。角交換はせず,無難にまずは美濃囲い。しっかり囲ってから,飛車を振った筋からじっくり崩していく。まずはやっぱりこれだと思って,今は「四間飛車」を勉強しています。

ああ,強くなりたいね~。将棋。


2021年10月15日

瞑想でたどる仏教:心と身体を観察する

箕輪顕量 2021 NHK出版

「NHKこころの時代:宗教・人生」のテキスト。テレビ番組のテキストなので(その番組自体は見ていないですが),分かりやすい文章と,それほど多くない分量で,読みやすかったです。

ブッダが起こした仏教の歴史に沿って,様々な時代,様々な地域で行われた仏教実践を,「心身の観察」という視点で読み解いた本です。結論としては,時代と地域で変容は遂げつつも,究極的には,いつのどこの仏教実践も様々な形で「止」や「観」が行われてきた,というものです。



2021年10月8日

1手ずつ解説する四間飛車

西田拓也 2020 マイナビ出版

「1手ずつ解説する先手中飛車」と同じシリーズ(「四間飛車」の方が先)。だいたい1ページ2~4手ずつ進めて1手ずつ意味を説明するので,非常に分かりやすい。将棋の手はすべて意味があるわけで,意味のない手はない!(無論,相手の出方を見たり,間を取ったりする手として戦局にほとんど関係の無い手を指すことはあると思いますが,それとて,「出方を見る手」「間を取る手」であり,意味があります)。

と偉そうなことを書いていますが,なるほど,この本を読めばそういう意味があるのかといろいろと発見がありました。一見関係なさそうだったり,意味が分からなかったりする手も,こうして丁寧に説明されると良く分かります。四間飛車というのがどういう方向性と戦略をもった形なのか,その入口が分かりました。

数手ずつの説明でもなかなか難しかったですが,何冊か読んでいる内に,盤上で駒を並べなくても段々分かるようになってきました。とポジティブに感じるのですが,しかし,それはもしかしたら,これの前に読んだ同シリーズ「先手中飛車」(戸辺誠著)の方がただ単に難しかったのか(中級者向け?),それとも,一般論として四間飛車の方が中飛車よりも分かりやすいのか,その辺はよく分かりません。

ただ,子どものように,とにかく何局も指して実戦で感覚を養うというパワーはないので,定跡書や棋譜並べや詰将棋で地道に勉強しながら少しずつ棋力を上げていく方が五十歳にはちょうど良いし,これがまた妙に面白い。

ちなみに,解説しているのは,角交換しないノーマルな(クラシックな,ベーシックな)四間飛車です。初心者である僕はまずここから。



2021年10月5日

1手ずつ解説する先手中飛車

戸辺誠 2021 マイナビ出版

戸辺流中飛車の戸辺誠プロの,先手番中飛車の本。2~5手ずつページが進み,その1手ずつ解説しているので,その点は初心者には親切。ただ,初心者にとっては,3手以上進むだけで盤上の駒運びが分からなくなるから,難しいときがある。1手1ページ解説が一番親切なんだろうけれど,そうすると,購買層が本当に自分のようなずぶの素人ばかりで売り上げが伸びない。となると,それなりに指せる中級者ぐらいまで手応えのある本を,と考えるとこのぐらいが限界でしょうか。

なので初心者にとっては,内容的には濃い。相手の出方によって何通りにも分岐するので,それを理解して展開を追いかけるのもなかなか至難の業。ただし,序盤から中盤までの展開の解説であって,「この辺までは先手優勢なので,あとは上手いこと優位に進めてね」というところまで。

とりあえず,まずは分かりやすそうな中飛車から手順や定跡をざっくり覚えて,この後,振り飛車(特に四間飛車)を勉強してみようと思っています。展開によって両方使えるように。