2023年3月31日

家へ帰ろう

(原題:The last suit)(スペイン/アルゼンチン,2017)

とても良い映画でした。

アルゼンチンに住む,頑固で偏屈な仕立て屋の老人アブラハム。たくさんの子供と孫に恵まれたが,悪くしていた右足はとうとう切断しなくてはならないほど悪化し,老人ホームに入れられることに。しかしその前に,70年前,ナチスの迫害から守ってくれた親友のいるポーランドに,ある約束を果たすために,一人旅立つ。それは,自分の仕立てたスーツを届けることだった。

★★★★


2023年3月24日

カオス・ウォーキング

(原題:Chaos walking)(アメリカ/カナダ,2021)

これはなかなか面白かった。良かった。

西暦2257年。人類は地球から遠く離れた惑星「ニュー・ワールド」に入植した。しかし,この惑星では,理由は分からないが,男だけ思考が外に漏れ出てしまう。思考は音声化(言語化)されたり映像化(視覚化)されたりする。だから男は昼も夜も騒々しく,頭の周りには常に何か七色の煙のようなものが立ち込めている。

青年トッドの住む村に女は一人もいない。なぜなら,この惑星の先住民スパクルにことごとく殺されたからだ。あるとき,地球から来た宇宙船から出発した偵察船(先発隊)が,大気圏突入時の事故で,トッドの住む村の近くに不時着する。生き残ったのは一人の女性(ヴァイオラ)。トッドが彼女を見つける。

主演は『スパイダーマン:ホームカミング』のトム・ホランド,監督は『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のダグ・リーマン。原作は,パトリック・ネスの『心のナイフ(原題:The knife of Never Letting Go)』。

ここで「思考が漏れる」というのは,自分の考えていることが他者に知られてしまい,他者の考えていることが分かってしまう,ということである。まさに統合失調症の症状である「思考化声」や「思考伝播」のような状態であり,これはかなり生きづらい。想像以上に生きづらい。

Never Letting Goという原作のタイトルも,思考(心)とは「手放せないもの」という意味もあるかと思います(それを手放していこうとするのが,マインドフルネス瞑想であり,仏道修行ですね)。

先住民スパクルとの関係も考えさせられるものがあります。映画も,単なる異形の野蛮な怪物ではなく,入植者である人類との関係を考えさせるように描いています。

★★★★


統合失調症

村井俊哉 2019 岩波新書

統合失調症の実際を,非常に分かりやすく解説した良書。統合失調症という疾患(症候群)を,治療する医師の立場から丁寧に説明しています。統合失調症に対して持っている思い込みやあいまいな認識が解消されて,かなりクリアになりました。良い本です。

奇しくも,今から59年前(1964年)の今日,「ライシャワー事件」が起きたと,NHKラジオ『マイあさ!』の「今日は何の日」で言ってました。


2023年3月21日

サイバー・ゴースト・セキュリティ

(原題:Nekrotoronic)(オーストラリア,2018)

邦題はイマイチ。原題の「ネクロトロニック」のままでも良いと思う。ちゃちいタイトルほど内容は薄くない。まぁまぁ良い映画。アクションも,悪魔や幽霊の造形や演出も,物語の設定も悪くない。

人間の魂を吸い取る悪魔(デーモン)と,それを退治するネクロマンサー(魔術師,悪魔ハンター)との戦い。現代の悪魔はネットに入って人間の魂を吸い取る。だから戦いの舞台はときどきネットを経由するわけだけど,実際は魂が移動するときにネット経由するぐらいで,バトルはリアル。だから,サイバー・ゴースト・セキュリティなんて,ちゃちい邦題つけずに,どうせ横文字にするならそのまんま「ネクロトロニック」(ネクロマンサーとエレクトロニックの合成語だろうね)で良いのに。その方が,「何これ?」って思うしね。「サイバー・・・」じゃ,ねぇ。

一番良いのは,主人公に憑りつく悪霊。主人公の親友(仕事の相棒)が殺されちゃうんだけど,主人公の魔術力でもって,不可抗力で悪霊になって主人公に憑りつくわけなんですが,これがなかなか良い味出してます。

★★★


シン・仮面ライダー

(日本,2023)

映画館で観ました。観客の9割は,50~60代でした。

★★★


2023年3月16日

2067

(原題:2067)(オーストラリア,2020)

やたらピンチや葛藤にさいなまれる主人公とその周りの登場人物の行動や態度の理由がいろいろとよく分からないところがたくさんあって,映画的ご都合主義のオンパレードかと思いきや,見終わった後にいろいろと反芻するに,まぁそれなりに辻褄は合っているような気がします。よく分からないところは,そこそこ解決されます。

しかし,なんで主人公のイーサンが大人になるまで(だいたい20年間ぐらい?)計画が実行されなかったのか,そこんところがやっぱりよく分からん。大人じゃないと操作できないとか,9歳の子供じゃ転送に耐えられないとか,人間を転送する技術に至るまで20年の時間を要したとか,何か一つ理由があればいいんだけど・・・途中で見逃したかな?(「技術を完成させるのに20年を要した」のかもしれません。もう一度観たら分かるかも)

タイムトラベルものです。壊滅的な環境破壊によって,人口酸素によって生き延びている近未来の地球。2067年。万策尽きたところで,407年後の未来から一つのメッセージが届いた。それは,「イーサン・ホワイトを転送しろ」であった。407年後に生き延びた未来人が,何か根本的な解決を与えてくれるのかもしれない・・・。

もう一つ分からない(引っ掛かっている)のは,イーサンの妻の態度と言動。なぜ未来へ行くことをそんなに奨めるのか。夫を愛する奥さんであれば,「あなた,そんな危険なところへ行かないで!離れ離れになるのは嫌!二度と戻ってこれない(会えない)かもしれないじゃない!」なんて言って別れを惜しむ(=イーサンを止める)どころか,むしろ行く方を推す,ってのはちょっとどうなんだろう?(何か裏があるんじゃないの?と勘繰るも,結局,裏はない)ここは,何かの使命感に駆り立てられて,危険を冒してまでも行こうとするイーサンを引き留める方が良くて,その引き留める妻を説得して,涙の別れ,って方が自然なんじゃないかね。葛藤を演出するにはその方が良いわけだけど,行きたがらないイーサンを行くように説得する妻の,行動原理が良く分からん。

もう一つ分からないのは,なぜ母親と9歳のイーサンは,父親の指示で「夜の散歩」に出かけるのか(実際,そのために,母親は殺されるのだが)。もう一つ決定的に分からないのが,・・・ああ,こう書き始めると,いろいろ分からないところがやっぱりたくさんあります。

★★


2023年3月13日

あなたの隣の精神疾患

春日武彦 2021 インターナショナル新書

春日武彦の本が好きで,昔けっこう読んでいましたが,久しぶりに数年前『鬱屈精神科医,占いにすがる』が出た時に読んだときに,ずいぶんウェットな感じになっていて読む気が失せていました。こんなにベタベタウダウダした人だったっけ?と。

今回この『あなたの隣の精神疾患』を読んだのは,精神疾患について一通り最初からおさらいしたいと思って,いくつか買おうと選んでる中で見つけたからです。

で,結論を言えば,昔の感じに戻ってました。精神疾患という,つかみどころがない,はっきりしない,あいまいな部分のある疾患とその患者に対して,一定の距離を保って(患者にも自己にも客観的に)向き合う感じが非常に安定している(その点が一見冷たく見える)ところが,とても良い。そうそう,こういうドライな感じ。

『鬱屈精神科医・・・・』のころはおそらく,御母堂が亡くなられたころに書かれたのもきっと関係しているのではないかと思います。あるいは,特にテーマのないエッセイ的な感じのものと,こうして「精神疾患について一通り,自分の臨床経験から解説する」というテーマがある場合とでは違うのでしょうかね。


2023年3月8日

モータル・コンバット

(原題:Mortal kombat)(アメリカ,2021)

おもしれー。最初から最後まで飽きさせない展開とアクション。真田広之キレキレ。理屈抜きで楽しいアクション映画。ストーリー上の主人公はコールという総合格闘家だけど,最初と最後の一番の見せ場はハサシ・ハンゾウ(スコーピオン)の真田広之です。ちなみにライデンは浅野忠信。

★★★


2023年3月7日

プロジェクト:ユリシーズ

(原題:Tides)(ドイツ/スイス,2020)

気候変動・伝染病・戦争などで居住不可能になった地球を脱出して,ケプラー209という惑星に移住した人類は,その惑星の環境から生殖機能を失ってしまったため,再び地球に帰還する計画を立てる。それがユリシーズ計画。先に探索のために向かった第一次計画のクルーからの通信が途絶えたため,第二次計画としてポッドで地球に降下する予定のクルー三人だったが,大気圏突入時の事故で海面に不時着時に一人死亡,もう一人も身動きが取れなくなる。一人探索に出るブレイクは,ひたすら続く干潟を歩くが,霧も出てきたのでポッドに戻ろうとする。しかし,そこで「人類」に襲われる。地球に取り残された生存者たちであった。

とまぁ,結果,地球で生き残った人類のコミュニティ(言語がすでに通じない!)に捕えられるのだが,そこから色々と謎が見えてくる。コミュニティを襲うまた別のコミュニティは一体誰なのか。第一次計画のポッドはどこにあるのか。ケプラー209から離れたことで,生殖は可能になるのか。

地球は,(おそらく)海面上昇してほとんどが海になり,干満を繰り返している環境。食料としては,主に甲殻類や貝類が捕れる。全体に湿気と霧で覆われている(気象病の僕には,この環境は見てるだけでつらいですわ)。ただ,なんで移住してたった二世代しか経ってないのに,こんなに言語が通じなくなってるのかよく分からなかったり,そんな遠い惑星に移住できる科学力がある割に着陸したポッドがけっこう今風だったり,そもそも植物が存在しないのになぜ酸素が存在するのかも謎だったり,といろいろ疑問はありますが,それなりに楽しめました。

設定が斬新かな。よくあるのは,環境汚染された地球から脱出,ってのはあるけど,これは,そこでも住めない(人類が絶滅してしまう)から戻ってくる,って設定です。

タイトルの原題は他に,The colonyというのもありました。tideは「潮汐(潮の干満)」って意味ですから,この映画の設定(干満を繰り返す海)になってます。colonyは「居留地」とか「植民地」とかですが,こちらの方が映画そのもののメッセージに近いかも。

★★★


2023年3月6日

カラー・アウト・オブ・スペース ─遭遇─

(原題:Color out of space)(ポルトガル/アメリカ/マレーシア,2019)

ラブクラフト原作の『宇宙からの色(異次元の色彩)』の映画化。ラブクラフトは,田辺剛のコミックで(のみ)読んでました。

人里離れた田舎に住む家族5人。ある日,庭に隕石が落ちてくる。それから色々と異変が起こるように。父親はニコラス・ケイジ。少しずつ,しかし確実に,崩壊していきます。そこは見ていて面白かった。まったく頼りにならないオヤジ・ニコラスの制御不能暴走映画ね。そこんところを中心にもっと徹底的に描いた方が良かったんじゃないかなぁ。そう思います。

それに,刃物で人体を切る場面は,あれって,ストーリー上,必要なのかね(二度,あります。母と娘)。生理的な嫌悪感を添えよう,ってことなのかな。要らないでしょう(本筋に影響しない)。人体破壊とかゴア表現とかモンスター化した動物で怖がらせるんじゃなくて,宇宙からの隕石の影響で(本来頼りになるはずの)父親がどんどん狂っていくところがミソ,なのではないかと思うからです。

★★



2023年3月5日

ザ・ヴィジル~夜伽~

(原題:The vigil)(アメリカ,2019)

【vigil】というのは,「寝ずの番,通夜,見張り」という意味ですね(「警戒,用心」という意味のvigilanceってのがありますね)。邦題の【夜伽】(よとぎ)は,「一晩中寝ないでそばにつきそうこと,または,それをする人」「死者のそばで,夜通し寝ないで守ること。通夜」の意味です。

敬虔なユダヤ教徒であったヤコブは,弟を見殺しにしてしまったという「後悔と懺悔の念」を持っている。そのせいで教会からも抜けて独りで暮らしているが,あるとき,教会の人間から,ある故人のshomerを頼まれる。【shomer】とは,ユダヤ教で,a male who watches over the body of a deceased person in the ritual of shemira(shemiraの儀式で亡くなった人の遺体を見張る男性)とあります。このshemiraというのは,ヘブライ語でwatchingやguardingという意味らしい。つまり,死んでから埋葬するまでの間,なくなった人の遺体を見張る,ユダヤ教の宗教儀式のこと。

ヤコブは,就職もままならず,毎日の生活にも困っていたので,交渉して400ドルで引き受けることに。認知症を患っている故人の奥さんもいるが,夜中は寝ているだろうし,明け方までの5時間の我慢だと自分に言い聞かせて,遺体のそばにいることに。しかし,どうもその家の様子がおかしい。

キリスト教の悪魔対決映画はよくありますが,この映画はユダヤ教。ユダヤ教だから,その悪魔(マジキム)ももっとずっと古の昔からいて,後悔と懺悔の念を持つ人間に取り付き,その魂を搾り取る。なかなか怖かった。ストーリーも分かりやすく上手にまとまっていて(変にごちゃごちゃしてなくて),人体破壊とかゴア表現とかで驚かそうとしてなくて,佳作。

★★★



刑事物語

(日本,1982)

久しぶりに,なんとなくまた観ました,武田鉄矢の『刑事物語』。昔,何度も観ているはずなんだけど,ああ,こういうストーリーだったかと,改めて思いました。意外とちゃんと覚えてないもんだなぁ,ストーリー。

武田鉄矢の蟷螂拳とハンガーヌンチャクにばっかり目が行って(まさに「舐めてた相手が実はカンフーマスターでした映画」),ストーリーや役者の芝居をちゃんと観てなかったんだろうけど,けっこう人間描写されてて驚きました。

片山刑事の一本気なところは,心底の正義感と親切心でもあるんだけど,その裏にはエゴも強烈にあって,そういうエゴと暴力性を抱え込むように,普段はおとなしくて優しい男を「演じて」いる。だから,帽子から靴まで全身「白」の服をまとっているのは,その外面的外殻的な純朴さの象徴である。しかし,昔,母親に捨てられた(育てられなくて預けられた)恨みと寂しさがトラウマになっていて,また,見た目のモッサリ感もあって,やたら言葉は多いけど,うまく相手(愛する女性)に本心を伝えられない,そういう矛盾を抱え込んで生きている,青年32歳(武田鉄矢,若い!)。

最後,犯人の居場所に乗り込むとき,片山刑事は同僚刑事にこういう。「憎むんですよ。憎むと人間の力は二倍にも三倍にもなるんです」。そう。片山刑事の心の中には憎しみがある。ただのずんぐりむっくりで朴訥な優しいだけの男ではなくて,その裏には,憎しみを原動力として生きるエゴと暴力性が住んでいる。

回想シーンから,昭和30年に少年(小学2~3年生?)だった設定だから,戦後まもない復興期に生まれたことになる。だから憎しみは,社会に対する憎しみであり,貧困に対する憎しみがあり,自分の生きてきた境遇への憎しみであり(預けられた警察官の親には感謝していて,だから今,自分も警察官になっている),孤独への憎しみであり,そこに,愛憎入り混じった実母への思慕,うまく女性と付き合えない自分に対するふがいなさなども複雑に絡んでいる。

今見ると,連続殺人事件の裏で暗躍する組織のやり口は荒唐無稽なところがありますが,武田鉄矢の強烈な芝居で,32歳の刑事・片山元がとがっていて,良いです,やっぱり。シリーズは5まであります。

★★★★


2023年3月3日

ガール・オン・ザ・サード・フロア

(原題:Girl on the third floor)(アメリカ,2019)

古い家に引っ越してくるため,夫が先に来て家の改築に。相当古くて改築もうまく行かないし,妙なことも起こる。すると,妙な若い女が現れる。

うううん。微妙だなぁ。とりあえず最後まで観たけど。


2023年3月1日

水怪 ウォーター・モンスター

(原題:Water Monster)(中国,2019)

人を襲って頭を食べる,沼に住む怪物。10年前に父親を殺された青年・水生は,怪物との戦いに挑む。

要するに,半魚人ですね。中盤で早々に,明るいところで姿を見せて,その気持ち悪さと不気味さをさらけ出すのはたいへん潔くて良いですが,そのせいで後半は見慣れてしまって,よくできたライダー怪人にしか見えなかった。

しかも,途中,マトリックスばりに水生らの攻撃をかわすライダー怪人。いったいどっちがメインなんだか。

★★