2020年12月25日

犯罪都市

(原題:The Outlows)(韓国,2017)

1990年代の実話を題材にした,ソウル市内のクムチョンでの暴力団抗争とそれを一掃しようとする警察の戦い。マ・ドンソク最高。そのずんぐりした巨体と顔。平手一発で悪い奴を吹っ飛ばす怪力。

無法には無法でとばかりに,街に巣くう暴力団組織をその圧倒的な迫力と目力でうまくまとめていたベテラン刑事のマ・ソクト(マ・ドンソク)。だがあるとき,朝鮮族(中国系)暴力団がやってきて,やたら刺すは切るはの残忍極まりないやり方でやりたい放題暴れ始め,クムチョンの裏社会のバランスが崩れ始める。

この朝鮮族暴力団(黒龍組)がもう残酷三昧。手をハンマーでつぶすわ,すぐナイフで滅多刺しにするわ,斧でぶった切るわ,そのあまりの残虐性に目を瞑りたくなります。ホラーです。特にその親分であるチャン・チェンは,もう怖い怖い。狂ってます。たけし映画に出てくるやくざも暴力的で残酷で怖いですが,韓国映画のやくざも十分に怖いです。

映画のラスト,ソクトのニカッと笑う顔が最高でした。

★★★


2020年12月19日

心理禅:東洋の知恵と西洋の科学

 佐藤幸治 1961 創元社

今更ながら自分の不勉強さに恥じ入ります。そして,恥じ入るとともに感動と歓喜の気持ちを抱いています。本書は,以前から存在することは知っていましたが,かなり古い本なので,なんとなく手に取ることなく過ぎていました。ちなみに,佐藤幸治先生は,僕が生まれる一月ほど前に66歳で亡くなっています。

まず,我が国では戦後ほどなく,すでに禅に関連する様々な研究がこれほどまで盛んにされていたとは思いもよりませんでした。当時は鈴木大拙を中心に海外で禅が紹介され注目されていた頃です。なのでもちろん,その当時から禅の研究がされていることは知ってはいましたが,どのくらい盛んだったか,当時の熱量までは分かりませんでした。しかし,何かのきっかけで本書を手に入れ,ようやく読んでみたわけですが,いやはや,今よりもはるかに熱い議論がされているように感じました。こりゃすごい。

この当時は生理心理学的な研究と言っても脳波や末梢反応ぐらいでしたが,それでもいろんな大学の著名な先生が禅の研究をしています。本書にはまた,ジェイコブソンの漸進的筋弛緩法だとかシュルツの自律訓練法だとかも出てきています。ヨーガや太極拳や肥田式強健術なんかも出てきます。当時から禅(坐禅)は身体技法だという認識の現れでしょう。

これは2020年の今,自分が「身体心理学」の授業で話していることそのままであり,な~んだ今から60年も前にすでに本になってるではないかと,深く感動したわけです。

マズローとか森田療法とかユングとか出てきて,これまた感動。日本感情心理学会の初代理事長であり同志社大学の総長も務められた故・松山義則先生が院生(?)として登場していて(p.78),時代を感じて感動。この他,ESPも出てくるし,アメリカの研究者からLSDもらってるし(!!なお,佐藤先生は使っていないと書いています:笑),猫の妙術もやオイゲン・ヘリゲルや白隠も出てくるし,当然,鈴木大拙や西田幾多郎も出てくるし,まるで煌びやかな遊園地か百貨店か宝石箱の如く,とにかく,自分が普段面白いと思うジャンルが,まるごとここに詰め込まれていました。

いやはや,ホントに恐れ入りました。限られた時間の中で,我々はつい,なるべく新しい著作や論文を読もうとしてしまいがちですが(そのように訓練を受けているためです),心理学の大先輩の著作(古典)も,ちゃんと読まなくちゃいけないことを,しみじみ感じています。

その一方,自分が今まで興味関心を抱いてきた射程は,一見脈絡がないように思われるかもしれないのですが,佐藤幸治先生とかなり被ることが分かり,相通ずる(もう亡くなれているからお会いできないので理解はしてくれないですが,僕の中では「理解者」と感じられる)先人がいたことに,深く安堵しています。佐藤先生の方向性の大枠は,東洋的な思想や文化を心理学的に研究することのようです。これ,今,自分がやっていることそのままです。

今更読んで感動している僕が言うのもどうかと思いますが,「身体」や「瞑想」をテーマに研究している人は,これ,必読書でしょう。絶対に読んだ方が良いです。



2020年12月13日

丈夫な身体

身体が丈夫な人がうらやましい。僕は背が高い方なので(176cm)丈夫に見られるけれど,全く丈夫ではない。小さい頃から頭痛持ちで胃腸も弱く,オマケに40歳を過ぎてからは膝や肩だとかが慢性的に痛い。

あっちこっち痛いから,身体に興味を持つのだとつくづく思う。これ,丈夫な人はきっと,身体に興味はないでしょう。だって,痛くなければ,身体は空気みたいなもんだろうから。痛いから,身体に気づく。痛みを何とかしたいと思う。あれこれ工夫する。工夫の先が武術や各種身体技法への興味関心へと向く。

そもそもブルース・リーに感動して武術に興味を持ち始めはしましたが,武術をやれば内臓が鍛えられる!なんていう効果に密かに期待していました。

なんと言いますか,このブログには,あっちが痛いこっちが痛いと,体調不良の話ばかり書いてるなぁと思って(笑),さて,理由を考えてみたわけですが,要するに僕は身体が丈夫ではないから身体に興味があるのだろう,というのが一つの答えです。と思うに,世の身体技法の創始者・発案者の逸話には,もともと当人が病弱だった,って話は多い気がしますから,僕のようなタイプはけっこう多いんじゃないでしょうか。

だから,50歳60歳になっても好きなだけ酒やタバコを飲んだり何でもたらふく食ったりできる人が,本当にうらやましい。70歳80歳になっても精力的に仕事をしている政治家や芸能人や経営者や各種団体組織の長をしているような人(←つまり,テレビで見るような人)には,心の底から感心します。きっと,そういうエネルギッシュな人たちは,基本的に身体が丈夫なんだと思います。

僕は元々そんな体力も気力もないので,なんとか人並みに休まないで大学の仕事を全うできるように,家族や大学に迷惑がかからないように,日々,工夫して身体を調えながら生きています。

股関節と真向法

朝の稽古のとき,一番最初に股関節をほぐすエクササイズをするようになって2~3か月経ちます。左足の膝の痛みは相変わらずで,この痛みを無意識に避けようとして変な歩き方や動きになっているのか,左足首と左股関節がときどき痛むのです。

膝が痛いのは慢性的で,これに対して足首と股関節は痛いときと痛くないときがあり,どういうときに痛くなるのかを日々模索しています。ただ,股関節のエクササイズをするようになってからは,股関節は痛まなくなってきました。やはり,身体は柔軟性が重要であることは確か。

前蹴りを蹬脚的にやるのは,筋力アップには確実に効果有り。階段上りも格段に楽になります。ただ,どうもやっぱり膝には良くない。そこで思い至った現在の結論は,足をまっすぐに伸ばしきること(ロックすること)が良くないようです。どうしても前蹴りのフィニッシュ位置で足を伸ばしきってしまいます。そうすると膝関節が軋む感じがします。

というのも,授業で一日何時間も立っているとだいたい膝に来ます。歩いていれば大丈夫でも,ずっと立っていると良くないわけです。同じ姿勢で立っていると膝が伸びきってロックしている状態になりますから。

普段の授業ではあちこち歩き回ってしゃべっていますが,特に今はコロナ対策で,飛沫拡散防止のためにずっと教室の前の教壇に立って,ほぼ同じ位置でしゃべっているため,膝がロックしている時間が長くなってます。

さて,そんなこんなで何か足に良い技法はないかと思って,そういえば,最近,BABジャパンが真向法の本やDVDを出していたことがどこか記憶に残っていたのか,ふと,「真向法」をやってみようと思い,ここ数日,やっています。ポイントの一つは<股関節>だろうということで。



「真向法」は当然,武術や身体に興味がある身としては昔から知っていたわけですが,その昔,若い頃はそれこそ,単なる柔軟体操ぐらいにしか思ってませんでした。

ただ,こうして年齢も50歳に近くなってきて,身体のあちこちが痛んだり体力が落ちたりして,なかなか若い頃のようには行かなくなってきますと,しみじみと老化を実感するわけですが,そうなると,シンプルで地味な運動によって養われる身体こそ,実は様々な生活上の動きの基本にあることが実感されます。

というのも,真向法ですが,これが,やってみるとなかなか良いんです(笑)。まだ始めて数日ですが,やったあと,身体が軽くなり,滑らかになった気がします。

そのときの自分に合っていたり,長年続いていたりする優れた技法は,始めた最初の頃がその変化を一番感じやすい時期です。だからそのうち身体や意識が慣れてきて如実な実感が伴わないと辞めてしまったりするわけですが(すなわち,三日坊主),こういうのは続けると良いだろうから,続けてみようと思っています。

そもそも真向法について一番勘違いしていたのは,これは柔軟性を高めるストレッチングなのではなくて,股関節を中心とした身体全体の体操なのだということです(この認識も間違っていたら,関係者のみなさん,スミマセン)。

結構,ぐいぐい動きます(笑)。いや,このことが分かったのは,YouTubeのおかげです。それこそ20~30年前は本しかなかったですから,単純に本からの知識だけに基づいて,単なる柔軟体操だと思ってたわけです。今回は,YouTubeを見て動作を確認したところ,前後運動をそれなりに激しく行うのだということが分かりました。こりゃ,単なる柔軟体操じゃないぞ。

やってみて感じているのは,股関節の柔軟性はもちろんですが,前屈したあとに必ず一度元の位置に戻すので,上半身を立てるためにインナーマッスルを使っている気がします。つまり,身体にとって重要な腰周りの柔軟性と体幹部の筋力を同時に付けている,そういう運動だと思われます。と思って,上記の「真向法で動きが変わる!」と同時に出ているDVDのパッケージを見たら,「倒す」と「起こす」がポイントだと書いてありましたね。


2020年12月8日

沖縄スパイ戦史

(日本,2018)

第二次大戦末期,アメリカ軍が沖縄に上陸し,日本軍との激しい戦闘がなされる。このとき,日本軍は沖縄に「陸軍中野学校」の青年将校を送り込み,部隊を組織し,遊撃戦(スパイ戦,ゲリラ戦)を展開した。

沖縄のことを知ることができると思って観ました。タイトルからはすぐに分かりませんが,この戦争末期の沖縄戦で駆り出されるのは,10代半ばの少年達。少年兵です。圧倒的な戦力のアメリカ軍に対して,完全に負け戦にもかかわらず,最後の抵抗とばかりにゲリラ戦を展開しようと少年達を招集し,山の中に潜みます。ただ,抵抗はほんのわずかで,敗走の一途。過酷な戦場を体験した少年達は戦後,PTSDに苦しみます。

波照間島から強制的に疎開させられて,多くのマラリアに罹って死んだり(戦争マラリア),敗戦後もしばらくは敗残兵が潜み,疑心暗鬼の中で民間人が殺されたり(スパイリストによる虐殺),心が痛む話が続きます。多くの沖縄の人が死んだ一方で,部隊を率いたり,強制疎開させたりした中野学校の将校たちは戦後,生き残っていることを思うと,なおさら心が痛みます。沖縄のことが少し分かりました。


2020年12月7日

マンディンゴ

(原題:Mandingo)(アメリカ,1975)

「町山智浩のVIDEO SHOP UFO」で紹介されていたので,録画しておいたものをようやく観ました。町山氏の解説付きで観た方が良いと思います。例えば,『泳ぐひと』という映画は以前から知っていましたが(「カルト映画」?として),町山氏解説付きで観たからこそ,その本当の?面白さと深さに脳髄が打たれました。この『マンディンゴ』も同じです。映画の舞台となっている時代背景だとか,映画監督の経歴だとか,公開された当時の反応だとか,そういうのって,情報として貴重だと思うからです。

一方で,何の先入見もなく鑑賞する,というのも映画の見方の一つだと思います。ただ,この『マンディンゴ』に関しては,鑑賞前の関連情報は重要な気がします。南北戦争前の,奴隷制がまだ存在しているときの話なわけで,当時のアメリカのことを果たしてどれだけ知ってるかというと,世界史や近代史をサラッとなぞったことがあるぐらいで,その筋の書籍や研究を読み込んでいなくては,きっと分からないであろうことが多い気がするからです。つまり,アメリカ人じゃないから,実感として(つまり肌感覚として)奴隷制や黒人差別がどういうことかって,たぶん,日本人の我々にはイマイチ分からない部分が多いと思うからです。まず,『マンディンゴ』というタイトルの意味を知るだけで,ものすごく不愉快で嫌な気持ちになります。

最近のBLM運動も,別に今に始まったことではなく,黒人差別は昔からずっと根強くあるわけで,その差別っぷりも尋常ではないわけで,それに対する抗議運動・改革運動は色々な形で続けられているのですが,その根底というか,もともとの経緯・歴史をアメリカに住んでいない我々が知る上では,こういう映画は一度は観ておくべきだという,そういう映画でした。

奴隷制肯定の時代の話なので,全編,人権を無視した(当時は黒人を「人間」とみなしていない!)観るに堪えない嫌な差別(というか虐待)のオンパレードなのですが,決して途中で観るのを止めたくなるようなものではなく,人の愚かさに気づかせてくれる,そういう映画です。

奴隷牧場(奴隷を増やして売る商売)を営む白人親子の家は奴隷売買で金持ちで,大きな屋敷なんだけど,全体にみすぼらしくくすんでいたり,窓も汚れていたり,ベランダや庭先も荒れていたりします(観ていると,すご~く気になります)。家というのは,そこに住む人の心あるいは人間性を表している,ということですね。金持ちなのになぜか家を綺麗に直さない(映画の中では,新築を建てるとか改装するとか言ってるけど,結局しない)。そうすることで,そこに住む人の心の卑しさを表現している,ということでしょうね。

★★★★


2020年12月5日

2001年宇宙の旅

(原題:2001: A Space Odyssey)(アメリカ/イギリス,1968)

また観たくなって観ました。前に観たときはもっとずっと長い映画と感じましたが,二回目だからか,そんなに長く感じませんでした。たぶん,「2001年宇宙の旅」に関する色々な評論や解説を読んだり聞いたりしてきたから,シーンやセリフを確かめつつ観たせいもあるかも。まぁしかし,これ,1968年の映画なんだから,すごいよね。

最初に観たときは,モノリスも何なのかさっぱり意味が分からないし,最後の木星に着いた後のサイケなシーンもよく分からないし,なんでこれが名作なんだといぶかしく思いましたが,映画関連の本を読んでいるとしばしば遭遇する解釈論に触れるにつれ,なるほどそういうことなのかと腑に落ちました。で,もう一度鑑賞。

ところで,改めて観て一つ疑問。物語の中心的要素の一つに,HAL9000の暴走というのがありますが,これ,そもそもHALはなんで狂うのでしょう?いや,物語としてコンピュータが狂う(故障する)直接的な理由はなんとなく理解できますが,「コンピュータが狂う」というのは間接的には何のメタファーなんだろうか,何を象徴してるんだろうか,どういうメッセージなのかなと思って。

合理的な論理計算や物理科学を超える(逆に言えば,理性は生命の成長や進化にとってマイナス?),ってことなのかな。それとも,どれだけ高度な演算処理ができても,決して人間は超えられない(コンピュータは人間にはなれない),ってことかね?

★★★★


町山智浩のシネマトーク:怖い映画

 町山智浩 2020 スモール出版

9本のホラー映画(最近の「ヘレディタリー」を除けば古典)について,いつもの町山節で徹底解説。縦横無尽に展開される知識は本当にいつも圧倒的です。だから,面白くてあっという間に読めてしまいます。

ただし,帯にある「町山智浩が恐怖の仕組みを解き明かす」とあるほど,<恐怖>とは何かを解明しようという感じではありません。ホラー映画にジャンル分けされる映画,あるいは,ジャンル分けしにくいけど怖い映画について,徹底解説している本です。

町山氏はジャンルを超えて色んな映画やその撮影秘話,俳優,原作などに恐ろしいほど詳しいわけですが,その中でも怖い映画にまつわる話が好きな人は是非オススメ。


2020年12月1日

よくわかるメタファー:表現技法のしくみ

 瀬戸賢一 2017 ちくま学芸文庫

瀬戸先生の『時間の言語学』(2017)を以前に読んで,その独特の語り口(文章)から広がるレトリックあるいはメタファーの世界,そこから展開する哲学的な世界は非常に面白かった。この本はそれ以前に書かれた本の文庫化(一部書き下ろしを加えて)ですが,独特の文章は相変わらず。内容も,メタファーにまつわる基本的な話が平易に書かれていて,入門書としても最適。この文章のように授業をしてるのかと思うと,こういう先生の授業を受けられる学生は本当に幸せだと思う。