2022年1月30日

ブラック・ボックス

(原題:Black Box)(アメリカ,2020)

Amazonオリジナル映画。端的に,面白かった。小さい娘を残して事故で妻と記憶を失った男が,記憶を取り戻そうとして催眠と脳波を用いたある治療法を受ける。すると,ありえないがしかし絶対に身に覚えのある記憶をありありと思い出すことに。

タイトルの「ブラック・ボックス」は治療装置の名前。100分なので,間延びせず,飽きさせず,展開に釘付けになり,からくりが分かってからも,さてこの先どうなるのかと,最後まで見逃せない。良く出来ている映画です。ネタバレしない方が面白い映画なので,このくらいに。

娘の,パパ思いの健気な演技がまた良いです。

★★★

2022年1月29日

EXO<エクソ:地球外侵略者>

(原題:SUM1)(ドイツ,2016)

原題は,主人公のコードネーム。侵略者(”EXO”と呼ばれている)によって地上は危険地帯となり,人類は地下へと避難した未来社会。侵略者の侵入を防ぐべく,地上の監視塔に配備される兵士の任務期間は100日。任務は,監視塔に一人で駐在し,侵略者の侵入をひたすら監視し続ける。任務に集中するため,遙か遠くにある隣の監視塔に行ってはいけないし,その監視塔にいる兵士と交信してもいけない。そんな孤独な任務の中,何日経とうが一向に侵略者の侵入はない。毎日毎日,「異常なし」の報告という単調な生活に,少しずつ精神が壊れていく。

とまぁ,設定は非常に良くて,興味をそそられました。全体的にチープな感じと間延びした感じは否めないですが,設定が良かったので目が離せず,途中までは「この後どうなるのか!?」「で,結局,事の真相は!?」とワクワクしましたが,後半から持っていくだけ持っていって,最後(結末)はイマイチでした。最初の設定を活かして,最後まで押し切るべきだったんじゃないかなぁ。

途中途中でやや意味が分からないエピソード(仕留めたヘラジカの生肉をかじるとか,全裸で外に出るとか。精神が崩壊して,高度管理社会から自然へと回帰する,みたいな意味なのか)が挿入されますが,それらが必要なのかどうか良く分かりません。

ドイツの作品ですが,全編英語だったと思う。英語吹き替え版だったからかね。

2022年1月27日

プラネット・オブ・ロボット

(原題:Robot World)(イギリス,2015)

いかんでしょう。これはいかんです。ポスターに偽りありです。○ャロに電話するぞ。と書きながら,きっと最後には何かあるのかもしれないという下心で最後まで観てしまった。特段,何もないです。ものすご~く間延びした,中身のうす~い,低予算感溢れる,出演者一人の映画です。

ディヴァイン・フューリー/使者

(原題:The Divine Fury)(韓国,2019)

divine furyは,「神の怒り」とでも訳せましょうか。原題のカタカナ読みより,もっと良い邦題を付ければ良いのに。「怒りの神拳」とか(ダサいか:笑)。展開もだらけず,けっこう面白い映画でした。エクソシスト対悪魔のアクション映画です。悪魔に取り憑かれた人の取り憑かれっぷりが,非常に良かった。最終の敵ボスも,気持ち悪くてなかなか良かった(気持ち悪くて良い,ってのも何ですが)。

小さい頃,ある事故で警察官の父を亡くしたヨンフ。神に祈ったが父は助からなかった。それから神を憎むようになった。成人して総合格闘技のスターになったあるとき,右の掌に身に覚えのない傷ができ,毎夜,うなされるようになる。原因が分からず,とうとう知り合いの霊媒師に診てもらうと,その霊媒師は自宅から見える教会に行けという。

韓国はキリスト教徒が多いので,街に教会があるのも自然だし,神父がいるもの自然なので成り立つ映画だと思いました。日本なら陰陽師とか密教系の加持祈祷師が出てくるところです。

★★

(r)adius ラディウス

(原題:Radius)(カナダ,2017)

車の事故から気がつき,助けを求めて街に向かうと,自分の行く先々で人がバタバタと死んでいく。何かの伝染病か。事故のせいか記憶がない。免許証を見ると,リアムとある。その免許証から自宅を捜し出し,ガレージに隠れていると,一人の女性が尋ねてくる。なんとこの女性も,記憶喪失で自分が誰だか分からない。ただ,自分の乗っていた車が事故を起こしたようで,その車の持ち主がリアムだったから,何かを知っているだろうと,訪ねてきたらしい。

何らかの事故で,どうも強力な放射線を発するようになってしまった男。ある一定の半径内に入る動物は皆,白目になってバタリと死ぬ。でも,尋ねてきた女性は何ともない。これはなかなか斬新で面白いアイディアの設定でした。展開も結末も,良かった。

radiusは「半径」という意味。「放射状の○○」という意味もあるみたい。放射性元素のラジウム(radium)と語源は一緒でしょう。

★★★

2022年1月25日

ジュピター

(原題:Jupiter Ascending)(アメリカ,2015)

これは観て損する映画。なんだこれ。ウォシャウスキー姉妹が監督の映画だから,ちょっと期待して観たけど,まぁ,とにかく,戦闘シーンやガジェットや設定を楽しませるだけで,ストーリーがぜんぜん面白くない。途中で観るのを止めました。

時間の無駄です,と書きたいところですが,しかし,無駄な時間などはないので,これもまた一つの体験として貴重でした。

囚われた国家

(原題:Captive State)(アメリカ,2019)

「マッチをすり,戦争を起こせ。抵抗する限りチャンスはある」

強力なエイリアンに支配された地球で,大半はその支配に服従し,監視された社会で生きている。圧倒的な科学力と戦闘力を有するエイリアンに,人類は為す術は無い。エイリアンの目的は天然資源の採取であって,採取しきるまで人間社会を管理し続ける。貧富の差と圧政に苦しむ人類だが,大半は抵抗することを諦めている。しかし,そんな中で,抵抗を諦めないレジスタンスが,密かに連絡を取り合い,活動する。

鎖骨辺りに埋め込まれたIDチップが「虫の幼虫」みたいだったり,攻撃してくる硬質な円盤部分の裏側は生のアワビみたいだったり,エイリアンは全身トゲトゲなんだけどそのトゲトゲはむけたりして,まるでウニのような感じ。この辺のディテールが斬新です。ハンターと称する攻撃部隊が宇宙から飛来するのも怖い。エイリアンは人間に作らせた地下深いところに住んでいたり(会うためにはすごく深いところまで降下しないといけない),エイリアン語の通訳がいたり(つまり,ヘンテコなエイリアン語が出てくる),高度に文明の発達した地球外生命体によって支配・統治される人類,という設定がリアルに描かれています。

「10クローバーフィールド・レーン」のハワード役のジョン・グッドマン,「死霊館」シリーズのロレイン・ウォーレン役のヴェラ・ファーミガが,重要な役で出ています。監督は,『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』のルパート・ワイアット。

これは観て損はない映画です。

★★★

2022年1月23日

コード・エイト

(原題:Code 8)(カナダ,2019)

人口の約4%が「超能力者」という世界。筋肉系,電気系,念力系,熱・火炎系などいろいろいる。かつては重宝がられたが,今では機械化が進み,超能力にそれほど意味は無く(むしろ無駄?),むやみに使うことが規制されている(超能力者は登録の義務がある)。といった具合に,なかなかグッとくる設定と世界観です。

超能力というと,つい,ヒーロー的な扱いになるのですが,この映画では逆に,むしろ面倒な力,隠しておくべき力,不要な力,無駄な力,という扱いになってます。その結果,超能力者が差別されています。加えて(これを加える必要があるのかどうか,むしろ過剰な気もするけれど),超能力者の髄液が強力な麻薬となっていて,裏取引されている,という設定も加味されています。

超能力者が差別される設定はXメンのミュータントも同じですが,ここでは,差別される超能力者が裏稼業・裏社会で使われるという設定は見ていて物悲しい。こうなる前に,もっと有効活用すれば良いのにと思うけれど,しかし,確かに意外と,「念力」とか「怪力」とか「電気」とか,機械があれば済むもんね。フォークが曲げられるからって,それ,何の得になるの?って話です。

ストーリーとしては,ネガティブなキャラクターアーク,つまり,主人公のコナー(電気系)は,好青年なんだけど,(超能力者ゆえに?)定職に就けず,病気の母の手術代を稼ぐために裏稼業に手を出す,という展開です。設定は斬新で良かった。ただ,話としてはよくある話な気がします。

★★

アド・アストラ

(原題:AD ASTRA)(アメリカ,2019)

宇宙飛行士のロイ(ブラッド・ピット)は,地球外生命体を探しに太陽系の果てまで行って消息を絶った父(トミー・リー・ジョーンズ)を探しに,宇宙へと旅立つ。

宇宙時代の近未来の設定や描写はイケてます。しかし,各所にツッコミ処満載(というか,説明不足?科学的整合性の荒さ?が目立つ)。テーマも,親子の葛藤で,ひねりもない。月面上の略奪者の目的は(何の目的で攻撃してくるの)?途中で救難信号出してた実験宇宙船の意味は(特に深い意味はない,物語上,必要か)?この他,父の元まで辿り着くための冒険を演出するために,ピンチが散りばめられるのですが,その必然性や収束性があんまりなくて,ただ散りばめただけ,って感じ。火星の地下研究所の所長は火星で生まれて火星で育ったって言ってるけど,火星に学校(所長になるぐらい高等教育を受けられるところ)とかあるわけ?父はどうやって何十年も宇宙の果ての宇宙船で生きられるんだ?帰りだって何十日もかかるのに食事や排泄はどうなってるんだ?などなどいっぱい。

物語の中でしょっちゅう「心理検査(psychologial test)」を行いますが,これは全編通して,情緒的な安定が宇宙旅行(ひいては近未来社会)には常に必要であり,逆に不安定な情緒は危険やリスクを伴うので薬物を使ってでも調整する必要がある,というメッセージになってます。この映画の主人公ロイも,今まで感情を押し殺して生きてきました,でも本当は悲しみや怒りや愛を感じたいし表現したい,というのがテーマです。が,これもまぁ,よくある話。つまり,「心理検査」と言いながら,情緒(感情状態)の安定性ですから,むしろ「感情検査(emotional test)」と言った方が合ってます。「心理=感情」です。(映画の中でも,セリフでemotional stateと言ってるし)

2022年1月5日

漫画サピエンス全史:人類の誕生編

ユヴァル・ノア・ハラリ(原案・脚本)ダヴィッド・ヴァンデルムーレン(脚本)ダニエル・カザナヴ(漫画)安原和見(訳) 2020 河出書房出版社

『サピエンス全史』の中の,人類(ホモ・サピエンス)がアフリカから出て世界中に広がるところまでを,分かりやすい漫画とセリフで解説したもの。『サピエンス全史』をそのままただ絵にしたわけではなく,ハラリ自身が登場して,いろいろな人や世界や時代を巡りながら解説をしていくスタイル。なので,『サピエンス全史』の内容をもう一度おさらいしつつ,ポイントを絞って分かりやすく語り直しているので,とても面白かった。

カラーだし,絵も良い味出してるし,ときにさりげなく皮肉も込められていたりして,漫画自体,面白い。「人類の誕生編」とあるので,きっと次回作もあるんだろうと思ってたら,「文明の正体編」がこの秋に出ましたね。早速買って読もう。

もちろん,『サピエンス全史』があまりにも良い内容だったものだから,当然,この漫画も良いだろうと思うのは早合点で,翻訳書は「訳者」がやっぱり半分は命です。翻訳者の日本語のセンスがイマイチだと,せっかくの良書も悪書に変わる。もちろん,悪書を良書にすることもあるだろうけど,そのケースは希でしょう。起こりうる可能性が高いのは,訳者が良書を悪書にしてしまうケースだと思います。

本書の日本語訳は,非常に良かった。一点の引っかかりもなかった。漫画のキャラクターにあった言葉を選んでいて,読みやすかった。日本語のセンスが良いのでしょう。人のことをどうのこうの言うのは簡単です。自分も,翻訳するときはそういう日本語選びを心がけたいものです。