2020年12月25日

犯罪都市

(原題:The Outlows)(韓国,2017)

1990年代の実話を題材にした,ソウル市内のクムチョンでの暴力団抗争とそれを一掃しようとする警察の戦い。マ・ドンソク最高。そのずんぐりした巨体と顔。平手一発で悪い奴を吹っ飛ばす怪力。

無法には無法でとばかりに,街に巣くう暴力団組織をその圧倒的な迫力と目力でうまくまとめていたベテラン刑事のマ・ソクト(マ・ドンソク)。だがあるとき,朝鮮族(中国系)暴力団がやってきて,やたら刺すは切るはの残忍極まりないやり方でやりたい放題暴れ始め,クムチョンの裏社会のバランスが崩れ始める。

この朝鮮族暴力団(黒龍組)がもう残酷三昧。手をハンマーでつぶすわ,すぐナイフで滅多刺しにするわ,斧でぶった切るわ,そのあまりの残虐性に目を瞑りたくなります。ホラーです。特にその親分であるチャン・チェンは,もう怖い怖い。狂ってます。たけし映画に出てくるやくざも暴力的で残酷で怖いですが,韓国映画のやくざも十分に怖いです。

映画のラスト,ソクトのニカッと笑う顔が最高でした。

★★★


2020年12月19日

心理禅:東洋の知恵と西洋の科学

 佐藤幸治 1961 創元社

今更ながら自分の不勉強さに恥じ入ります。そして,恥じ入るとともに感動と歓喜の気持ちを抱いています。本書は,以前から存在することは知っていましたが,かなり古い本なので,なんとなく手に取ることなく過ぎていました。ちなみに,佐藤幸治先生は,僕が生まれる一月ほど前に66歳で亡くなっています。

まず,我が国では戦後ほどなく,すでに禅に関連する様々な研究がこれほどまで盛んにされていたとは思いもよりませんでした。当時は鈴木大拙を中心に海外で禅が紹介され注目されていた頃です。なのでもちろん,その当時から禅の研究がされていることは知ってはいましたが,どのくらい盛んだったか,当時の熱量までは分かりませんでした。しかし,何かのきっかけで本書を手に入れ,ようやく読んでみたわけですが,いやはや,今よりもはるかに熱い議論がされているように感じました。こりゃすごい。

この当時は生理心理学的な研究と言っても脳波や末梢反応ぐらいでしたが,それでもいろんな大学の著名な先生が禅の研究をしています。本書にはまた,ジェイコブソンの漸進的筋弛緩法だとかシュルツの自律訓練法だとかも出てきています。ヨーガや太極拳や肥田式強健術なんかも出てきます。当時から禅(坐禅)は身体技法だという認識の現れでしょう。

これは2020年の今,自分が「身体心理学」の授業で話していることそのままであり,な~んだ今から60年も前にすでに本になってるではないかと,深く感動したわけです。

マズローとか森田療法とかユングとか出てきて,これまた感動。日本感情心理学会の初代理事長であり同志社大学の総長も務められた故・松山義則先生が院生(?)として登場していて(p.78),時代を感じて感動。この他,ESPも出てくるし,アメリカの研究者からLSDもらってるし(!!なお,佐藤先生は使っていないと書いています:笑),猫の妙術もやオイゲン・ヘリゲルや白隠も出てくるし,当然,鈴木大拙や西田幾多郎も出てくるし,まるで煌びやかな遊園地か百貨店か宝石箱の如く,とにかく,自分が普段面白いと思うジャンルが,まるごとここに詰め込まれていました。

いやはや,ホントに恐れ入りました。限られた時間の中で,我々はつい,なるべく新しい著作や論文を読もうとしてしまいがちですが(そのように訓練を受けているためです),心理学の大先輩の著作(古典)も,ちゃんと読まなくちゃいけないことを,しみじみ感じています。

その一方,自分が今まで興味関心を抱いてきた射程は,一見脈絡がないように思われるかもしれないのですが,佐藤幸治先生とかなり被ることが分かり,相通ずる(もう亡くなれているからお会いできないので理解はしてくれないですが,僕の中では「理解者」と感じられる)先人がいたことに,深く安堵しています。佐藤先生の方向性の大枠は,東洋的な思想や文化を心理学的に研究することのようです。これ,今,自分がやっていることそのままです。

今更読んで感動している僕が言うのもどうかと思いますが,「身体」や「瞑想」をテーマに研究している人は,これ,必読書でしょう。絶対に読んだ方が良いです。



2020年12月13日

丈夫な身体

身体が丈夫な人がうらやましい。僕は背が高い方なので(176cm)丈夫に見られるけれど,全く丈夫ではない。小さい頃から頭痛持ちで胃腸も弱く,オマケに40歳を過ぎてからは膝や肩だとかが慢性的に痛い。

あっちこっち痛いから,身体に興味を持つのだとつくづく思う。これ,丈夫な人はきっと,身体に興味はないでしょう。だって,痛くなければ,身体は空気みたいなもんだろうから。痛いから,身体に気づく。痛みを何とかしたいと思う。あれこれ工夫する。工夫の先が武術や各種身体技法への興味関心へと向く。

そもそもブルース・リーに感動して武術に興味を持ち始めはしましたが,武術をやれば内臓が鍛えられる!なんていう効果に密かに期待していました。

なんと言いますか,このブログには,あっちが痛いこっちが痛いと,体調不良の話ばかり書いてるなぁと思って(笑),さて,理由を考えてみたわけですが,要するに僕は身体が丈夫ではないから身体に興味があるのだろう,というのが一つの答えです。と思うに,世の身体技法の創始者・発案者の逸話には,もともと当人が病弱だった,って話は多い気がしますから,僕のようなタイプはけっこう多いんじゃないでしょうか。

だから,50歳60歳になっても好きなだけ酒やタバコを飲んだり何でもたらふく食ったりできる人が,本当にうらやましい。70歳80歳になっても精力的に仕事をしている政治家や芸能人や経営者や各種団体組織の長をしているような人(←つまり,テレビで見るような人)には,心の底から感心します。きっと,そういうエネルギッシュな人たちは,基本的に身体が丈夫なんだと思います。

僕は元々そんな体力も気力もないので,なんとか人並みに休まないで大学の仕事を全うできるように,家族や大学に迷惑がかからないように,日々,工夫して身体を調えながら生きています。

股関節と真向法

朝の稽古のとき,一番最初に股関節をほぐすエクササイズをするようになって2~3か月経ちます。左足の膝の痛みは相変わらずで,この痛みを無意識に避けようとして変な歩き方や動きになっているのか,左足首と左股関節がときどき痛むのです。

膝が痛いのは慢性的で,これに対して足首と股関節は痛いときと痛くないときがあり,どういうときに痛くなるのかを日々模索しています。ただ,股関節のエクササイズをするようになってからは,股関節は痛まなくなってきました。やはり,身体は柔軟性が重要であることは確か。

前蹴りを蹬脚的にやるのは,筋力アップには確実に効果有り。階段上りも格段に楽になります。ただ,どうもやっぱり膝には良くない。そこで思い至った現在の結論は,足をまっすぐに伸ばしきること(ロックすること)が良くないようです。どうしても前蹴りのフィニッシュ位置で足を伸ばしきってしまいます。そうすると膝関節が軋む感じがします。

というのも,授業で一日何時間も立っているとだいたい膝に来ます。歩いていれば大丈夫でも,ずっと立っていると良くないわけです。同じ姿勢で立っていると膝が伸びきってロックしている状態になりますから。

普段の授業ではあちこち歩き回ってしゃべっていますが,特に今はコロナ対策で,飛沫拡散防止のためにずっと教室の前の教壇に立って,ほぼ同じ位置でしゃべっているため,膝がロックしている時間が長くなってます。

さて,そんなこんなで何か足に良い技法はないかと思って,そういえば,最近,BABジャパンが真向法の本やDVDを出していたことがどこか記憶に残っていたのか,ふと,「真向法」をやってみようと思い,ここ数日,やっています。ポイントの一つは<股関節>だろうということで。



「真向法」は当然,武術や身体に興味がある身としては昔から知っていたわけですが,その昔,若い頃はそれこそ,単なる柔軟体操ぐらいにしか思ってませんでした。

ただ,こうして年齢も50歳に近くなってきて,身体のあちこちが痛んだり体力が落ちたりして,なかなか若い頃のようには行かなくなってきますと,しみじみと老化を実感するわけですが,そうなると,シンプルで地味な運動によって養われる身体こそ,実は様々な生活上の動きの基本にあることが実感されます。

というのも,真向法ですが,これが,やってみるとなかなか良いんです(笑)。まだ始めて数日ですが,やったあと,身体が軽くなり,滑らかになった気がします。

そのときの自分に合っていたり,長年続いていたりする優れた技法は,始めた最初の頃がその変化を一番感じやすい時期です。だからそのうち身体や意識が慣れてきて如実な実感が伴わないと辞めてしまったりするわけですが(すなわち,三日坊主),こういうのは続けると良いだろうから,続けてみようと思っています。

そもそも真向法について一番勘違いしていたのは,これは柔軟性を高めるストレッチングなのではなくて,股関節を中心とした身体全体の体操なのだということです(この認識も間違っていたら,関係者のみなさん,スミマセン)。

結構,ぐいぐい動きます(笑)。いや,このことが分かったのは,YouTubeのおかげです。それこそ20~30年前は本しかなかったですから,単純に本からの知識だけに基づいて,単なる柔軟体操だと思ってたわけです。今回は,YouTubeを見て動作を確認したところ,前後運動をそれなりに激しく行うのだということが分かりました。こりゃ,単なる柔軟体操じゃないぞ。

やってみて感じているのは,股関節の柔軟性はもちろんですが,前屈したあとに必ず一度元の位置に戻すので,上半身を立てるためにインナーマッスルを使っている気がします。つまり,身体にとって重要な腰周りの柔軟性と体幹部の筋力を同時に付けている,そういう運動だと思われます。と思って,上記の「真向法で動きが変わる!」と同時に出ているDVDのパッケージを見たら,「倒す」と「起こす」がポイントだと書いてありましたね。


2020年12月8日

沖縄スパイ戦史

(日本,2018)

第二次大戦末期,アメリカ軍が沖縄に上陸し,日本軍との激しい戦闘がなされる。このとき,日本軍は沖縄に「陸軍中野学校」の青年将校を送り込み,部隊を組織し,遊撃戦(スパイ戦,ゲリラ戦)を展開した。

沖縄のことを知ることができると思って観ました。タイトルからはすぐに分かりませんが,この戦争末期の沖縄戦で駆り出されるのは,10代半ばの少年達。少年兵です。圧倒的な戦力のアメリカ軍に対して,完全に負け戦にもかかわらず,最後の抵抗とばかりにゲリラ戦を展開しようと少年達を招集し,山の中に潜みます。ただ,抵抗はほんのわずかで,敗走の一途。過酷な戦場を体験した少年達は戦後,PTSDに苦しみます。

波照間島から強制的に疎開させられて,多くのマラリアに罹って死んだり(戦争マラリア),敗戦後もしばらくは敗残兵が潜み,疑心暗鬼の中で民間人が殺されたり(スパイリストによる虐殺),心が痛む話が続きます。多くの沖縄の人が死んだ一方で,部隊を率いたり,強制疎開させたりした中野学校の将校たちは戦後,生き残っていることを思うと,なおさら心が痛みます。沖縄のことが少し分かりました。


2020年12月7日

マンディンゴ

(原題:Mandingo)(アメリカ,1975)

「町山智浩のVIDEO SHOP UFO」で紹介されていたので,録画しておいたものをようやく観ました。町山氏の解説付きで観た方が良いと思います。例えば,『泳ぐひと』という映画は以前から知っていましたが(「カルト映画」?として),町山氏解説付きで観たからこそ,その本当の?面白さと深さに脳髄が打たれました。この『マンディンゴ』も同じです。映画の舞台となっている時代背景だとか,映画監督の経歴だとか,公開された当時の反応だとか,そういうのって,情報として貴重だと思うからです。

一方で,何の先入見もなく鑑賞する,というのも映画の見方の一つだと思います。ただ,この『マンディンゴ』に関しては,鑑賞前の関連情報は重要な気がします。南北戦争前の,奴隷制がまだ存在しているときの話なわけで,当時のアメリカのことを果たしてどれだけ知ってるかというと,世界史や近代史をサラッとなぞったことがあるぐらいで,その筋の書籍や研究を読み込んでいなくては,きっと分からないであろうことが多い気がするからです。つまり,アメリカ人じゃないから,実感として(つまり肌感覚として)奴隷制や黒人差別がどういうことかって,たぶん,日本人の我々にはイマイチ分からない部分が多いと思うからです。まず,『マンディンゴ』というタイトルの意味を知るだけで,ものすごく不愉快で嫌な気持ちになります。

最近のBLM運動も,別に今に始まったことではなく,黒人差別は昔からずっと根強くあるわけで,その差別っぷりも尋常ではないわけで,それに対する抗議運動・改革運動は色々な形で続けられているのですが,その根底というか,もともとの経緯・歴史をアメリカに住んでいない我々が知る上では,こういう映画は一度は観ておくべきだという,そういう映画でした。

奴隷制肯定の時代の話なので,全編,人権を無視した(当時は黒人を「人間」とみなしていない!)観るに堪えない嫌な差別(というか虐待)のオンパレードなのですが,決して途中で観るのを止めたくなるようなものではなく,人の愚かさに気づかせてくれる,そういう映画です。

奴隷牧場(奴隷を増やして売る商売)を営む白人親子の家は奴隷売買で金持ちで,大きな屋敷なんだけど,全体にみすぼらしくくすんでいたり,窓も汚れていたり,ベランダや庭先も荒れていたりします(観ていると,すご~く気になります)。家というのは,そこに住む人の心あるいは人間性を表している,ということですね。金持ちなのになぜか家を綺麗に直さない(映画の中では,新築を建てるとか改装するとか言ってるけど,結局しない)。そうすることで,そこに住む人の心の卑しさを表現している,ということでしょうね。

★★★★


2020年12月5日

2001年宇宙の旅

(原題:2001: A Space Odyssey)(アメリカ/イギリス,1968)

また観たくなって観ました。前に観たときはもっとずっと長い映画と感じましたが,二回目だからか,そんなに長く感じませんでした。たぶん,「2001年宇宙の旅」に関する色々な評論や解説を読んだり聞いたりしてきたから,シーンやセリフを確かめつつ観たせいもあるかも。まぁしかし,これ,1968年の映画なんだから,すごいよね。

最初に観たときは,モノリスも何なのかさっぱり意味が分からないし,最後の木星に着いた後のサイケなシーンもよく分からないし,なんでこれが名作なんだといぶかしく思いましたが,映画関連の本を読んでいるとしばしば遭遇する解釈論に触れるにつれ,なるほどそういうことなのかと腑に落ちました。で,もう一度鑑賞。

ところで,改めて観て一つ疑問。物語の中心的要素の一つに,HAL9000の暴走というのがありますが,これ,そもそもHALはなんで狂うのでしょう?いや,物語としてコンピュータが狂う(故障する)直接的な理由はなんとなく理解できますが,「コンピュータが狂う」というのは間接的には何のメタファーなんだろうか,何を象徴してるんだろうか,どういうメッセージなのかなと思って。

合理的な論理計算や物理科学を超える(逆に言えば,理性は生命の成長や進化にとってマイナス?),ってことなのかな。それとも,どれだけ高度な演算処理ができても,決して人間は超えられない(コンピュータは人間にはなれない),ってことかね?

★★★★


町山智浩のシネマトーク:怖い映画

 町山智浩 2020 スモール出版

9本のホラー映画(最近の「ヘレディタリー」を除けば古典)について,いつもの町山節で徹底解説。縦横無尽に展開される知識は本当にいつも圧倒的です。だから,面白くてあっという間に読めてしまいます。

ただし,帯にある「町山智浩が恐怖の仕組みを解き明かす」とあるほど,<恐怖>とは何かを解明しようという感じではありません。ホラー映画にジャンル分けされる映画,あるいは,ジャンル分けしにくいけど怖い映画について,徹底解説している本です。

町山氏はジャンルを超えて色んな映画やその撮影秘話,俳優,原作などに恐ろしいほど詳しいわけですが,その中でも怖い映画にまつわる話が好きな人は是非オススメ。


2020年12月1日

よくわかるメタファー:表現技法のしくみ

 瀬戸賢一 2017 ちくま学芸文庫

瀬戸先生の『時間の言語学』(2017)を以前に読んで,その独特の語り口(文章)から広がるレトリックあるいはメタファーの世界,そこから展開する哲学的な世界は非常に面白かった。この本はそれ以前に書かれた本の文庫化(一部書き下ろしを加えて)ですが,独特の文章は相変わらず。内容も,メタファーにまつわる基本的な話が平易に書かれていて,入門書としても最適。この文章のように授業をしてるのかと思うと,こういう先生の授業を受けられる学生は本当に幸せだと思う。


2020年11月29日

ピンポン

(日本,2002)

主演は,窪塚洋介とARATA。松本大洋の名作「ピンポン」が原作。脚本は宮藤官九郎だそうです。そもそも原作漫画は読んでいたから,面白いこと必至なんだけど,原作のキャラクターを上手に再現しているし,映画としてもよくできています。ずっと前に観たことはありましたが,また観てしまいました。やっぱり面白い。この前,ユニクロでコラボTシャツも買ってしまった。

登場人物のキャラが立っているのは松本大洋の特徴ある絵からして必然な部分はあるけれど,映画としてはやっぱり,中村獅童のドラゴン(風間)が良いよね。中村獅童でないとこのキャラは無理でしょう。

才能に甘んじて練習しないペコ(窪塚)とそれをあんまり面白く思っていない幼なじみのスマイル(ARATA)。スマイルは,ペコが負ける姿を見たくない。なぜなら,スマイルにとってペコはヒーローだから。これに絡むのが,ライバルの中国人留学生チャイナと最強高校生ドラゴン。

全然関係ないけれど,これを観て,そういえば「燃えよ!ピンポン」をまた観たくなってしまった。

★★★


インセプション

(原題:Inception)(アメリカ,2010)

クリストファー・ノーラン監督,レオナルド・ディカプリオ主演。ちょうど今,ノーラン監督の「テネット」という,どうやら噂ではかなりややこしい映画が上映中ですが,この前観た「インターステラー」といい「メメント」といい,時間をまたぐ(前後する,超える)ことがこの監督の趣味なのか,とにかく,この「インセプション」もややこしいぞ(笑)。

テーマは「夢と現実」かな。映画サイトの紹介にときどき「無意識」とあるけれど,無意識は覚醒中にも働いているわけで,決して眠る(夢を見る)必要はない。自由連想法によっても無意識の願望をすくい取ることはできる(とするのが精神分析)。ただ,フロイトが夢の中に無意識の願望が表れるとしたことから,夢を大いに活用したのもまた事実(それが夢分析)。

この話は,そういう願望充足の場である夢の世界に潜り込んで,特定の人物から秘密を盗み取るエージェントが,自分の無意識に抱える罪悪感と願望と戦いながら,ある難しいミッション(ある人物に逆にあるアイディアの萌芽を植え付ける:インセプションする)を達成しようとする,そういう物語です。

夢を見ているときは,それが現実だと思って夢と疑わない。夢だと自覚して観ている夢をいわゆる「明晰夢」というのもありますが,普通,自覚するとしても覚醒の直前ぐらいでしょう(練習すれば長くその状態を保てるという話もあります)。ただ通常は,夢は現実と変わらないリアルさを持って観ているものです。覚醒して初めて夢だと気がつく。だとすれば,今の現実はもしかしたら夢なんじゃないのか。だからこの映画を観てすぐ思いついたのは,荘子の「胡蝶の夢」の話。自分が蝶になった夢を観た荘子は,人間だと思っている自分はもしかしたら蝶が観ている夢かもしれないと思う。

なお,物語の構造としてややこしいのは,夢の中でまた夢を見て,さらにまた夢を見るという三層構造になっているところ。下の層にいくほど,時間は何倍にも長くなる。まるで相対性理論に基づくウラシマ効果的な設定になっています。「インターステラー」に通じます。

気になるのは,映画に出てくる「装置」を使ってつながると,ある人物の夢の中にみんなで一緒に入ることができるところ。なぜだ?(笑)しかもその装置は,ちゃっかり夢の中にもまた出てくる(だから,さらに夢の中で夢を見て,一緒に下層の夢に降りていくことができる)。

とまぁ,鑑賞後にいろいろと思いが浮かんでくる映画で,ややこしいですが,映像も綺麗だし,サスペンス・アクション映画としても面白いし,主人公の変化もまた面白いし,ラストも面白い。

★★★


2020年11月14日

人間と機械のあいだ:心はどこにあるのか

 池上高志・石黒浩 2016 講談社

2016年に,東大の池上先生と阪大の石黒先生の共同プロジェクトで「機械人間オルタ」というのを作って,日本科学未来館に展示・実験をした,というのを軸に,前半を石黒先生が,後半を池上先生が,アンドロイドや生命や人間について論じている本です。とても刺激的。

2016年の本なので,まさにオルタ展示の後すぐに出版されていて,プロジェクトの熱量を感じます。僕もこの本を2016年に読めばもっとワクワクしたかもしれません。ただ,本というのは縁ですから,辿り着いたそのときが読むベストなタイミングである,つまり,自分の方にそれを読む準備ができているからこそアンテナに引っかかる,と思っています。だから,今読んでこそ,刺激的に感じます。

石黒先生はアンドロイドを通して「人間とは何か」を問うことに究極的な目的がある。その中で,「「心」とは社会的な相互作用に宿る主観的な現象だ」と考えていると言っていますが,まさにその通りだと思いました。心理学には,Mind Perception(「心」があると感じるかどうか)という研究もあります。ただそれは「心」を客観的に捉えようとするとそうなるわけですが,では,今ありありと感じている私の主観的な意識のようなものを,機械でできたアンドロイドも持ちうるのかどうか,そこのところを考えていると楽しくて,いつまでも想像して終わりません。

一方,池上先生は人工生命の研究者で,「生命とは何か」を問うています。「生命」感も結局,「心」感と同じく,人間側から見る主観的解釈だ(石黒先生)と言えばその通りですが,池上先生は何かそこに物理的化学的な現象として表現できるものがあるのではないか,というようなことをしようとしているのだと解釈しました。

昔から自分で気に入っている講義ネタ(高校生や大学の初学者向け)に,『ブレードランナー』『ターミネーター』『アンドリューNDR114』なんかの映画を例にしながら,心理学が対象としている(ということに表向きなっている)「心」というものを考えてもらい,「心理学」という怪しい学問のきわどい性質を考えてもらう,というのがあります。この「心とは何か」というのは,結局,「人間とは何か」という問いであり,「心」が機械と人間を分かつものだとすれば,そして,機械は非生命で人間は生命だとすれば,結局,「生命とは何か」という問いと等しい。

心理学をやる人は,だから,こういう話も読んでおいた方が良いよね。オススメです。


2020年11月10日

言葉を練る

 この10年余り(2010年代),「身体」を中心にあれこれ考えたり,実践したり,書いたりしてきましたが,この1~2年,「言葉」の深さと面白さに改めて惹かれています。特に言語学,その中でも特に日本語の認知意味論に強い関心を持っていて,いろいろ読んだり探ったりしています。楽しい。

そこで,本ブログの副題に,「言葉を練る」を加えてみました。身体を練る,言葉を練る,心を練る。(ついでに,背景の画像もリニューアル。ただしかし,テーマは引き続き「水」です。禅とタオの極意ですからね~)

ちなみに,その前の10年(2000年代)は,筆記開示(感情の言語化)というやつをテーマに研究していましたので,そういう意味では「言葉」に再び戻るような感じになるわけですが,決して「言葉」だけをまた中心にやろうというわけではなく,「身体」ばかりでなく「言葉」もまたじっくりやろうと思っている,ということです。

禅は「不立文字」で極めて身体的であり,武術もまた身体的であり究極的には言葉を介さないわけですが,それでも言葉を駆使するのが人間です。言葉というものの性質を知り,長い歴史を経て形成されてきた言葉(日本語)を眺めることは,人間(日本人)を眺めることと同じです。そういうものである言葉を練っていくこともまた,身体を練ることとともに,結果的に心を練ることにつながっていきます。というか,身体を練り,言葉を練ることは,そのままつまり,心を練ることなのだと思います。リサ・フェルドマン=バレットも,京極夏彦も,大切なのは言葉なのだ!と言っています。

ずっと別のブログとして書いていた書評も映画評を,このブログに統一・合流させました。こうした書評も映画評も,言ってみれば言葉を練る一つの実践です。そもそもこうしてブログを書いていること自体がそうですね。誰が読むでもない(笑)ブログは,誰が読むわけでもないけれども,一応,公開されているがゆえに,それなりに客観性(他者視点)を保ちながら言葉を綴ることのできる(点で都合が)良い媒体です。ブログは言葉を練る修行(稽古)ですね。


2020年11月9日

メメント

(原題:Memento)(アメリカ,2000)

妻が殺され,そのとき自分も頭に怪我をした後遺症で記憶障害の一つ「前向性健忘」になった男が,妻の復讐のために奔走する話。前向性健忘とは,発症以前の過去の記憶は残っているが,発症以後の新しいことを記憶できない(物語では,10分ぐらいで忘れていく),という症状である。

クリストファー・ノーラン監督の,ものすごく奇妙な映画。時間軸通りに進むことを「前進」とすれば,この映画は時間軸に沿って「後退」していく構造になっている。つまり,113分の映画そのものは(当然)我々の時間軸通りに「前進」していくのに,話はどんどん「後退」していくのだ。ややこしい。ものすご~くややこしい(笑)。もちろん場面場面は「前進」しています。決して巻き戻し映像を見ているわけではない。場面が切り替わってどんどん「後退」していくのである。なお,冒頭の場面は,この映画が「後退」の物語であることを暗示するために,あえて巻き戻し映像を見せています。

先の場面で繰り広げられるやりとりが,後の場面で明らかになっていく。だから構造自体は謎解きの連続になっている。でも(だから),観ていて,今,時間軸上のどこにいるのか混乱する。この混乱はある意味,記憶障害である主人公の主観の混乱を暗示しているのかもしれない。

10分で忘れてしまう症状を自覚している主人公は,忘れないように,ポラロイド写真を撮り,メモを取り,自分の身体にタトゥーを入れる。毎度毎度,写真を見て人物や場所を確認し,メモを見て判断し,タトゥーに気づいて考える。タイトルの「メメント(memento)」は,(過去を思い出すための)思い出の品,という意味ですね。

混乱必至の映画なので,観た直後の頭の中はすっちゃかめっちゃかですが,人間というのは,「整理されていないと反すうする」傾向があります(これを,埼玉学園大学の遠藤寛子さんと私は,「思考の未統合感」と名づけています)。だから,この映画のことが2日間ぐらい頭から離れなかった。で,ようやく書いています。どうも最近の映画の傾向として,こういう,極端にややこしい映画が流行ってると言われますが,そうすることによって謎が残るために余韻が残る,というのはありますね(だから,戦略的にややこしくする,ということもあると思います)。

★★★


2020年11月5日

蹬脚

 太極拳(中国武術)には,「蹬脚(とうきゃく)」という蹴り技(蹴り方)があります。英語で言えば,Heel Kickになります。日本語に訳せば,「かかと蹴り」でしょうか。


太極拳の場合,この蹬脚を「ゆっくり」行います。非常に難しい。まず,脚が上がらないし,上げたところで保てません。一つには筋力の問題だと思うし,一つにはコツ(身体の使い方)だと思います。力と技の両方ですね。

膝がなかなか良くならないのは,太ももとお尻,要するに腰周りから下半身にかけての筋力不足のせいだろうと思い(僕はどちらかというと脚が細い),何か良い方法はないだろうかと考えていました。単純にスクワットとかのような,いわゆる「筋トレ」は大嫌いです。

そこで,空手の「前蹴り」を太極拳の蹬脚のように「ゆっくり」とやってみようと思い立ち,ここ1ヶ月ぐらい,毎朝やっています。これがなかなか,良い。想像以上に鍛えられている感じがします。

膝が悪いのにスクワットとかすると膝に負担が掛かって余計に痛くなります。水泳や水中ウォーキングでも,結局,膝に負担がかかるので,痛くなります。膝の痛みを無くすために筋トレをすると余計に痛くなるという悪循環。そこで,いかに膝に負担を掛けないで下半身の筋力強化をするか,しかも,楽しく強化するかを考えて,「蹬脚的前蹴り」に辿り着きました。タイチー空手です。

太極拳の蹬脚のように斜め横方向に蹴り出すと,軸足の膝がねじれて痛いので,僕の場合は素直に空手の前蹴りが自然でした。人によって身体の構造は若干違いますから,軸足に対してどちらの方向に蹴り出すのが自然かは,人それぞれだと思います。試してみたい方は,自分の身体と相談しながらやってみてください。


なお,空手の前蹴りですが,稔真門では,つまり,小林先生や西田先生の教えでは,蹬脚のようにかかとを出して蹴ります。かかとで蹴るわけではありません。前蹴りとは,かかとを出すように蹴り跳ねることで,足先(上足底)によって急所を下から蹴り上げる技だからです。

相手との距離が遠ければ,足首を伸ばして甲で蹴っても良いですが,伸ばして蹴ると足の指先や足首を痛める可能性があります。ですから,基本的には上足底で下から金的を蹴り上げる。これが前蹴りです。

一般的には足首を伸ばして上足底で中段や上段に蹴り込むような前蹴りを習うのだと思いますが,それはそれで間違ってはいないと思います。ただ,我が稔真門では,かかとを出す感じで蹴ります。それも決して金的(急所)より上を狙うことはありません。護身的な実戦を考えれば,必然的な結論ですね。


2020年11月4日

気持ちをあらわす「基礎日本語辞典」

 森田良行 2014 角川学芸出版

1989年出版の「基礎日本語辞典」(森田良行,角川書店)から,気持ちに関わる言葉を抜粋して再編集したもの。一つ一つの項目(言葉)に関する解説はとても丁寧で,森田先生独特の表現で語られていて面白いです。

ただ,本として読むのはちょっと退屈でした。「あ」から始まって五十音順に言葉が出てくるのですが,当然,各言葉の間には関連はありません(関連語は出てきますが)。やっぱり,知りたい言葉を探して辞書を引くのは楽しいですが,ただ淡々と最初から読むのは楽しくないですね。

知りたい言葉だけ飛ばし読みしました。


2020年11月3日

エリジウム

(原題:Elysium)(アメリカ,2013)

富裕層は無菌的に守られた豊かなスペース・コロニー「エリジウム」に住み,貧困層は荒廃した劣悪な環境の地球に住む。こういう設定は良くあるし,個人的には好きだけど,この映画はなんというか,全体的に薄っぺらい。

主演はマッチョなマット・デイモンなのに,格闘技的なマニアックなアクションはほとんどないに等しい。もったいない。致死量を超える放射能を被曝してふらふらなのに(余命五日!),神経につなぐパワードスーツで改造されると,会話も表情も動きも元通り。監督としては敵となる殺し屋を暴力的で変態的で危険な人間に描こうとしているのだろうだけど,そのためか,この殺し屋の殺し方が,敵を爆死させたり刀で切ったり,というグロな方法。シンプルすぎ。ちなみに自分も顔が吹っ飛ぶ(けど,科学の力で復活。おいおい)。

エリジウムの映像は美しいし,宇宙都市は良く出来ている。それに地球の荒廃ぶりも良く描かれている。だけど,どうやって経済が成り立っているのかがイマイチ分からない。やっぱり,地球の貧困層が搾取されている,的な描写や説明は初めの段階でもっと必要かも。

他にも,地上から撃った携帯型ミサイルで宇宙を飛んでいるシャトルを打ち落とすとか,簡単に(10数分で?)シャトルでスペース・コロニーと地球を行き来できてしまうとか,極めて重要な人物が地球にいて簡単に襲撃可能な工場の庭から護衛もほとんどなくシャトルで出発するとか,ノートパソコン一つで結構サクサクとコロニーの中を侵入できちゃうとか,とにかく,全体を通してちょっと気になるご都合主義が多すぎるね。


2020年10月31日

映画評論・入門!:観る,読む,書く

 モルモット吉田 2017 洋泉社

映画評論とは何か,ということを考えるために,映画評論の略史や定義を検討してみたり,戦後の映画評論を振り返ってみたり,映画評論にまつわる論争を紹介したりしながら検証している本です。ただの観賞記録や感想ではなく,評論とするにはどうすれば(どうなっていれば)良いか,ということを,理論的にというよりは実際例を踏まえながら考えていく,そういう構成になっているので,理屈っぽくなくてとても読みやすい。

専門用語なんかが並んでいて,部外者・門外漢・一見さんはお断り,的なオーラを出す本がときどきありますが(専門書に多いね),この本は,読んでみて「映画評論は難しいなぁ」とは絶対に思わないどころか,むしろ「映画評論をしてみよう」と思える良書です。

僕がときどき書いてる映画評は,ほぼほぼ感想に近い他愛のないものですが,本書を読めば,感想だって深めれば評論になる,というようなことも書いてあって,まぁそういう意味では難しく考えず,備忘録がてら自分で楽しく映画評を続けようと思ってます。でも,どうやったら感想が評論になると言えるかも,この本を読めば分かりますから,これからはその辺もちょっとだけ意識しながら,映画評を書いていこうと思いました。


2020年10月26日

『ニュートン』12月号発売!

 月刊科学雑誌『Newton(ニュートン)』の12月号が,本日発売です。特集は「ゼロと微分積分」ですが(残念ながら全く興味は無い),今号の<トピック>というところで,私が監修した「怒りの心理学」という記事が載っています。8ページですから,結構たっぷり載っています。12月号の表紙をよく見ると,左上に小さく載ってますね。

ご興味ご関心のある方は,是非!

科学雑誌『Newton』


ミュータンツ:光と闇の能力者

(原題:Stray)(アメリカ,2019)

アメリカにひっそりと住む日本人の母娘。あるとき,外出していた母が遺体で見つかる。その遺体は石化していた。残されたのは娘と祖母。この事件を担当することになった(何やら訳ありの)女性刑事は,娘の不思議な力に気づく。

ロックミュージシャンのMIYABIが敵役。原題はstrayなので,「迷子」とか「野良犬」とか,そういう意味でしょう。実際,この敵役のMIYABIの復讐がストーリーの本筋なので,この原題は良いと思うのですが,邦題はちょっとどうなんでしょう。どこが「ミュータンツ」なのか。超能力を持っていればそれ,ミュータントなの?Xメンかよ。

「光と闇の能力者」ってサブタイトルも,『PUSH:光と闇の能力者』(2009)をそのままパクってるし(笑)。『PUSH』は世界観とサイキックバトル描写が面白い映画だから,PUSHにあやかって観てもらおうという配給会社の魂胆が・・・と,自分もそれにつられて観てしまった。

それに,PUSHと違って,こっちはサイキックバトルの場面はほとんどないです。母の死も,最初,煽るだけ煽るけど,そんなに恐ろしく(悲惨な)描写じゃないし。そもそも,世界を揺るがすような大きな力と力のぶつかり合い,というよりは,なんだかとってもごく個人的な(家庭内の?ドメスティックな?)問題のようなレベルで,能力者である二人の潜在的な凄さ(破壊性や影響力)がイマイチ伝わってこない。

でもとりあえず,最後までは観ました。


2020年10月25日

夢ナビ「Zoom質問コーナー」

 受験生向けにフロムページがやっている「夢ナビ」という企画事業があり,今年はコロナ対応で,事前に撮影した講義動画を視聴してもらい,10月25日(日)の午前,その講義に関する質問コーナーということで,Zoomで30分の質問回答を3回,計90分,行いました。

主には関東周辺の高校生(1~2年生が中心)からの質問に答えました。各回,50~60名ぐらいはいたかと思いますが,いずれも大半がビデオOFFで顔出ししないのはちょっと戸惑いつつも,顔出ししてくれている10名ぐらいの生徒さんたちに向けて語りました。

夢ナビ

夢ナビ「湯川のページ」

上記のページに,怒りに関する講義の概要が載っていますので,良かったらご笑覧ください。そのうちこのページの下の方の余白に,講義動画のダイジェストが掲載されるのではないかと思うのですが・・・よく分かりません。動画が掲載されたら,そちらも良ければどうぞ。



2020年10月23日

地獄の楽しみ方(17歳の特別教室シリーズ)

 京極夏彦 2019 講談社

絶対に読んだ方が良い。特に心理学とかコミュニケーションとか人間関係とかをやる人,その初学者は絶対に読んだ方が良い。いや,初学者じゃなくても,ここんところをよく分かっていないプロの心理学者(大学教員,研究者)だって大勢いるんじゃないかと思います。だから,心理学者を自称する人にはとりあえず読んでもらって,ここに書いてあることに全くピンと来ない人は,心理学者は辞めた方が良いでしょう。ヒトという存在について,非常に大切なことがキッチリ書かれています。言葉がいかに重要かが,とても分かりやすく書いてあります。なにせ,対象は17歳ですから,ものすごく分かりやすく書いてあります。大人も必読です。

この本の最重要な結論の一つとして,語彙は豊富な方が良いよ,というのがあります。これは,リサ・フェルドマン・バレットの構成感情論(構成主義的感情理論)の結論とも一致します。その理由も要するに同じ。希代の小説家と神経科学者の結論が同じ,ということは,たぶん,これが結局,揺るぎなき真理なのだと思います。で,語彙を増やすには本を読むこと。王道です。

なので,本書も絶対読んだ方が良いけれど,京極の小説を読むと良いです。


2020年10月19日

キャラクターからつくる物語創作再入門:「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ

 K・M・ワイランド(著)シカ・マッケンジー(訳) 2019 フィルムアート社

物語(ここでは特に「映画」)は,プロット(構成)とテーマ(主題)とキャラクター(登場人物)の3つの柱からなり,そのうち,キャラクターはプロットと絡みながら物語を通してどのように変化していくか(アークするか,弧を描くか),それが物語としての面白さと深みを増すポイントであることを解説した本。変化(アーク)の仕方は3種類,ポジティブとフラットとネガティブ。

映画の構成についてもよく分かる良書だと思います。難しい用語はほとんど出てこず,誰でも理解できる言葉でアークの詳細が述べられています。なるほど確かに良い映画はこういう風にアークしてるよなぁと,つくづく納得。

来年度から,経営学部向けに「映画論」の授業を開講する予定なので,その参考書にしよう。


パシフィック・リム:アップライジング

(原題:Pacific Rim Uprising)(アメリカ,2018)

ギレルモ・デル・トロ監督の怪獣VS巨大ロボット映画の第二弾(今回,デル・トロ監督は製作)。「イェーガー」という,二人で操縦する巨大ロボットが,プリカーサーと呼ばれる異星人によって地底の裂け目から送り込まれる怪獣と戦う。

日本のロボットアニメや怪獣ものへのリスペクトでいっぱい。最後の決戦も日本(富士山)でだし,街中に立ってるガンダムの彫像も出てくる。東京の描写で街中の広告文字が簡体字だったり,富士山にマグマの見える火口があったり(たしかに活火山だけど,火口はないぞ),その辺は日本人的には「うううむ」と思うところはありますが,ご愛敬。環太平洋防衛軍の司令官がマックス・チャンなのは嬉しい(ただし,カンフーは残念ながらゼロ。チラッとだけでもやればいいのになぁ)。

楽しく観られます。でも,ロボット対怪獣というのをリアリティのある設定でもってハリウッドでやった一作目の方がやっぱりインパクトはありました。二作目って難しい。

★★


2020年10月17日

ホンマでっか!?TV

 水曜夜9時からフジテレビで放送されている明石家さんまさんの『ホンマでっか!?TV』に,評論家として出演します。「感情心理評論家」ということで。

オンエアは,10月21日(水)です。もしお時間あれば是非。



2020年10月16日

『からだ巡りヨガ』

 僕が学んだ「経絡YOGA」の高村マサ先生の本が出ました!

『からだ巡りヨガ』


「経絡YOGA」とは,東洋医学とヨガを融合させたアプローチで,マサ先生オリジナルのヨガです。経絡を理論に取り入れているヨガは,他には例えば「陰ヨガ」などがありますが,マサ先生の「経絡YOGA」は,より積極的に経絡や経穴(ツボ),東洋医学の自然観(陰陽五行論)を取り入れていて構成されています。

僕の場合は,最初その「陰ヨガ」から入りましたが,陰ヨガの教科書や講師の方の語る経絡などの話は,その道の専門家ではないために,どうしても正直言って浅いわけです。物足りない。そこでもうちょっと東洋医学に迫ったヨガはないだろうかと探していたところ,マサ先生の「経絡YOGA」に辿り着きました。

マサ先生は鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師でもあり,東洋医学の専門家です。その専門性に裏打ちされたオリジナルのヨガですから,話の中身は非常に深く濃いです。「陰ヨガ」で物足りないと思う方は,あるいは,東洋医学的な身体的アプローチをしている(してみたい)方は,是非,マサ先生の講座を受講されることをオススメします。

ちなみに僕は毎朝,自分用に構成した「経絡YOGA」のルーティンをやっています。マサ先生の東洋医学の話はホントに分かりやすく,実践しやすいので,是非!


マサ先生のサイト↓

 ヨガの解剖学


2020年10月14日

科学雑誌『Newton』(ニュートン)

 今月末,10月26日に発売予定の科学雑誌『Newton』12月号に,僕が監修した記事「怒りの心理学」が掲載されます。興味関心のある方は是非。

Newtonは,基本的には理系のテーマを扱った高校生~大学生1・2年生ぐらいを対象とした雑誌ですが,心理学も科学の一員(色々な分野がありますから一概には言えませんが,理系と言えば理系)ということで,ときどき特集されたりしてますね。今回の記事は特集ではないようですが,8ページぐらいの記事ですから,それなりにボリュームはあります。

科学雑誌『Newton (ニュートンプレス)

心理学に関連するテーマの特集もあるので,心理学の初学者(1・2年生ぐらい)にはちょうどよい雑誌かもしれません。僕も以前,何回か買って読んだ記憶があります。ちなみにニュートンプレス社は,心理学の本も出してます。最新刊(10月15日発売)はこれ。

図鑑心理学:歴史を変えた100の話

目次を見る限り,なんだか面白そうだ。表紙のイラストもおしゃれ(フロイトですね)。買ってみよう。


2020年10月10日

不安は怒りの導火線?(金子書房note)

 金子書房がnoteというメディアで運営しているサイトに,私の記事が載りました。「不安との向き合い方」という特集でして,その中で「不安は怒りの導火線?」というタイトルで書いています。

「不安は怒りの導火線?」

編集部から「(コロナ禍で)不安を感じているとイライラする理由」を問われて,私なりにあれこれ考えてみました。今まであまり考えたことはありませんでしたが,お題を与えられ,考えてみて,関係あるなぁと思い,自分でも意外な発見でした。

(実はたまたま,同時期に別のインタビューで同じことを聞かれて,そのときは話のついでに聞かれたこともあって,あまりピンと来なかったのですが,今回のこれは真正面から問いをもらったので,ちゃんと考えてみました)

たぶん,不安と怒りについては,調べればすでに誰かが研究しているのではないかと思いますが,それぞれの感情の性質からして,どうやら関係がありそうだ,ということを書いています。

いただいたお題にもある通り,今のコロナ禍はまさにそうですが,さらに地球温暖化だとか長期の不況だとか世界的な不安定な政情だとかの様々な不安の種が私たちの身の回りにはたくさんありますね。ありきたりなところでは,欲求が満たされていない(古典的な欲求不満攻撃説!),ストレスフルである(闘争逃走反応の活性化),だからイライラする,という説明もあると思いますが,なんで「不安」だとイライラするか(怒りモードになるのか)を,改めて考えてみました。

詳しくは是非,記事を読んでいただければと思います。


金子書房の公式サイト

金子書房のnote

このnoteのページにあります「特集:不安との向き合い方」に掲載されています。


2020年10月7日

トランピストはマスクをしない:コロナとデモでカオスのアメリカ現地報告

 町山智浩 2020 文藝春秋

映画評論家の町山氏(アメリカ在住)によるアメリカ報告。週刊文春のコラムを単行本化したもので,今までもいくつか出ているシリーズの最新刊。まさにちょうど,来月に控えたアメリカ大統領選挙を前にして,2019年7月から2020年7月までのこの1年間の様子が分かる,旬な本です。そして今,トランプ氏がコロナに感染しました。それでもマスクはあんまりしたくないようです。

1年前はまだコロナは発生していません。年末もまだ。年が明けて1月末頃から段々と広まっていきました。国家非常事態宣言は3月(日本の緊急事態宣言は4月)。そういう様子も分かる,ある意味,記録としても価値のあるコラムになっていると思います。

共和党トランプ氏VS民主党バイデン氏。さてどうなることやら。この本を読んで,大統領選前にこれまでの流れのおさらいをしておくのも良いかもしれません。


2020年10月5日

社会はヒトの感情で進化する:人間行動進化学と行動デザインで社会を変える

 小松正 2019 フォレスト出版

進化論的なアプローチについて紹介している本。特に何か一貫した著者の主張のようなものがあるのではなくて,行動,宗教,経済,医学,教育などの分野で進化論的な観点が取り入れられています,ということを順番に紹介している本です。ときに,ほとんど他書の紹介(ブックガイド?)のような章もあります。

タイトルが「社会はヒトの感情で進化する」とありますが,「感情」の話はほとんど全く出てきませんし,「感情で進化する」ところも伝わってきません。副題に「人間行動進化学」と「行動デザイン」とありますが,これも一部のことであって全体を表すものではありません。タイトルは,本の内容を的確に表現する顔だを思うので,本書のタイトルと内容の解離はちょっと問題があるなぁ。全く関係ないわけじゃないけど,的確に捉えているとは思えない。あと,相関係数の解釈の仕方が間違ってます。相関係数は説明率ではありません。

進化論的なアプローチがどういう分野でどういう風に用いられているかをざっと知るには良いと思います。紹介している他書は比較的新しいですが,内容的にはそんなに目新しいことは書いていません。


2020年9月27日

図解 心理学用語大全:人物と用語でたどる心の学問

 齋藤勇(監)田中正人(編著) 2020 誠文堂新光社

世の中,「心理学」と聞いてどういうことが求められているのかを知ろうと思って,こういうポップな心理学の本を買ってみました。イラストで説明する心理学用語ですが,けっこう(意外に?)ちゃんと説明していて,感心しました。

ただ,齋藤先生監修なので,対人心理学や社会心理学の話が多いですね。臨床系の話や知覚・認知系の話ももっと面白いものがたくさんあるわけですが,この本は3分の1が社会心理。裏を返せば,世の中のニーズ,つまり一般の人の知りたい心理学は「人間関係」や「集団・組織」にあるのだろう,ということを再認識しました。


2020年9月26日

夢ナビ

 「夢ナビ」という,フロムページが制作している大学受験生用の情報サイトに,私も掲載されました。講義動画も先日,大学で撮影したのですが,まだ編集中のようで,未掲載です。そのうちアップされると思います。

私の研究テーマである「怒り(の制御)」のことが分かりやすく書いてありますので,良かったらご覧いただければと思います。

夢ナビ

https://yumenavi.info/index_pc.aspx

湯川の掲載ページ

https://yumenavi.info/lecture.aspx?GNKCD=g010573&OraSeq


100文字SF

 北野勇作 2020 ハヤカワ文庫

朝日新聞の書評に載っていたので,これは斬新だと思い,早速買って読みました。斬新は斬新です。最近は,「5分で読める・・・」とかのショートショートが流行ってたりしますが,ここまで来るとショートショートを超えて超ショートショート。

超短い小説,ということであれば,ヘミングウェイが書いたとされている(実際には違うらしいですが)「For sale: baby shoes, never worn(売ります。赤ん坊の靴。未使用)」が有名ですが,これはフラッシュ・フィクションという一つのジャンルにもなってるらしい。

100文字のSFということで,読んでみましたが,半分ぐらいは「おお!」と思わせる奇想でした。ただ半分ぐらいは著者の人生観に関する例え話みたいな感じにも読めて,SFというか人生訓・生活標語みたいでした。でも半分は良かった。

短い文字数で思いを込めるという意味では,昔から川柳・俳句・短歌・詩などあるわけで,ここからなぜかふと「中原中也」でも読んでみようかと思いました。ただ,この限られた文字数の中に込めるというのは,(私はやっていませんが)ツイッターとかそういうメディアなんですよね,確か。


2020年9月22日

ラヴクラフト傑作集

 「クトゥルフ神話」のH.P.ラヴクラフトの小説は読んだことがなかったのですが,無論,その名は耳にしているわけで,いつかは読みたいと思いつつ,なんとなくハードルが高いと感じていました。

と,そう思っていたら,たまたま,『映画秘宝』か何かで,ラヴクラフトの小説を漫画化しているものがあることを知り,早速,一冊購入して読み始めました。まず買ったのが,『異世界の色彩(The Color out of Space)』(田辺剛,ビームコミックス)。

こりゃすごい。凄い画力。緻密だし,気持ち悪いし,不思議な絵だし,怖い。楳図かずおや日野日出志とはまた違う描写の荘厳さ。今のところ出ている残りの9巻を全部買ってしまいました(全10巻)。

ちなみに,人間椅子の『宇宙からの色(The Color out of Space)』は,ラヴクラフトの引用だったのね。

そしてさらに2019年には,ニコラス・ケイジ主演で『カラー・アウト・オブ・スペース:遭遇』として映画化されてます。ポスターからしてぶっ飛んでます。話としては,心身ともに徐々に病んでいくというものなのですが,主演がニコラス・ケイジだから,その狂いっぷりは凄まじいだろうなぁ。観たい。


寅さん

 最近,BSテレ東で『土曜は寅さん!4Kでらっくす』というのをやっていて,気がついた時にはときどき録画して観ています。寅さんシリーズは,全部観たわけではないですが,初期の頃のはけっこう観てますね。気楽に観られる人情話。良いねぇ,寅さん。毎回柴又に帰ってくるときの土手を歩く寅さんと,最後にまた旅に出て遠いところで商売をする寅さん。

満男が成長してからの作品は,あんまり観てません。そのうちBSテレ東でやってくれると思うので,期待して待ってます。

2020年9月20日

書評と映画評

 これまで,書評のブログとして「本と知」というのを2012年から,映画評のブログとして「映画と情」というのを2018年から書いてきましたが,別々のブログではなくて,このブログに一緒に書くことにしました。以前は,テーマが違うから別のブログが良いかなと思っていましたが,いずれにせよ自分が書くなら一緒のことだし,別々のブログを開いているのが冗長な気がするし,ラベルで分ければ良いかと最近思うようになり,一つにしようと思いました。なので,これから読んだ本や観た映画の備忘録代わりに,このブログにつらつらあれこれ書きます。


これまでの書評と映画評のブログは以下の通り。

本と知: http://books-and-wisdom.blogspot.com/

映画と情: https://movies-and-emotion.blogspot.com/


本も映画も,心身で読んで(観て),心身を練るものだと思います。このブログを読んで,読んでみたい,観てみたいと思ったら是非。なお,映画はなるべくネタバレしないように書くつもりですが,してたらごめんなさい。


2020年9月8日

サイエンス対談

 たまたま検索して見つけたのですが,10年以上前に,日垣隆氏のラジオ番組に出演したときの対談音声が,YouTubeにアップされていました。日垣氏のチャンネルにまとめられている動画の一つです(から,日垣氏ご本人によるアップかと)。他にも多数,番組に出演した方との対談音声がアップされてます。私の回は,以下のURLです。

https://youtu.be/8m17N3HZ_Tk

日付を見ると,2008年12月21日とありますね。12年前ですか(36歳?)。なんだかボソボソしゃべってる,若かりし頃の自分です。


2020年8月30日

『”老子”の兵法』中国語版

 なんと!拙著『”老子”の兵法』(BABジャパン)ですが,たいへんありがたいことに,台湾にて中国語(繁体字)版に翻訳され,発売されました!



私の力というよりは,BAB編集者の森口敦氏のもと,絶妙な装丁デザイン(やなかひでゆき氏)と各章に添えていただいたイラスト(湯沢としひと氏)が,まずもって台湾の人の目を惹いたのだと思います。どうもありがとうございました。

発売早々に中国語版翻訳の話が舞い込んできていたのですが,まさかそうは言っても,台湾の出版社もとりあえず翻訳権を取っておくだけで結果的には翻訳されることはないかもね,ぐらいに正直思っていました(もちろん,翻訳されれば,そんな嬉しいことはないわけですが,でもねぇ)。

ですので,こうして実物ができあがってくると,嘘が真になったようで,本当に嬉しいです!真的非常感謝!

2020年8月26日

糸東流空手術 稔真門

私の空手の師匠であります小林真一先生の「稔真門」ですが,このコロナ禍の中,徐々に活動を再開しております。世の中仕事も生活もなかなか難しい状況であり,こういう中で新たに空手を始めよう!という人はなかなかいないかもしれませんが,「ウィズコロナ」ということで,できる範囲のところで新しい形での稽古を柔軟に模索しながら続けるのが,「武道的」というものだと日々,感じています。

稔真門 公式サイト → https://www.jinshinmon.jp/

トップページで,小林先生のサンチン,テンショウ,ハウファのダイジェストが見られます。稔真門では,空手「術」の本質である形(型)をひたすら稽古します。形(型)を延々と反復し,身体に染み込ませ,その一方で,形(型)の意味を考え,分解によって理解します。そうしてひたすら術を極めていくことが,翻って,やがて「道」となります。

ですから,最初から空手「道」と名乗るのは,よ~く考えたらおこがましいわけです。「道」と名乗るのなら,「道」とは何かを分かった上で名乗るべきだと思うからです。分からないなら名乗るべきではありません。稔真門では,ですから,空手という沖縄発祥の「術」の稽古をしています。

ずっと巣ごもりを続けることも一つの選択ですし,少しずつでも工夫しながら活動を広げていくのも一つの選択です。選択は色々あって良いと思います。



2020年8月23日

JIDAIさんの新著

 アートマイミスト・JIDAIさんの新著がこの度,出ました。『「動き」の天才になる!』(BABジャパン)です。

ここ数年は,月刊『秘伝』誌上で高い人気を誇っていますので,詳しくは『秘伝』を読んでいただいたり,前著『筋力を超えた張力で動く!』(BABジャパン)を読んでいただければと思いますが,とにかく,JIDAIさんは凄いのです!凄い人なのです!

つまり,この本は,そういう遙か彼方の天空まで突き抜けて凄い人が書いた本,ということです。身体を極めたJIDAIさんが,身体の動かし方の極意を惜しみなく開陳しています。

JIDAI ウェブサイト→ https://jidai9.wixsite.com/jidai

このJDAIさんのサイトでも,数々のJIDAIさんの動きを動画で見ることができます。が,実際に生で見て(体験して)みないとその本当の凄さは伝わりません。凄い凄いと何とも幼稚な形容ばかりですが,筆舌に尽くしがたい圧倒的な動きと表現力なので,言葉も幼稚になります。ですから是非,興味関心のある方はJIDAIさんの公演やワークショップに行かれると良いです。

特には,演劇人・ダンサー・スポーツ選手・ミュージシャン・芸人はじめ,身体パフォーマンスを生業にしている人は,一度はJIDAIさんを体験すべきだし,また,JIDAIさんの提唱する「エモーショナル・ボディワーク」は,心理臨床家ならば一度は体験した方が良いメソッドです(臨床活動・カウンセリング活動において,何かが変わるはずです)。

そのため,数年前には日本感情心理学会の年次大会で講演&ワークショップを開いていただいたり,同学会の機関誌(エモーション・スタディーズ)で論文を書いていただいたりしております。よろしければJIDAIさんの論文も是非ご一読ください。PDFでフリーにダウンロードできます。

JIDAI 2018 アートマイムから見た感情の身体性─その特殊性と普遍性─ エモーション・スタディーズ,4,1,3-12.

何を隠そう(何も隠していないですが:笑),JIDAIさんは,「舞夢踏」のときの先輩でして(詳しくは「経歴」のページ参照),もうかれこれ30年前ですが,最初にJIDAIさんを見たときの衝撃は今でも忘れません。こういう凄い人ってのは,もうすでに若いときから突き抜けて凄いのです。

というわけで是非一度,「アートマイミストJIDAI」を,ご一読・ご体験ください!

2020年8月12日

丁寧にやる

 丁寧にやる,というのはなにも一つ一つをじっくり時間をかけて隅々までやる,という意味ではありません。そういうのを馬鹿丁寧といいます。

そうではなくて,取り組むことの本質を見極め,そこにピンポイントに惜しまず力を注ぐ,ということです。

だから,そもそも自分にとって大切なものは何かを見極めること,そしてその大切なことのどこがポイントかを見極めることが大切です。丁寧に生きるとは,そういうことだと思っています。

なお,そういう見極めは,武術を初めとする身体技法によって養われるような気がします。なぜかというと,身体技法は一般に,自分の身体を見つめ,その状態や変化に気づき,勘所を見極める作業だからです。そういう心的構えが,見極めに役立つような気がしています。

なお,私がすでに見極めている,という意味では決してありません。そういう風に見極めて丁寧に生きたいなと常々思っている,ということです。

2020年8月11日

坐る

 仕事が山積すると,その山を少しでも小さくしたいから,一つ一つがついヤッツケになって,雑になります。でも,雑に仕事をしたところで,それは自分にとって何の糧にもならない。いい加減にやったところでそれは全部偽物な気がします。偽物の人生。嘘臭い人生。ただ早く終わらせて楽になりたいだけだから。

なので一つ一つ丁寧に仕事をしたい。せっかくこの世に短い生を受けて,今まで生きてきて,色々な縁で今それをやっているのだから,その一つ一つの仕事を,心を込めて丁寧にこなしたい。

そのためには,そもそもやるべき仕事を減らせるだけ減らさなければならない。いや,「減らす」というよりも,「厳選する」という方が正しいかな。人間は欲張りだからついあれもこれもと手を出すし,やると褒められたり感謝されたり尊敬されたり得をしたりするからつい調子に乗って,あれもこれもとやってしまいます。逆に,勇気を出して断ったり辞めたりできずに,やりたくないことまであれこれ背負い込んでしまいます。それに,一度手に入れたものは手放したくないものです。そうしているうちに,仕事がどんどん山積します。

生は思ったほどそんなに長いもんじゃないから,山積みの仕事をこなした先に何かきっと良いことがあると思ってひたすら上っ面だけ山を削っていても山は一向に減らず,気がついたら死の床まであと少し,なんてことになりません。そんなのは,偽物の人生じゃないですかね。

人はどうせいつか死にますから,名も益も,墓場まで持っていけません。ならば,生きているうちは丁寧に生きた方が良い。仕事を山積みにしてそれをとにかくたくさんこなすこともまた,人によっては生き甲斐なのかもしれないけれど,そんなに頑張ってどうする。そこにエネルギーを注ぎ込んでどうする。それって,一つ一つの仕事がいい加減になってないか?丁寧にやってるか?真心込めて向き合ってるか?

人間,仕事が多いと,一つ一つがおざなりになるんだよね。そうすると,やってること全部,嘘臭くなる。ヤッツケ仕事で,時間だけが過ぎていく。なんかそれって,偽物臭くないですかね。せっかく生まれてきたんだから,丁寧に生きたい。

だから,どうしてもやることが重なって,ついついヤッツケそうになったら,ともかく,坐ることにしています。

坐ると,落ち着きます。焦ってただこなすだけになっていた自分に気がつきます。気づいたら儲けもんです。

2020年8月9日

 正座で稽古していると書きましたが,痛いのは主に膝。でも正座は平気です。ただ,この膝痛はもうかれこれ6~7年自覚症状がありますが,なかなか治りません。いろいろ通いました。接骨も整形外科も。レントゲンを撮った限りでは問題なし。でもおそらく,レントゲンでは分からない損傷だと思う。たぶん,半月板損傷じゃないかと思っています。例えば,

https://utashima.com/meniscus-symptom/

を読むと,症状はそのままピッタリ。特に内側の痛み。特に左足(右足も少し)。膝バンドをしたりサポーターをしたり,膝に負担の掛かる動作を避けたりして自然回復を待っていながら,もう6~7年経ってしまいました。膝をかばうから,すねやふくらはぎの筋肉もつりやすかったり,股関節(大腿骨と骨盤がくっついている辺り)が痛かったりする。

そろそろちゃんと専門医に行って治療した方が良いのかな~,と思う今日この頃。


2020年8月6日

コロナと猛暑と稽古

長梅雨が過ぎたら急に暑くなりました。35度を超える猛暑が続きそうです。コロナ対応でマスクをして外を出歩くのはなかなか厳しいので,可能な限り家に籠もっていようかと思います。


家の中にずっといると身体がなまるので,春先はよく歩いていましたが,このところは長雨続きで今度は猛暑続き。歩くのには向いていません。家の中,部屋の中での運動となると,最近の流行りは「筋肉体操(筋トレ)」ですが,筋トレって辛いだけで全然つまらないですよね。面白くも何ともない。もともと体力も根性もない。

なので,せっかく動くなら面白い(楽しい)方が良い。私の場合はヨガ(陰ヨガと太陽礼拝)でじっくり緩く練った後に,最近はずっと「坐り稽古」をしています。やはり前々から膝の調子が良くないのと部屋が狭いのと両方の理由から,正座で木刀や杖を振ったり,上半身だけナイファンチやサンチンやテンショウをしたり,ときどきサイを振ったりしています。上半身だけ動かしてそれって空手なのか,という疑問もなくはないですが,空手は毎日やるものだから,足が痛ければ手だけでもやれば良いかな,と自問自答。

中でも「杖」は結構気に入っています。振れば振るほど操作感が増して,身体拡張感を感じられます。この長さ(4尺2寸1分=128cm)が絶妙にちょうど良いんでしょうね,きっと。

2020年7月27日

長梅雨

九州から中部にかけての西日本は大雨が続いています。関東もなかなか梅雨が明けません。こんなに梅雨が長いと感じたことは(昔もあったかもしれないけれど,とうの昔に忘れてしまっていて)今までにないのではないでしょうか。

「経験したことのないような」という表現がここ数年の自然災害を受けて気象庁発表用語で使われています。これ自体は国民に甚大な被害が生じる可能性に対する注意喚起をするためだと思いますが,まさにこの長梅雨も経験したことがないような長い雨です。

ちなみに,記憶は薄れるものですし,人によって様々な経験をしてきているでしょうから,「ような」を付けずに「経験したことのない」と断定すると,いやいやそんなことはないぞという反論も出てこようものです。だから念のため「ような」を付けているんでしょうか。あるいは,その気象現象が一定の終息を迎えないと過去の記録と比較検討できないから,暫定的に「ような」と付けているんでしょうか。

たぶん科学的な観点から後者が正解だと思うのですが,前者のような反論をする頑固な爺さんを想像すると楽しい。雨は雨で良いのですが,さすがに今年は長い。そろそろ晴れて欲しいです。



2020年7月8日

自然

コロナで日本全国たいへんな状況の中,九州方面から中国・四国・中部の方まで豪雨被害が甚大です。今は視聴者提供の動画が豊富なので,河川の氾濫状況や土砂崩れの状況が連日,目に飛び込んできます。命を落とされた方のニュースはもちろん,家屋を流されたり浸水してしまったりした映像を見ると,心が痛みます。

我々人間は自然の一部であることを痛感します。何かしたいけど何もできない自分に歯がゆさを感じつつ,しかし,自分なりにできること(自分だからできること)を模索していこうと,思います。

2020年6月14日

12 Rules of Attention

以前に,その著書”Be Like Water”の日本語版(『水のごとくあれ!』BABジャパン)を書いた,著者のJo Cardilloが新刊を書きまして,こういうのは縁というかシンクロニシティというか,不思議なものですが,この前のBob Santeeと同じく,Blurb(日本では,いわゆる,推薦文・帯文)を書いてくれと頼まれまして,書きました。

Reviewとして,簡単な一文ですが,Amazonにも載っています。Joもまた,武術家であり心理学者です。『水のごとくあれ!』も,いかにしなやかに生きていくかというヒントが満載の本ですが,『水』の方は武術における智慧というか発想をベースに書いているのに対して,この本は,心理学の方の専門(注意訓練)をベースに,やはりしなやかに(上手に)生きるコツが書かれている本です。

mind-bodyな立ち位置が,自分と同じなので,彼の代表作であるBe Like Waterを翻訳しました。今回の新作も是非。そして,ついでに拙訳書『水のごとくあれ!』も是非。






2020年6月9日

家で木刀の素振りをしていますが,杖道や合気道で使う杖も触れてみたい,振ってみたいと思い,長い巣ごもり生活だし,試しに思い切ってネットで最安の杖を購入してみました。

4.21尺8分径の白樫の棒です。

さて,実物を見て触って思った第一印象は,細い,そして,軽い。杖道の動画を見ると,結構迫力があるので,もっと太くて重そうな印象ですが,意外と細くて軽いんだと思いました。樫なので,それなりに硬いですが,もっと詰まっていてずっしりしているイメージでした。もしかしたら,最安値の杖だからか?(笑)

ただ,前から触れて振ってみたいと思っていたので,手に入って良かったです。もう少し太い杖もあるようなので,そっちも購入してみようかな。と,こうやって,自宅には武具がどんどん増えていきます。

【追記】結局,9分径の,「最安値でない」白樫の杖を買いました。この方が手の内にしっくりくるし,それなりに重みもありました。硬さもこっちの方がありそう。比べると最初に買った8分径の方はやっぱり安っぽい(笑)。値段相応。最初からこの9分径にすれば良かったですが,まぁしかし,比べてみないと分からないものです。

2020年5月15日

五禽戯

ハワイのシャミナード大学のボブ・サンティが,コロナで自宅にいる学生のために作った動画をYouTubeに上げたので良かったら是非,というメールをもらいました。その動画がこれです。


Five Animals Frolicとあります。いわゆる五禽戯という気功の一つです。5分ぐらいの動画ですし,動作としては非常にシンプルですから,真似して身体を動かしてみると良いかと思います。歩くこともシンプルで良いですし,こういう,呼吸に合わせてゆっくり身体を動かすだけで,良い気が巡ります。

ちなみに,ボブの本が読みたい方は,私が訳した日本語版が出ていますので,良かったらご一読ください。中国哲学(主に道家思想)と気功という東洋伝統の心身技法を,現代のカウンセリングや心理療法の知識や技法と融合させた,希有な本です。具体的な日常の例が多数盛り込まれていて,非常に分かりやすい内容です。



原著で読みたい方は,こちら。2013年の本です。



2020年3月に出た新刊はこちらです。



この本についての私の短いレビューが,出版社のサイトに掲載されています↓

https://titles.cognella.com/it-s-time-for-a-change-9781516590544


2020年5月11日

緊急事態宣言が延長され,活動自粛が長期化し,じわじわと疲労が蓄積されてきたように感じます。激しい運動をしているわけでも,ひどく難しい作業をしているわけではないですが,日常生活も仕事もいつもと違う(経験のない)変則的な活動をし続けることは,意識的にはなんとか平静を保っているつもりでいながら,ゆっくりと心身にダメージを与えているのかもしれません。災害ストレス下では,初期段階で心身がストレスに対処するために多幸感を生じることがありますが,そのハイな興奮状態が過ぎて,疲労感が前面に出てきた感じです。

先の見えない不安も大きいですが,人間は,自由な活動を制限されると,身体の中に澱のように負の気が溜まっていくのかもしれません。負の気を出して,正の気を取り込もう(あるいは,負の気を正の気に変換しよう)。

気は,物理的には在りませんが(物理的に計測しようという「科学」を追求している人もいますが,私は,いくら追求しても測定はできないと思います),主観的な感覚としては在ります。まぁ,在るような気がする(まさに「気」がする!)だけですけれど。

これは,元気の素(元「気」!)や病気の素(病「気」!),生命的なエナジーの元として感じられる,いわば「活力」のようなものなので,これを調える。このエナジーを丹田に蓄えていく。そういうイメージで身体を練っていく。

長期的な自粛状態に,わずかでも身体を調整しながら,適応していければと思います。

2020年4月23日

歩く

運動嫌いな私としては,ジョギングやランニングは辛いので,歩いています。運動しないと如実に太るので,歩いています。

緊急事態宣言のために自宅でテレワークが続いていますが,ここ最近,時間があれば,夕方に1時間ぐらい,散歩しています。ウォーキングというほどスポーティではなく,ただ散歩。ひたすら我が町を歩き回っています。

歩き始めはあれこれ考えてますが,30分もただひたすら歩いていると,ただ歩いている状態になります。そうならないときもありますが。でも,だいたい1時間ぐらい歩いていると,心身共に軽くなります。ただ歩いている,ただ在る状態になります。けっこうなります。マインドフルですね。

歩禅です。

運動嫌いは人におすすめです。

2020年4月6日

坐る

心の落ち着かない日々が続いておりますが,こういうときこそ,身体からアプローチです。坐りましょう。坐って,呼吸を見つめましょう。そわそわしたら,また呼吸に戻りましょう。

じっとしているのはどうしても辛い,という場合は,歩きましょう。てくてくてくてく歩くと,そのうち歩くことそのものになります。こういうときこそ,散歩です。時間を見つけて,散歩しましょう。

と,全部,これ,自分に言い聞かせていることです。

ここ数ヶ月,日々,なかなか落ち着きません。そわそわ,ふわふわ,いらいらしています。先が見えない不安で,気がつくとため息をついています(ちなみに「ため息」は,身体が身体を落ち着かせるための自然な反応なので,止めようとせず,身体に任せて,どんどんついた方が良いです)。

こういうこそ,とりあえず,坐りましょう。歩きましょう。そして,ゆっくりお茶でも飲みましょう。

2020年3月16日

心身技法

様々な"body and mind"な技法は,免疫系の機能を高めます。というか,免疫系の機能低下・機能不全を防ぐ,という方が良いでしょうか。ストレスによって免疫機能は低下しますが,心身技法はストレスを弱めることで,結果的に免疫機能の回復・維持をもたらします。

新型コロナウィルスで重症化しやすいのは,免疫機能が弱くなっている高齢者や基礎疾患のある人ということですから,今こそ,心身技法が我々の健康にとって非常に重要なアプローチとなり得ると思います。先日,そんな話を,ハワイのBob Santeeとメールでやりとりしました。

こうした環境や情勢そのものがまさにストレスなわけですが,家でできる心身技法としては,ヨーガや気功や坐禅,それから空手のような場所を選ばない武術が適しています。ヨガマット一枚ぐらいのスペースがあれば,いつでもどこでも,実践できます。良ければ是非,拙著『実践 武術瞑想』(誠信書房)をご参照あれ(宣伝です)。

ともあれ今こそ,丁寧に身体に帰る良い機会かと思います。個人的にも色々と重なり,これに加えて新型コロナウィルスのために外出も控えがちになるストレスフルな状況ですが,私も日々,ヨガマットの上でじっくり続けています。

2020年3月4日

新型コロナウィルス

この1か月,連日のように報道されている新型コロナウィルスですが,気が気でない落ち着かない日々が続いています。

言うまでもなく手洗いやアルコール除菌が奨励されているわけですが,しかし,これはこれで,自分(の手)がどこをどう触れているかに改めて気がつく良い機会だと思いました。私たちは知らないうちに,色んなところに触れています。

つまり,普段いかに「気づかずに」色々と触れているかに気づくことと,我々にとって手がいかに様々に働いているかに気づくこと,この二つの気づきを促す機会だなと改めて感じています。まさにマインドフルになるための機会と捉えれば,これもまた修行の機会になります。あまり神経質になりすぎない程度に。

それに,あれこれ触れたくないからと仮に両手をポケットに入れて外出してみれば,移動はできますが,世の中,色々と不便であることはすぐに分かります。何かをしようと思えば,至るところで何かを押したり,何かを持ったり,何かを回したりしないといかんともしがたいところはたくさんあることに気づきます。

2020年2月18日

湯に浸かる

湯に浸かると、湯の気が皮膚から染み込んできます。温泉成分は事実何かが染み込むのだとしても、単なる真水でもそう感じます。科学的には何も染み込んでなくても(科学的には温まって単に血流が良くなるだけかもしれないのですが)、主観的には湯の気が入ってくる。湯には、そういう力があります。

2020年2月15日

耳を澄ます

南直哉という禅のお坊さんの書いた「刺さる言葉」という本を読みました。この本は,恐山菩提寺院代の南師のブログの再編集本なので,これはこれでとても面白いことがいろいろと書いてあって読んでいて飽きないのですが,この中で,南師自身の座禅について,書いてありました。

そこには,まず,南師は,座ったら耳を澄ます(聴覚を鋭敏にする)というようなことが書いてありました。座禅の様子,マインドフルネスの方法論・手順として,呼吸に意識を向けるとは良く(誰でも)書いていることですが,まず耳を澄ませというのは初めて読んだ気がします。

早速最近,試していますが,これがなかなか良い。耳を澄ますと,静かな部屋だと思っていても,部屋の内外から色々と聞こえてきます。ますこうして感覚を鋭くする,これを身体全体に広げていく,という具合です。なので,是非とも試してみることをお奨めします。

南師は,ときどき何時間も座禅するよりも,毎日5分でも良いから座禅をする,すなわち座禅を習慣化することこそ只管打坐だとも書いてました。私は禅僧ではないですが,普段そう思って実践しているし,人にもそう話しているので,本物の禅僧である南師の言に勇気を得ました。

2020年2月13日

色々ありまして

今年度(2019年度)は,個人的に,色々と人生におけるイベントがありまして(というとちょっと大げさかもしれないですが),転換期だな~と思っていましたら,今年(2020年)に入ってからものすごく大きな出来事があり(間違いなく人生で最大級の一つ),ここ数日,心があちこち揺れる落ち着かない日々を送っています。

そういうときこそ身体であると改めて思い直し,日々,まっすぐ「無極」に立っています。Wuji Standing(無極で立つ法)の話は,ハワイの師(いや,研究仲間?ボブは私をcolleagueと称してくれている)であるボブ・サンティ(シャミナード大学)に教わりました(サンティ著・湯川訳『タオ・ストレス低減法』北大路書房をご参照ください)。

最近はこれ,ヨーガで言う,タダーサナ(山のポーズ)だよなと思っていたら,この夏に出るボブの新刊にも,やっぱりそう書いてありました。ボブもここ数年はヨーガをやっていると言っていたので,なるほどこういう形に結実してるのか~と思いました。ボブはもう,たぶん御年70近いんじゃないかと思うんですが,勉強熱心,老いて益々盛んです。

なぜまだ世に出ていない新刊が読めるかというと,ボブから,この新刊のblurb(endorsement)を書くよう頼まれたからです。洋書のソフトカバーなんかだと裏表紙にときどき,宣伝文・推薦文が印刷されていますが,あれのことだと思います(依頼されて書いただけで,まだ実物を見ていないので,よく分からないのですが,おそらくそういうことだと思います)。日本で言うところの「帯文」(本の帯の推薦文)ですね。

というわけで,無極から太陽礼拝,そしてナイファンチ。座して開合や起勢をして,最後は座禅。ゆっくりやれば小一時間。いろんなものに気がついて,それでもってそれらを削いで(端に置いておいて),筋肉と骨を確認しながら,ただの身体に帰り,空っぽになる時間です。

2020年1月4日

あけましておめでとうございます

毎朝稽古をするようになって,十二~三年でしょうか。そうして今年もまた,身体や感情,そして認知(心,意識)といった辺りで,あれこれ気の向くままに思索と実践をしていきたいと思います。

ゆっくりじっくり,身体を練りながら,自己を眺めながら,「こころ」と「からだ」を考えていきたいです。水の如く,赤ん坊の如く,脱力と弛緩しながら,柔らかくしなやかに,無理をせず無為自然に,日々の生活を丁寧に誠実に,送っていきたいと願っています。

空手で言えばナイファンチ,ヨーガで言えば太陽礼拝,瞑想で言えば只管打坐。こういった奥義たる原理・原点的な技法,無駄な装飾が徹底的に削り取られたシンプルな技法をじっくり練ることで,少しずつ味わいを深めながら,自己をならって行きたいと思っています。

生活すべてをシンプルに。
そして,何事も適当にこなすのではなく,一つ一つを丁寧に。

二〇二〇年一月四日 湯川進太郎