2020年11月29日

インセプション

(原題:Inception)(アメリカ,2010)

クリストファー・ノーラン監督,レオナルド・ディカプリオ主演。ちょうど今,ノーラン監督の「テネット」という,どうやら噂ではかなりややこしい映画が上映中ですが,この前観た「インターステラー」といい「メメント」といい,時間をまたぐ(前後する,超える)ことがこの監督の趣味なのか,とにかく,この「インセプション」もややこしいぞ(笑)。

テーマは「夢と現実」かな。映画サイトの紹介にときどき「無意識」とあるけれど,無意識は覚醒中にも働いているわけで,決して眠る(夢を見る)必要はない。自由連想法によっても無意識の願望をすくい取ることはできる(とするのが精神分析)。ただ,フロイトが夢の中に無意識の願望が表れるとしたことから,夢を大いに活用したのもまた事実(それが夢分析)。

この話は,そういう願望充足の場である夢の世界に潜り込んで,特定の人物から秘密を盗み取るエージェントが,自分の無意識に抱える罪悪感と願望と戦いながら,ある難しいミッション(ある人物に逆にあるアイディアの萌芽を植え付ける:インセプションする)を達成しようとする,そういう物語です。

夢を見ているときは,それが現実だと思って夢と疑わない。夢だと自覚して観ている夢をいわゆる「明晰夢」というのもありますが,普通,自覚するとしても覚醒の直前ぐらいでしょう(練習すれば長くその状態を保てるという話もあります)。ただ通常は,夢は現実と変わらないリアルさを持って観ているものです。覚醒して初めて夢だと気がつく。だとすれば,今の現実はもしかしたら夢なんじゃないのか。だからこの映画を観てすぐ思いついたのは,荘子の「胡蝶の夢」の話。自分が蝶になった夢を観た荘子は,人間だと思っている自分はもしかしたら蝶が観ている夢かもしれないと思う。

なお,物語の構造としてややこしいのは,夢の中でまた夢を見て,さらにまた夢を見るという三層構造になっているところ。下の層にいくほど,時間は何倍にも長くなる。まるで相対性理論に基づくウラシマ効果的な設定になっています。「インターステラー」に通じます。

気になるのは,映画に出てくる「装置」を使ってつながると,ある人物の夢の中にみんなで一緒に入ることができるところ。なぜだ?(笑)しかもその装置は,ちゃっかり夢の中にもまた出てくる(だから,さらに夢の中で夢を見て,一緒に下層の夢に降りていくことができる)。

とまぁ,鑑賞後にいろいろと思いが浮かんでくる映画で,ややこしいですが,映像も綺麗だし,サスペンス・アクション映画としても面白いし,主人公の変化もまた面白いし,ラストも面白い。

★★★


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