2020年10月31日

映画評論・入門!:観る,読む,書く

 モルモット吉田 2017 洋泉社

映画評論とは何か,ということを考えるために,映画評論の略史や定義を検討してみたり,戦後の映画評論を振り返ってみたり,映画評論にまつわる論争を紹介したりしながら検証している本です。ただの観賞記録や感想ではなく,評論とするにはどうすれば(どうなっていれば)良いか,ということを,理論的にというよりは実際例を踏まえながら考えていく,そういう構成になっているので,理屈っぽくなくてとても読みやすい。

専門用語なんかが並んでいて,部外者・門外漢・一見さんはお断り,的なオーラを出す本がときどきありますが(専門書に多いね),この本は,読んでみて「映画評論は難しいなぁ」とは絶対に思わないどころか,むしろ「映画評論をしてみよう」と思える良書です。

僕がときどき書いてる映画評は,ほぼほぼ感想に近い他愛のないものですが,本書を読めば,感想だって深めれば評論になる,というようなことも書いてあって,まぁそういう意味では難しく考えず,備忘録がてら自分で楽しく映画評を続けようと思ってます。でも,どうやったら感想が評論になると言えるかも,この本を読めば分かりますから,これからはその辺もちょっとだけ意識しながら,映画評を書いていこうと思いました。


2020年10月26日

『ニュートン』12月号発売!

 月刊科学雑誌『Newton(ニュートン)』の12月号が,本日発売です。特集は「ゼロと微分積分」ですが(残念ながら全く興味は無い),今号の<トピック>というところで,私が監修した「怒りの心理学」という記事が載っています。8ページですから,結構たっぷり載っています。12月号の表紙をよく見ると,左上に小さく載ってますね。

ご興味ご関心のある方は,是非!

科学雑誌『Newton』


ミュータンツ:光と闇の能力者

(原題:Stray)(アメリカ,2019)

アメリカにひっそりと住む日本人の母娘。あるとき,外出していた母が遺体で見つかる。その遺体は石化していた。残されたのは娘と祖母。この事件を担当することになった(何やら訳ありの)女性刑事は,娘の不思議な力に気づく。

ロックミュージシャンのMIYABIが敵役。原題はstrayなので,「迷子」とか「野良犬」とか,そういう意味でしょう。実際,この敵役のMIYABIの復讐がストーリーの本筋なので,この原題は良いと思うのですが,邦題はちょっとどうなんでしょう。どこが「ミュータンツ」なのか。超能力を持っていればそれ,ミュータントなの?Xメンかよ。

「光と闇の能力者」ってサブタイトルも,『PUSH:光と闇の能力者』(2009)をそのままパクってるし(笑)。『PUSH』は世界観とサイキックバトル描写が面白い映画だから,PUSHにあやかって観てもらおうという配給会社の魂胆が・・・と,自分もそれにつられて観てしまった。

それに,PUSHと違って,こっちはサイキックバトルの場面はほとんどないです。母の死も,最初,煽るだけ煽るけど,そんなに恐ろしく(悲惨な)描写じゃないし。そもそも,世界を揺るがすような大きな力と力のぶつかり合い,というよりは,なんだかとってもごく個人的な(家庭内の?ドメスティックな?)問題のようなレベルで,能力者である二人の潜在的な凄さ(破壊性や影響力)がイマイチ伝わってこない。

でもとりあえず,最後までは観ました。


2020年10月25日

夢ナビ「Zoom質問コーナー」

 受験生向けにフロムページがやっている「夢ナビ」という企画事業があり,今年はコロナ対応で,事前に撮影した講義動画を視聴してもらい,10月25日(日)の午前,その講義に関する質問コーナーということで,Zoomで30分の質問回答を3回,計90分,行いました。

主には関東周辺の高校生(1~2年生が中心)からの質問に答えました。各回,50~60名ぐらいはいたかと思いますが,いずれも大半がビデオOFFで顔出ししないのはちょっと戸惑いつつも,顔出ししてくれている10名ぐらいの生徒さんたちに向けて語りました。

夢ナビ

夢ナビ「湯川のページ」

上記のページに,怒りに関する講義の概要が載っていますので,良かったらご笑覧ください。そのうちこのページの下の方の余白に,講義動画のダイジェストが掲載されるのではないかと思うのですが・・・よく分かりません。動画が掲載されたら,そちらも良ければどうぞ。



2020年10月23日

地獄の楽しみ方(17歳の特別教室シリーズ)

 京極夏彦 2019 講談社

絶対に読んだ方が良い。特に心理学とかコミュニケーションとか人間関係とかをやる人,その初学者は絶対に読んだ方が良い。いや,初学者じゃなくても,ここんところをよく分かっていないプロの心理学者(大学教員,研究者)だって大勢いるんじゃないかと思います。だから,心理学者を自称する人にはとりあえず読んでもらって,ここに書いてあることに全くピンと来ない人は,心理学者は辞めた方が良いでしょう。ヒトという存在について,非常に大切なことがキッチリ書かれています。言葉がいかに重要かが,とても分かりやすく書いてあります。なにせ,対象は17歳ですから,ものすごく分かりやすく書いてあります。大人も必読です。

この本の最重要な結論の一つとして,語彙は豊富な方が良いよ,というのがあります。これは,リサ・フェルドマン・バレットの構成感情論(構成主義的感情理論)の結論とも一致します。その理由も要するに同じ。希代の小説家と神経科学者の結論が同じ,ということは,たぶん,これが結局,揺るぎなき真理なのだと思います。で,語彙を増やすには本を読むこと。王道です。

なので,本書も絶対読んだ方が良いけれど,京極の小説を読むと良いです。


2020年10月19日

キャラクターからつくる物語創作再入門:「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ

 K・M・ワイランド(著)シカ・マッケンジー(訳) 2019 フィルムアート社

物語(ここでは特に「映画」)は,プロット(構成)とテーマ(主題)とキャラクター(登場人物)の3つの柱からなり,そのうち,キャラクターはプロットと絡みながら物語を通してどのように変化していくか(アークするか,弧を描くか),それが物語としての面白さと深みを増すポイントであることを解説した本。変化(アーク)の仕方は3種類,ポジティブとフラットとネガティブ。

映画の構成についてもよく分かる良書だと思います。難しい用語はほとんど出てこず,誰でも理解できる言葉でアークの詳細が述べられています。なるほど確かに良い映画はこういう風にアークしてるよなぁと,つくづく納得。

来年度から,経営学部向けに「映画論」の授業を開講する予定なので,その参考書にしよう。


パシフィック・リム:アップライジング

(原題:Pacific Rim Uprising)(アメリカ,2018)

ギレルモ・デル・トロ監督の怪獣VS巨大ロボット映画の第二弾(今回,デル・トロ監督は製作)。「イェーガー」という,二人で操縦する巨大ロボットが,プリカーサーと呼ばれる異星人によって地底の裂け目から送り込まれる怪獣と戦う。

日本のロボットアニメや怪獣ものへのリスペクトでいっぱい。最後の決戦も日本(富士山)でだし,街中に立ってるガンダムの彫像も出てくる。東京の描写で街中の広告文字が簡体字だったり,富士山にマグマの見える火口があったり(たしかに活火山だけど,火口はないぞ),その辺は日本人的には「うううむ」と思うところはありますが,ご愛敬。環太平洋防衛軍の司令官がマックス・チャンなのは嬉しい(ただし,カンフーは残念ながらゼロ。チラッとだけでもやればいいのになぁ)。

楽しく観られます。でも,ロボット対怪獣というのをリアリティのある設定でもってハリウッドでやった一作目の方がやっぱりインパクトはありました。二作目って難しい。

★★


2020年10月17日

ホンマでっか!?TV

 水曜夜9時からフジテレビで放送されている明石家さんまさんの『ホンマでっか!?TV』に,評論家として出演します。「感情心理評論家」ということで。

オンエアは,10月21日(水)です。もしお時間あれば是非。



2020年10月16日

『からだ巡りヨガ』

 僕が学んだ「経絡YOGA」の高村マサ先生の本が出ました!

『からだ巡りヨガ』


「経絡YOGA」とは,東洋医学とヨガを融合させたアプローチで,マサ先生オリジナルのヨガです。経絡を理論に取り入れているヨガは,他には例えば「陰ヨガ」などがありますが,マサ先生の「経絡YOGA」は,より積極的に経絡や経穴(ツボ),東洋医学の自然観(陰陽五行論)を取り入れていて構成されています。

僕の場合は,最初その「陰ヨガ」から入りましたが,陰ヨガの教科書や講師の方の語る経絡などの話は,その道の専門家ではないために,どうしても正直言って浅いわけです。物足りない。そこでもうちょっと東洋医学に迫ったヨガはないだろうかと探していたところ,マサ先生の「経絡YOGA」に辿り着きました。

マサ先生は鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師でもあり,東洋医学の専門家です。その専門性に裏打ちされたオリジナルのヨガですから,話の中身は非常に深く濃いです。「陰ヨガ」で物足りないと思う方は,あるいは,東洋医学的な身体的アプローチをしている(してみたい)方は,是非,マサ先生の講座を受講されることをオススメします。

ちなみに僕は毎朝,自分用に構成した「経絡YOGA」のルーティンをやっています。マサ先生の東洋医学の話はホントに分かりやすく,実践しやすいので,是非!


マサ先生のサイト↓

 ヨガの解剖学


2020年10月14日

科学雑誌『Newton』(ニュートン)

 今月末,10月26日に発売予定の科学雑誌『Newton』12月号に,僕が監修した記事「怒りの心理学」が掲載されます。興味関心のある方は是非。

Newtonは,基本的には理系のテーマを扱った高校生~大学生1・2年生ぐらいを対象とした雑誌ですが,心理学も科学の一員(色々な分野がありますから一概には言えませんが,理系と言えば理系)ということで,ときどき特集されたりしてますね。今回の記事は特集ではないようですが,8ページぐらいの記事ですから,それなりにボリュームはあります。

科学雑誌『Newton (ニュートンプレス)

心理学に関連するテーマの特集もあるので,心理学の初学者(1・2年生ぐらい)にはちょうどよい雑誌かもしれません。僕も以前,何回か買って読んだ記憶があります。ちなみにニュートンプレス社は,心理学の本も出してます。最新刊(10月15日発売)はこれ。

図鑑心理学:歴史を変えた100の話

目次を見る限り,なんだか面白そうだ。表紙のイラストもおしゃれ(フロイトですね)。買ってみよう。


2020年10月10日

不安は怒りの導火線?(金子書房note)

 金子書房がnoteというメディアで運営しているサイトに,私の記事が載りました。「不安との向き合い方」という特集でして,その中で「不安は怒りの導火線?」というタイトルで書いています。

「不安は怒りの導火線?」

編集部から「(コロナ禍で)不安を感じているとイライラする理由」を問われて,私なりにあれこれ考えてみました。今まであまり考えたことはありませんでしたが,お題を与えられ,考えてみて,関係あるなぁと思い,自分でも意外な発見でした。

(実はたまたま,同時期に別のインタビューで同じことを聞かれて,そのときは話のついでに聞かれたこともあって,あまりピンと来なかったのですが,今回のこれは真正面から問いをもらったので,ちゃんと考えてみました)

たぶん,不安と怒りについては,調べればすでに誰かが研究しているのではないかと思いますが,それぞれの感情の性質からして,どうやら関係がありそうだ,ということを書いています。

いただいたお題にもある通り,今のコロナ禍はまさにそうですが,さらに地球温暖化だとか長期の不況だとか世界的な不安定な政情だとかの様々な不安の種が私たちの身の回りにはたくさんありますね。ありきたりなところでは,欲求が満たされていない(古典的な欲求不満攻撃説!),ストレスフルである(闘争逃走反応の活性化),だからイライラする,という説明もあると思いますが,なんで「不安」だとイライラするか(怒りモードになるのか)を,改めて考えてみました。

詳しくは是非,記事を読んでいただければと思います。


金子書房の公式サイト

金子書房のnote

このnoteのページにあります「特集:不安との向き合い方」に掲載されています。


2020年10月7日

トランピストはマスクをしない:コロナとデモでカオスのアメリカ現地報告

 町山智浩 2020 文藝春秋

映画評論家の町山氏(アメリカ在住)によるアメリカ報告。週刊文春のコラムを単行本化したもので,今までもいくつか出ているシリーズの最新刊。まさにちょうど,来月に控えたアメリカ大統領選挙を前にして,2019年7月から2020年7月までのこの1年間の様子が分かる,旬な本です。そして今,トランプ氏がコロナに感染しました。それでもマスクはあんまりしたくないようです。

1年前はまだコロナは発生していません。年末もまだ。年が明けて1月末頃から段々と広まっていきました。国家非常事態宣言は3月(日本の緊急事態宣言は4月)。そういう様子も分かる,ある意味,記録としても価値のあるコラムになっていると思います。

共和党トランプ氏VS民主党バイデン氏。さてどうなることやら。この本を読んで,大統領選前にこれまでの流れのおさらいをしておくのも良いかもしれません。


2020年10月5日

社会はヒトの感情で進化する:人間行動進化学と行動デザインで社会を変える

 小松正 2019 フォレスト出版

進化論的なアプローチについて紹介している本。特に何か一貫した著者の主張のようなものがあるのではなくて,行動,宗教,経済,医学,教育などの分野で進化論的な観点が取り入れられています,ということを順番に紹介している本です。ときに,ほとんど他書の紹介(ブックガイド?)のような章もあります。

タイトルが「社会はヒトの感情で進化する」とありますが,「感情」の話はほとんど全く出てきませんし,「感情で進化する」ところも伝わってきません。副題に「人間行動進化学」と「行動デザイン」とありますが,これも一部のことであって全体を表すものではありません。タイトルは,本の内容を的確に表現する顔だを思うので,本書のタイトルと内容の解離はちょっと問題があるなぁ。全く関係ないわけじゃないけど,的確に捉えているとは思えない。あと,相関係数の解釈の仕方が間違ってます。相関係数は説明率ではありません。

進化論的なアプローチがどういう分野でどういう風に用いられているかをざっと知るには良いと思います。紹介している他書は比較的新しいですが,内容的にはそんなに目新しいことは書いていません。