2021年8月30日

ヒトラーを殺し,その後ビッグフットを殺した男

(原題:The man who killed Hitler and then the Bigfoot)(アメリカ,2018)

その白髪のじいさんは後悔していた。名前はカルヴィン(サム・エリオット)。自分の人生を深く悔いていた。

帽子屋を営んでいた彼は,第二次世界大戦中,ロシアから徒歩で単独ドイツに侵入し,ナチス総統ヒトラーを暗殺するという特殊任務を母国アメリカ政府から受け,従軍する。何カ国語も操る高い知能と語学力,着実にターゲットを捜し出す根気と情報収集力,そしてどんな環境でもサバイブする勇気と行動力で,見事に任務を完遂した。彼は,実質的に第二次大戦を終結させアメリカを勝利に導いた伝説的暗殺兵となったが,しかし,そのために最愛の人と離ればなれになり,生涯独身のまま,冴えない人生を送っている。白髪頭を鏡でみる度に,自分が老いたことをつくづく痛感し,自分は一体何のために生きてきたんだと,昔を思い出しながら後悔していた。

物語は,老人となった現在,若い頃の過去(最愛の人との思い出と第二次世界大戦での従軍)を回想して,今と昔を行ったり来たりしながら進んでいく。あのとき従軍してヒトラーを暗殺したことで最愛の人と一緒になれなかったと,ガッツリ後悔し続ける。

そんなカルヴィン老人に突然,アメリカのCIAとカナダ政府の特使がやってくる。「ビッグフットを狩ってくれ」。理由は,カナダの森に生息するビッグフットが致死性の病原体を保菌していて,鳥類以外の動物がことごとく死滅しているからだ。ワクチンができるまでに国家的な壊滅状態になりかねない。アメリカに侵入しそうな場合には,カナダに核を落とすことになっている。軍保管の血液情報から,カルヴィンにはこの病原体への免疫があることが分かり,かつ,ヒトラーを暗殺したレジェンドであることから,白羽の矢が立ったのだ。

今更そんなことを依頼されてもと断るカルヴィン。「人間はそうそう変われないのだ」と,弟のエドに諭されるカルヴィン。さて,どうする?

冒頭から何度も右足の靴に何かが引っかかっているのが気になってしょうがないのだが,どうしても取れない。でも,映画の最後,気になっていたそれがやっと取れる。

ヘンテコなタイトルだから,マニアックなB級映画を覚悟して,つまらなかったら途中で観るのを止めればいいやと思って観始めましたが,全体にスタイリッシュな映像で,無駄がなく,割と良い映画でした。

★★★


2021年8月28日

なぜ武道によって心が調うのか

以前にもご紹介した通り,本日(8月28日)発売の月刊『武道』2021年9月号に,私の書いた文章が載りました。「武道の可能性を探る」というコーナーの第149回で,「なぜ武道によって心が調うのか」というタイトルで書きました。

武道はマインドフルネス瞑想だという従来の私の主張なのですが,古くも新しくも身体が重要だという議論や,マインドフルに武道を稽古するとはどういうことかと言ったことを交えて,コンパクトに書いています。良かったら是非,ご一読くださいませ。



月刊『武道』↓

https://www.nipponbudokan.or.jp/shupan/budou


2021年8月26日

園芸

園芸なんて,一体何が楽しいのかと小さい頃は意味不明だったし,そんなことに時間を費やすなんてと若い頃はバカにしてましたが,小さな庭を持つようになって,子どももある程度大きくなって,さらにこの1年半はコロナになったものだから,以前よりも庭いじりをしています。

まず,庭いじりは,マインドフルネス瞑想ですね。

土を掘り起こしたり,雑草を抜いたり,新しく買った苗を植えたり,水をやったり,枯れた葉を取り除いたり,伸びた枝を刈ったり,落ち葉を除いたり,虫対策に木酢液をまいたり,場所によっては除草剤をまいたり,アリ退治の薬をまいたりするのは,自然と向き合いながら,人間(自分)の住みやすいようにバランスを保とうとする営みとして,黙々とできる作業です。あんまり難しくないけど,終わりのない作業だからだと思います。

蚊にさされないように夏でも長ソデ長ズボンを着て,虫除けスプレーを吹き付け,かつ,蚊取り線香を焚いて作業します。汗と二酸化炭素に誘われた蚊に,速攻で刺されますからね。

気がついたら1時間ぐらいあっという間です。コロナで運動不足ですから,良い運動にもなります。

-------

しかし,こういう園芸は,若い頃は面白さが分からないのに,なんで年を取るとやる人はやるのかね。ただ,やらない人は年を取ってもやらないだろうから,好みの問題なんだろうけど,自分でなぜ面白いのか説明しようとしても,うまく説明できません。なんとなく面白い。

あえて言えば,おそらく,自然を制御あるいはちょうど良いところで調和する感覚なのかもしれません。自然の営みと人間の営み。人間の営みもまた自然の一部だとすれば,自分が自然の営みの一部になる感覚でしょうか。野菜を植えれば食べられますから,その点は実益にかなっているわけですが,食べたければスーパーに売っているのだから効率的とは言えません。妻が野菜や花を植えたいのでそれを一緒に楽しんでますが,私自身は,木だとかグランドカバーといった景観(と言うほど広くない庭ですが)を調えるのが面白い。調える快感,でしょうか。

-------

最近はグランドカバーをやり始めました。元々は芝生だったのですが,芝生はしょっちゅう刈り込みしないと綺麗に調いません。これはかなり面倒なので,早々にやらなくなりました。もちろん伸び放題です。数年前に,義母からイワダレソウを分けてもらったので植えたのが始まりで,駐車スペースの一角に植えたらあっという間に増え,庭もあっという間に埋め尽くしました。

イワダレソウは,踏まれるところは葉が小さくて綺麗だし,花も小さくて綺麗なんですが,伸びるとちょっと背が高くなって,ボリュームが出てきてしまいます。グランドカバーとしては,ちょっと足元が埋もれて鬱蒼となる感じ。駐車スペースの方はコンクリートの上に伸びているので制御できていますが,庭の方がちょっと制御しきれなくなってきたので,思い立ってグランドカバーを変えることにしました。

その前に,まずはイワダレソウを一旦全部抜くことに。これが大変でした。イワダレソウは地下茎で伸びるので,結構深いところまで入ってます。地表だけ刈り取っても,やがてまた生えてきますから,まずは土を掘り起こしながら根っこまで引き抜くことに。でも,こういう作業が楽しい。芽を見つけたら,指で土の中をさぐり,できれば根ごと引き抜く。もちろん,途中でちぎれてしまうこともありますが,根ごとすっぽり抜けたときは快感です。

-------

新しく植えたグランドカバーは4つ。

まずは,クラピア。結局,イワダレソウ系統なんですが,イワダレソウよりも背は低いということで,メインはこれにしました。クラピアはホームセンターでは売ってませんので,ネットで購入。

次に,クリーピングタイム。匍匐性のハーブですね。小さな花がたくさん咲きます。もともと,ロンギカウリスタイムを植えていたので,似たような感じで増えてくれるとありがたい。触わると良い香りがします。多少踏まれても大丈夫なようなので,庭の入口付近に植えました。

庭に植えたクリーピングタイム

そして,ペニーロイヤルミント。これも触ると良い匂い。ホントにミントの匂いがします(当たり前ですが)。ただ,ペニーロイヤルミントは,ホームセンターで見つけて,安かったので衝動買いしてきたのですが,花が出る頃に,結構高く伸びることが判明(「雑草っぽい」という評判も)。通常は匍匐性バッチリで横に伸びていくんですが,年に一度,縦ににょっきり伸びるようです。ですので,庭の奥の方の,あまり邪魔にならないところに植えました。

最後に,ダイカンドラ。これは,庭の一角に半日陰のところがあって,どうしてもデッドスペースになっていたので,半日陰でも育つと言われているダイカンドラを植えてみました。この先どうなるか分かりませんが,頑張ってもらいたいところです。なお,その近くには,これも以前に義母にもらったリュウノヒゲが広がっています。ただ,リュウノヒゲは成長がものすごいゆっくりなので,庭をすぐに覆うことは期待できません(ただし,リュウノヒゲは強いので,ゆっくり着実に陣地を増やしています)。ダイカンドラは柔らかい葉っぱなので,ちょっと弱そうですが,半日陰のデッドスペースを埋めてくれるとうれしい。ネットで購入しました。

-------

こういう,いろんな植物が今,ネットで購入できるし,購入前の検討として,ネットでいろんな情報があって,本当に便利な世の中になりました。義母のように昔の人は実経験から豊富な知識を蓄積していますが,私のような都会育ち(?)の現代人は経験がない分,知識のなさをネットで補っている感じです。

いずれも植える時期がちょっと遅かったので(たぶん,ベストは5月ぐらいから7月ぐらいまで),冬を越せるか分かりませんが,なんとか頑張ってもらって,来年の春から夏にかけて,各々,陣地を増やしてもらいたいです。楽しみです。

そういえば,「園芸」じゃなくて今時は「ガーデニング」か。ま,どっちでも良いか。


2021年8月25日

レッド・ファミリー

(原題:Red Family)(韓国,2013)

北朝鮮のスパイとして,韓国に潜入して情報収集や暗殺を行う工作員4名。彼らは,祖父,夫婦,娘の4人家族を装って暮らしている。隣の家族も,祖母,夫婦,息子の4人家族。工作員の「娘」のミンジは,隣の息子チャンスと同じ高校に通っている。

隣の韓国人家族は,毎日のように夫婦喧嘩をしていて,見かねて息子とも揉めて親子喧嘩に発展し,最後は祖母がなだめる毎日。それを見て工作員の偽家族は,「資本主義の末路だ」と毒づく。

工作員としての任務は,情報収集から脱北者の暗殺と幅広いが,暗殺は心が痛むやりたくない仕事だ。しかし,任務を遂行しなければ,国に残してきた家族の身の安全は保証されない。非情になって殺しを実行する。国の家族を思って,人を殺す。この矛盾に苦しみながら,だんだんと韓国の家族や暮らしの「人間らしさ」に憧れるようになっていく。胸を刺す悲しい話です。

基本的には「コメディ」なのだと思うけれど,しかし,南北問題は切実かつリアルな問題なのだろうと思います。それは,韓国に住んでいる韓国人でないと分からない感覚なのだろうと思うので,この映画を韓国の人たちはどういう風に見ているのだろうかと,少し思いをはせました。

★★


2021年8月22日

デッド・ドント・ダイ

(原題:The Dead Don't Die)(アメリカ,2019)

映画の中で流れるカントリー調の陽気な歌は,本物のカントリー歌手スタージル・シンプソンが歌う"The Dead Don't Die"。南極の掘削工事で地軸が微妙にずれたためか,世界各地で奇妙な現象が起き始める。田舎町のセンターヴィルも同様,屍体が動き出すゾンビ化が起こり,じわじわと町中がパニックに落ちていく。

しかし,なんだこのグダグダな感じは。署長のクリフ(ビル・マーレイ)と巡査のロニー(アダム・ドライヴァー)は,まったりとパトロールしながら,「もう夜なのに,明るすぎないか?」「コーヒーとドーナツ買って帰るか?」「もう夜だし,寝れないからコーヒーはやめとく」とか,のんきにどうでも良い話をしている。翌日,ダイナーで二人の惨殺屍体を見て,ロニーが「これはゾンビの仕業だ」と断言するところから,ヘンテコな話になっていく。

少年院の子ども達だとか,森に住むホームレスだとか,葬儀屋の怪しい女主人(ティルダ・スウィントン)だとか,都会からドライブに来た若者達だとか,いろいろ関係あるようなないようなエピソードが散りばめられつつ,いずれも回収されないグダグダな感じは,これ,わざとなんだろうなぁ。つまり,現実に起こったらこんなもんでしょう,世の中,基本的には関係のないことが同時並列的に起こっていて,それがときどき交錯するわけで,映画のような整合性のある因果関係ばかりじゃない,せいぜい緩やかな縁でつながってる,ってことなのかな。いや,分からないけど(笑)。

ロニー(アダム・ドライヴァー)が『スター・ウォーズ』のスター・デストロイヤーのキーホルダーを自分の車の鍵に付けていて,それを葬儀屋の女主人が「あなた,スター・ウォーズのファンなのね」と指摘して,ロニーが「ああ,そのとおり」と答える場面で,これはメタ映画なんだとはっきりしました。

でも,なんでこんな映画撮ったんだろう。ただ撮っただけ?撮りたかった?豪華俳優と豪華メイキャップと豪華CGと豪華主題歌による,詰めの甘い高校生脚本の自主映画,って感じです。


2021年8月16日

実験哲学入門

鈴木貴之(編著) 2020 勁草書房

実験哲学。まずもってなんとも甘美な名前である。なにせ,実験する哲学なのだから。そして,本書を読んでその魅力に震えました。これは面白い。

通常(伝統的には),哲学的な問題を考えるに辺り,様々な事例に関する思考実験における「直観」を頼りに論を進めることが多いわけですが(こういう方法論を「事例の方法」と言うそうです),この哲学者の「直観」はそもそも信頼の置けるものなのか。つまり,我々一般人の直観と同じものなのかどうか,言い換えれば,哲学者の直観に一般性はあるのか,ということですね。こういう素朴な疑問に真正面からアタックしたのが,実験哲学(の始まり)というわけです。

知識や自由意志や行為や道徳といった問題に関する実験哲学は,主に質問紙調査を用いた研究なので,基本的に,我々心理学者には馴染みやすい。近年では,実験的手法や神経科学的な手法も採用されているようで,今後の展開が期待されます。

2000年代に入ってから盛んになってきた分野なので,教科書や専門書の類いは,我が国では本書が最初です。哲学が好きな心理学者は,是非一度読んでみると良いと思います。ワクワクすること必至。きっとこれから類書が出てくると思うので,実験哲学は追っかけていきたい。


2021年8月15日

火山高

(原題:Volcano High)(韓国,2001)

どこで観たか覚えていないのですが(テレビか?),チラッと見たサイキックバトルが面白そうで,しかし,そのときはチラッと観ただけで,いつか最初からちゃんと観たいと思っていた,韓国の奇天烈学園サイキック映画『火山高』。ようやく観ることができました。

漫画『男組』の世界よろしく,とんでもない能力やパワーを持った生徒(各部活の主将)たち(と教師)が校長の持つ秘伝書「師備忘録」を求め,高校ナンバーワンの座を狙い,しのぎを削る。と,そんな癖の強いワルたちの巣窟である火山高に転校してきた男,キム・ギョンス。実はギョンスは強力なサイキックパワーの持ち主だが,そのために数々の高校を退学になってきた。こんどこそ退学しないために,その超能力を封印して静かに高校生活を送ろうとおとなしくしているのだが,剣道部主将の美女チェイの気持ちに応えようと,結局,争いに巻き込まれていく。

最強のサイキックである茶道部主将ハンニムが罠に嵌まり,パワーリフティング部の主将チャン・リャンがナンバーワンの座を奪うが,そこから高校は大混乱に。高校支配を目論む教頭は,これを打開するため,問題解決サイキック教師集団”掃除人”の5人を呼び寄せる・・・

とまぁ,ファンタジーとロマンの溢れる中二病的学園サイキックバトル映画です。オープニングもエンディングも,ノリは最高。とにかく,全体に,よく分かってる人が作ってる。今からもう20年以上も前の映画だから,当時としては良く出来てると思います。ストーリーとか,展開とか,そういう細かいことはとりあえず置いておいて,こういう奇天烈な世界観を深く考えず味わうのは,ときに面白い。『男組』とか読んでた小学生の頃,超ワクワクしたもんなぁ。

願わくば,もっと最初から,主人公を含めたサイキックバトルをもっと盛り込んでいても良かったかも。主人公の我慢を,ちょっと引っ張りすぎで,やや欲求不満。

★★


2021年8月14日

空手の形競技

今回の東京オリンピックで,空手の形競技をご覧になった方も多いと思います。空手の形競技がなんとなくああいうものだと知っていた人もいれば,初めて見たという人もいるでしょう。

あれを見て,一般の人はどう思うのだろうか。特には,初めて見た人があれを見てどう思うか,とても興味があります。

知っている人や既にやっている人は,慣れてしまって当たり前に思っているだろうから何とも思わないのかもしれませんが,私はやっぱりどうしても生理的に拒否してしまいます。

まず,演武を始める前に,形の名前を独特なイントネーションで絶叫する点。絶叫することが武術的だとはどうしても思えない。もちろん,「やー!」とか「えい!」とか,技とともに気合いを入れることは,呼吸法として,あるいは,気の鍛錬として意味はあると思います。でも,それはあくまで鍛錬であって本質ではない。気で押す,という面もあるにはあると思います。ただ,声を出すことそのものは武術的に本質的なことではない。むしろ武術的には呼吸を悟れないよう静かにしていた方が敵に勝てる確率は高まるでしょう。

それは,形の演武中にもしょっちゅう気合いを入れる点でも同じです。あんなに怒鳴り過ぎたら,声が嗄れたりするでしょうね。そして,その絶叫するときの表情がまた凄まじい鬼の形相です。あの顔芸は武術的に必要でしょうか。もちろん,顔にビビって相手が怖じ気づく,という効果は現実的にも多少はあろうかと思います。でも,それは武術的に本質的なこととは,やっぱり,思えない。

それから,特に女子選手に見られましたが,なぜ,特別な「化粧」をしたり,髪型を特別に調えたりするのか。化粧は武術に必要なのでしょうか。技の優劣を競っているのだとしたら,普段通りの格好で競技をすれば良いのに,なぜ見た目を装飾するのでしょうか。

と,ここまで書きましたが,理由ははっきりしているので,あえて意地悪に書いています。理由は,「競技」だからですね。競技はスポーツですから,審判がいて,判定をします。判定する審判は,<見た目>で判定します。だから,見た目で分かることをしないと勝てないわけです。その結果,声を出す,表情を出す,化粧をする,ということになります。目と耳ではっきり分かることをしないと,審判に伝わらないからです。それが,絶叫や顔芸や化粧という結果になるわけですね。

----------

空手という沖縄伝統の武術は本来,絶叫したり顔芸したり化粧したりする術ではありません。呼吸とともに身体を操作し,最小最短の力で敵を制する術です。その術の結晶が形です。形を運用するためには,無駄な力を抜いて,柔らかく動かなくてはいけません。ときに絶叫したり力んだりすることもあるかもしれませんが,たぶん,本当の達人は絶叫したり力んだりしないはずです。静かに敵を制するはずです。それが「君子の拳」だと思います。

オリンピックの形競技を見て,ああいうのをやってみたいなぁと思う人は,「スポーツ空手」「競技空手」の道場や教室に行けば,やれます。普通の町道場はどこもスポーツ空手(競技空手)です。

沖縄の伝統的な武術である空手はやってみたい,特に形をやってみたいと思うけど,絶叫したり顔芸したりしなくちゃいけないのは嫌だなぁ(競技はしたくないなぁ)と思った人は,我が稔真門にお越しください。稔真門代表(総師範)の小林真一先生が,本来の糸東流空手術としての形を,ゆっくり丁寧に教授してくれます。

「糸東流空手術 稔真門」公式ウェブサイト

https://www.jinshinmon.jp/

道場は今(2021年8月現在),コロナ禍のために,柏市の旭町道場(JR柏駅から徒歩15分ほど)でしか開いていませんが,コロナが収まれば,上野などでもやっています。お近くの方,通える範囲の方,是非一度,体験に来てください。いつでも大歓迎です。

形をじっくり丁寧に練る,そして,その形の運用方法(糸東流では「分解」と言います)をじっくり丁寧に練る,そういう道場は私の知る限り,ほとんどありません(ほぼ皆無と言っても良いかもしれません)。世の中の大半の道場が,オリンピックでもご覧になった「スポーツ空手」「競技空手」です。その点,我が稔真門は,沖縄の伝統武術としての空手を稽古する「武術空手」「武道空手」「古流空手」という位置づけになろうかと思います。空手という武術の本質を,ゆっくり味わってみたいという方には,稔真門が合うと思います。

----------

もちろん,スポーツや競技を否定するつもりはありません。スポーツ一般は大好きで,アスリートという存在には尊敬の念を抱きます。その特定のスポーツという枠組みの中で自己の身体を最適になるよう鍛え上げ,勝負に勝つために精神を集中し,互いに技を競い合うその美しさは,神々しささえ感じます。そして,空手の形競技では,男子は喜友名選手が金,女子は清水選手が銀を取ったことは,とても素晴らしいことだと思います。しかし,それはあくまでスポーツ競技の中のアスリートとして尊敬するということであって,一方で,あの競技としての形が空手の本質を体現したものだとはどうしても思えない,ということです。

いろいろ意見や観点があって然るべきであり,何が正しくて何が間違っているという絶対的な話ではなく(だから,間違いを正すべきだとかそういう話ではなく),おそらく,あくまで主義あるいは価値観の違いだと思います。私は,空手に関してはこういう風に思います,ということを書きました。この辺り,詳しくは拙著『空手と禅』に書いていますので,ご興味のある方はご一読ください。

さて,みなさんはどう思われますか?




IT/イット THE END ”それ”が見えたら,終わり。

(原題:IT: Chapter Two)(アメリカ,2019)

27年前の田舎町デリー。”ルーザーズ”の少年たちは勇気を振り絞り,団結してペニーワイズを倒した。今度またペニーワイズが現れたら必ず戻ってきて倒すと約束したルーザーズ。27年経ち,デリーに残ったマイクから,かつてのルーザーズたちに電話が入る。「あれ(IT)が再び現れた」。かつての事件はすっかり忘れて大人になったルーザーズの面々は再会を喜ぶが,それぞれの仕事や家庭もあって,再び現れたITの恐怖におののき,逃げ出したくなる。

キモい。もう,キモ描写は,前作を上回ってます。グロいとかおぞましいというよりは,「キモくて恐い」がぴったりでしょう。非日常的なピエロ(クラウン)が日常では不気味で薄気味悪いのはその通りであり,テレビシリーズを編集した1990年の『IT』はそういう不気味さが秀逸だったわけで(一度観たら忘れられない),前作の『IT/イット』(2017年)もどちらかというとそういう不気味さを踏襲していたと思います。しかし,今回の”第2章”は,それに「キモさ」をこれでもかというぐらい盛った作品になってます。

キモさは,魔物の造形,魔物の動き,登場の仕方などなど,とにかく色々とキモい。ゴア描写とか人体破壊とかはほとんどない。現実がどこで非現実となるのか,その境目は曖昧だ。お化け屋敷は恐いけど,出てくるお化けが本物だったり,ビックリ仕掛けが現実だったりしたら,とんでもなく恐い。そんな,リアルお化け屋敷と化した故郷で,ルーザーズの面々はそれぞれ,自分の昔の(思い出したくない)記憶を辿る。

ただ,ペニーワイズは恐いんだけど生身の人間も恐いんだよというメッセージなのか,デリーという田舎町の閉鎖性を示唆するメッセージなのか,魔物とは(ほぼ)関係なく,人が人を襲う要素が2つ入っている。個人的には,これは必要ないかもしれない(この要素を排除して編集したものを観ることはできないので,なんとも言えないですが)。

あと,最後は当然ペニーワイズと対決するわけですが,そこんところは凶悪な魔物との最終決戦ということでドタバタのアクション映画風になってしまっているのは,クライマックスとしてどうしても避けがたいんでしょうね。それがダメだというわけではないですが,せっかくキモい描写てんこ盛りのキモ映画として良い感じで来たのだから,最後の最後までキモさで勝負して欲しかった。

★★★


2021年8月9日

杖道

最近,「五十の手習い」で,杖道(じょうどう)を始めました。楽しいです。これです↓。神道夢想流杖術をベースにして作られた,基本十二本と形十二本からなる現代武道です。

いつまで続くか分からないですが,ぼちぼち続けていきたいと思っています。


月刊「武道」9月号

月刊「武道」9月号(8月28日発売)に,私の記事が載ります。

シリーズ「武道の可能性を探る」の第149回として,「なぜ武道によって心が調うのか」というタイトルで書きました。

要するに,いつも私が書いている<マインドフルネス瞑想としての武道>の話なのですが,もしよければご覧ください!

月刊「武道」(日本武道館)↓

https://www.nipponbudokan.or.jp/shupan/budou




2021年8月7日

エクストリーム・ジョブ

(原題:Extreme Job)(韓国,2019)

コメディ。笑えます。度重なる失態で,解散寸前の麻薬捜査強行班。ライバルの班長からの情報で,大物麻薬王の内偵を始める。しかし,なかなかうまく内偵が進まない中,ターゲットの事務所の向かいのフライドチキン店が店じまいすることになり,店ごと買って作戦本部さながら四六時中見張ることにする。そのうち出前の注文が来たら,中に潜入できるだろうという目算。

店にときおり客が訪れる度に追い返していたが,何度も追い返すのは逆に怪しまれると言うことで,とりあえず,フライドチキンを作っておいて,客が来たら売ることにしようとしたのが事の始まり。たまたま班員の一人マ刑事の作ったチキンが激うまで,あっという間に人気店に!(笑)見張りはそっちのけで,商売繁盛の大忙し(笑)。

激うまチキンを作るマ刑事は,チン・ソンギュ。マ・ドンソク主演の『犯罪都市』に出てくる敵の凶悪な手下。この作品ではもう,顔が狂気というか凶器。でも,今回(も,顔ネタはいじられるけれど),むしろコメディなので恐い顔とギャグのギャップが効いて,妙に面白い。

★★★


LUCK-KEY/ラッキー

(原題:Luck-Key)(韓国,2016)

これは面白かった。一体どうなるのか,ニヤニヤしながら観つつ,最後まで楽しめました。

凄腕の殺し屋ヒョンウクは,いつもの通りの手際よい仕事のあと,手首に付いた血痕を洗い流すため,たまたま通りかかった銭湯に入る。が,石鹸で見事に転倒し頭を強打。そのまま昏倒し,病院に運ばれる。しかし,気がつくと自分が一体誰なのか分からない記憶喪失となっていた。唯一,服に入っていた請求書から,名前と年齢と住所が判明。しかしその服は実は,鍵をすり替えられていた銭湯のロッカーに入っていたもの。鍵をすり替えたのは,売れない貧乏役者ジェソン。売れない故にいっそのこと自殺しようと最後の銭湯に来た彼は,高級腕時計をしていたヒョンウクが昏倒したのを良いことに,鍵をすり替えて,ロッカーの中身をくすねようとしたのだ。

主演はユ・ヘジン。ものすごく特徴的な顔なので,見覚えがあったのですが,『タクシー運転手』で主人公を最後まで命がけで手助けする光州市の運転手の人ですね(全然違う雰囲気ですが。さすが俳優)。

いやしかし,とっても話が面白いし,よくできてるなぁと思いましたが,これ,邦画『鍵泥棒のメソッド』(内田けんじ監督)のリメイクなのですね。リメイクするぐらいなので,話は確実に面白いわけで,あとはどうリメイクするか,というところです。それで,もともとの『鍵泥棒』を観てみようと思って観始めたのですが,冒頭の広末涼子演じる登場人物の奇妙な(不自然な)設定で,急いで観るのを止めました。たぶん,リメイク版のこっちの方が面白いのではないかと推測して,むしろ観ない方が良い,と思ったからです。なお,『鍵泥棒』の方は香川照之(殺し屋)と堺雅人(役者)のコンビでした。

★★★


ポスターは何パターンかありますが,個人的にはこっち↓の日本公開時のポスターがいい。


男はつらいよ お帰り 寅さん

(日本,2019)

第1作から50周年となる2019年に製作された,第50作。大人になって小説家になった満男は,数年前に亡くなった妻の法事の日,なぜか初恋の人・泉のことを夢見る。すると,自分の著書のサイン会の会場(本屋)で偶然,泉と再会することに。

亡き妻のこと,娘のこと,初恋の人のことを思うたびに,かつて,いつでも自分の味方になってくれた頼もしいおじさん,寅次郎のことを思い出す。

満男の記憶は寅さんシリーズを見てきたファンの記憶であり,さくらや博や満男とともに年を取ったファンは,まるで家族や近所の人のように,一緒に寅さんの生きていた昔を懐かしむ。

『男はつらいよ』は,全作は見てませんが,好きでそこそこ見てます。自分が生まれた年(1971年)とだいたい重なっているので,時代背景や風景やセットやテーマなどを懐かしめます。そんな「寅さん」なので,ようやく本作を見ることができました。

★★★