2022年4月26日

ドラゴン・キングダム

(原題:The Forbidden Kingdom)(アメリカ,2008)

ジャッキー・チェンとジェット・リー(リー・リン・チェイ)競演のカンフー映画。カンフーオタクの青年マイケルは,不良グループに追いかけられ,チャイナタウンの古道具屋にあった棍棒を持ったまま,ビルから転落。気がつくとそこは,古代中国。天帝が500年の瞑想に入り,将軍ジェイドの圧政が続いていた。

目が覚めてすぐ将軍の軍隊に襲われるが,九死に一生を得て,酔拳(!)の達人ルー・ヤン(ジャッキー・チェン)に助けられる。ルー・ヤンの話だと,自分の持っている棍棒は,実は孫悟空(モンキーキング)の如意棒であり,ジェイド将軍に欺かれた孫悟空が石に変えられる直前に遠くへ放ったものだと言う。如意棒の持ち主であるマイケルは,この世界に迷い込む直前,古道具屋の主に「その棒を持ち主に返すのだ」と告げられていた。

ここから冒険が始まる。途中,白ずくめの僧(ジェット・リー)に如意棒を盗まれるが,マイケルが,如意棒を届ける「選ばれし者」だと悟り,道中をともにする。蟷螂拳(!)の達人である僧は「導かれし者」をずっと探していたのだった。

とまぁ,とにかく,分かりやすくて面白い映画です。なんたって,ジャッキーチェンが酔拳で(『ドランク・モンキー酔拳』),ジェット・リーが蟷螂拳(『少林寺』『阿羅漢』)だからねぇ。鉄板キャラの孫悟空も出てくるし,面白くないはずがない。昔,テレビで放映していたのをチラッと観て,いつか全編ちゃんを観ようと思っていた映画です。

★★★



2022年4月22日

怒りの哲学:正しい「怒り」は存在するか

アグネス・カラード他 (2021) ニュートンプレス

「怒り」に関する哲学者の議論。カラードは,例え不正に対する怒り(道徳性を回復しようとする感情)でも,怒りであれば常に非道徳性(悪意や復讐心)が含まれる。つまり,道徳性を求めるための非道徳性は必要であり,悪意や復讐心は当然必要な合理的なものである,としている。

これに対して,いろんな立場からいろんなことをいろんな人が述べている本です。「怒り」という感情にまとわりつく様々な観念について,あるいは様々な現象や行為に絡む「怒り」という感情について考えることで,「怒り」とは何かが浮き彫りになる。

「怒り」に関する哲学は,歴史的に見ても断片的には色々なされてきたと思いますが,こうして一つの本としてまとまったものは今までなかったと思います。なので,たいへん良い勉強になりました。


2022年4月19日

スタートアップ!

(原題:Start-Up)(韓国,2019)

マ・ドンソク主演の,無軌道青年成長映画。コメディです。これも,観たかった映画の一つ。観ていて,多少ハラハラしますが,コメディなので,まぁ安心。マ兄貴のビンタは,ちゃんと炸裂します。

ソウルに住む18歳のテギルとサンピル。テギルは母親と二人暮らし。サンピルは祖母と二人暮らし。将来の夢はナシ。母親はテギルに,予備校に行って大学に行けと言うが,本人は行きたくない。

そうやって母親といつも口論ばかりで耐えられず,とりあえず家出同然に群山までやってきた。威勢だけは良いけどケンカは弱いヘタレのテギル。行く当てもなく,腹が減って辿り着いた中華料理屋でジャージャー麺(店内だと3000ウォン)を頬張る。住み込みの出前アルバイト募集の紙を見て,雇ってもらうことに。その厨房でジャージャー麺を作っていたのは,真ピンク色のジャージを着たロン毛のムキムキ男だった。

マ兄貴はホント,その顔と体だけで絵になります。主演映画は基本,マッチョな役なわけで,その基本設定は同じでも,やっぱりそれなりに面白い。マ兄貴のビンタ炸裂は,もはや歌舞伎か時代劇の形式美と同じ。

★★★


ザ・フォーリナー/復讐者

(原題:The Foreigner)(イギリス・中国・アメリカ,2017)

ジャッキーの「なめてた相手が殺人マシンでした映画」。前から観たかった映画の一つ。このとき,御年63歳。還暦超えてますが,さすがジャッキー,屋根から落ちたり階段から落ちたり,まだまだ現役。スタローンといい,シュワルツェネッガーといい,よくやるよねぇ。すごいです。物語としても,もう結構もうろくした爺さんの役で,63歳はちょうど年相応でしょうか。

大学生の一人娘をテロリストによる爆破で亡くしたクァン(ジャッキー)。妻と二人の子どもをすでに亡くしているクァンは,最愛の娘に先立たれて一人残される。娘を殺したヤツを絶対に許さない。警察に任せていても埒が明かない。クァンは自ら実行犯を探しに動き出す。

原題は「外国人」「よそ者」という意味。イギリスに住む移民である「中国人(China man)」という意味に加えて,テロリズムの背景にある北アイルランド問題に絡む民族紛争も関係しているかと思います。

事件の基本軸としては,イングランド政府(ロンドン警察)とアイルランドの民族主義者(武装勢力)の戦いなのですが,そこにジャッキー爺さんが早々に横からパーソナルにハチャメチャにする図式。ジャッキー爺さんに,警察とかテロとか武装勢力とか民族紛争とか,関係ありません。結果,現場は大混乱。

物語という点では,ちょっと色々と盛り込みすぎで,その小エピソードや人間関係は必要なのか?というところが多く,かえって話(図式)を分かりにくくしているような気がしました。でも,ジャッキーのネックスプリング(跳ね起き)を見ることができました。

★★★


教養の書

戸田山和久 (2020) 筑摩書房

名著です。学生自身は当然ながら,学部教育を担う人も読んだ方が良いと思います。教養とは何か,学部教育とは何か,学部生に何を学ばせるか。

専門教育は大学院でやるものであり,多くの学部生は大学院には進学しないのだから,学部教育とは教養教育である。だから,学部のカリキュラムに「教養」と「専門」を分けるのは変。全部「教養」だろう。激しく同意。

学部で専門家になれるわけがないのだから,4年で卒業して就職する大半の学生たちに向けて,教員は何を提供できるか,何を提供したら意味のある4年間となるか。そこんところの軸というか枠組みというか基準というか方向性というか指針というか,そういうものを常に意識して学部教育に携わるべきでしょう。

大きな国立大学なんか,教育よりも研究重視,教員のプライドも高く,自分たちの研究のことしか頭にないから,ついつい大学院教育(研究指導)が中心になり,結果,学部生なんか眼中にない。名前も顔も一切覚えないとか,学部の授業も学部生のケアも二の次三の次(=どうでもいい),なんて教員も多い。そういう趣旨のことを公言して憚らない人もいます。これホント。

もちろん,そんな(学部をおまけと考えている)国立大学にもまともな教員は(ほんのわずかですが)いて,学部教育に真剣に取り組んでいます。

大半の学生が大学の「学部」に求めるニーズと,一応その学部のスタッフである教員の思惑がズレているのが元凶でしょう。大きな国立大学がなんかチグハグになるのはそのせい。その辺りの理由も,本書を読んでみれば分かります。

まぁ,だから,端的には,学部教育(教養)をする人と大学院教育(研究指導)をする人を分けた方が良くて,欧米はそうなってるんじゃないでしょうか。


2022年4月13日

『映画秘宝』またしても休刊。そして復刊を強く祈る

マニアックな映画雑誌『映画秘宝』が,ふたたび休刊になってしまった。当時の版元(洋泉社)の消滅で一度休刊したものの(このときはショックだった),数ヶ月後には双葉社から復刊して喜んでいたのもつかの間,それから2年あまりでまた休刊。今回はショックというより,「またか」と「やっぱり」。

1年ほど前に,当時の編集長の恫喝DM問題が起きて,編集部周りでいろいろとゴタゴタしていたのは,一般読者である私にも聞こえていました。今回の休刊も,これと無関連ではないでしょう。なにせ,秘宝読者は一定数いるだろうから(というのも,数ある映画雑誌の中でも,この,変化球ばっかり投げる雑誌は他にない),出版業界が厳しいと言われて久しいですが,ビジネス的には十分成り立つだろうと思うからです。

いや,とにかく,残念。早くFujisanで定期購読できないかと思っていたので,余計に残念。定期購読どころか休刊。毎月発売日を楽しみにしていたのになぁ。

というわけで,諸行無常。世の中,ずっと続くものなど何もない。毎月発売するものだと思っていたら突然終わることもある。今生きていると思っていたら突然死ぬこともある。そんなことを思う『映画秘宝』の休刊でした。

大半の人たち,主流の人たちが見向きもしない,まるで評価しない映画をあえて取り上げたり,一般的にはものすごくどうでも良いと思われるポイントにスポットを当てて特集したり,それが「あざとい」感じのするときもありましたが,そういう脂っこさ(しつこさ)も含めて,『映画秘宝』は発行し続けるべきだと,僕は思う。

世の中,みんな同じことを言い出したら終わり。同じこと,同じものを評価しないと馬鹿にされたり,無視されたり,排除されたり,逮捕されたりする世の中は怖い。大半が価値を見出さないものに価値を見出したりすることは,この世の中に価値のないものなどないのだよ,無駄なものなどないのだよ,ということを忘れないためにも,そして世の中を健全な状態に保ち続けるためにも,必要です。

っていうか,人と同じで嬉しいか。同じ価値観と評価軸で生きることって楽しいか。つい人間は他者におもねる傾向があります。それは僕自身も例外ではない。ついつい他者からの評価を気にしてしまうのが人間という生き物です。でもやっぱり,何でもかんでも人と同じ価値基準で生きるのって,息苦しいし,つまらないし,気持ち悪いでしょう。なので,多様な価値を許す世の中の方が,まぁ,どう考えても健全だと思う。

『映画秘宝』のような類のメディアは,だから,一つの安全装置なのだと思います。復刊,切に願います。日本の健全な未来のために。


追記1:しかし,改めてDM問題以降の経緯をネットで見てみましたが,まだゴタゴタは続いていて,なんとも混沌とした状態でワケワカランことになってました。責任のなすりつけあい。初期対応を間違えると結局こうなる,の良い例。これだけこじれれば,双葉社も手を引きたくなるよね。残念。

追記2:ざっくりと対立構図を「町山氏ら」勢力と「元編集部の方々ら」勢力に分けたとして,どっちの誌面内容(コンテンツ)が面白いかといえば,個人的にはやっぱり町山氏。読者は結局,面白い方を選ぶ。どっちの言い分が正しいかはどうかとは無関係。


2022年4月12日

沖縄を変えた男

(日本,2016)

松永多佳倫『沖縄を変えた男 栽弘儀ー高校野球に捧げた生涯』(2012)の映画化。「琉球水産高校」に野球部監督として赴任してきた栽は,超スパルタで野球部を芯から叩き直し(実際に生徒を殴りながら),甲子園を目指す。甲子園で優勝しなければ沖縄の戦後は終わらない,と。

この監督,実際に県立「沖縄水産高校」を二度準優勝(1990年と1991年)させた名監督。今では沖水は甲子園の常連校です(春夏通算12回出場)。その人の執念ともいえる高校野球指導。今だったらもう,完全に「アウト」な体罰とパワハラの連続です。しかしそこのところを一切隠すことなく映画化しています。なので,後味は微妙。感動の野球部再生物語,『がんばれ!ベアーズ』とか『メジャーリーグ』みたいな,弱小チームが努力と団結で勝ち上がっていくハッピーエンドの成長物語なんかではない。

栽監督(を演じた主演のゴリ)は,ものすごい非情な人間。幼少期に沖縄戦を経験した彼は,アメリカと本土への「恨み」のような感情がマグマのように詰まっている。それはまるで,野球でもって恨みを晴らそうとするかのような執念。とにかく野球で「勝つ」ことしか考えていない。「勝つ」ためにはどんなことでもする。奴隷のような扱いを受ける野球部員たちはたまったもんじゃない。お前達は何も考えるな。まさにマインドコントロール。でも,彼らは栽を信じて,ひたすらついていく。ひたすら練習に打ち込む。なぜなら,彼らも甲子園で優勝したいから。

うううん,だから,とっても後味は微妙。良いような,悪いような。悪くないけど,良くもない。これを良しとしては良くないし,でも,良くないからといってこういう映画は撮らない方が良いとも思わない。当時は日本中どこもこういう時代だったのだし,またこれは沖縄の当時の一面なのかもしれない。

映画の最後の場面。浜辺で楽しそうにキャッチボールをする少年たちを観て,栽は号泣する。「野球」への,自分の人生への,表現しがたい複雑な思いが嗚咽となって溢れてくる。

★★★


追記:なお,調べたら,実際の沖水はこの2年連続準優勝の前にもすでに甲子園に出ている常連校でした。映画で描かれているような,決して甲子園にはほど遠いチームというわけではありませんでした。栽監督自身も沖水の前に豊見城高校で甲子園に行っていてすでに名前の知れた監督でした。また,肘を痛めても投げ続けたピッチャーのモデルは,巨人とダイエーでプレイした大野倫氏。大野氏に関するインタビュー記事では,栽監督とは生涯に渡ってつきあいがあり,高校当時もお互いに信頼関係はあったとのことでした。


スキャナーズ

(原題:Scanners)(カナダ,1981)

ようやく観ることができました。とにかく,ずっと観たいと思っていた作品でした。期待通り!クローネンバーグ監督のサイキックSFホラー映画。

まずは有名な冒頭の頭部爆発シーン。超能力を使うときの集中の表情と使われているときの苦悶の表情。そしてクライマックスの戦いの,血管膨張・顔面崩壊シーン。そして,『イグジステンズ』(1999)へと通じる「機械と生身」の融合として,超能力者(スキャナー)は人間ばかりかコンピュータもスキャンできる。公衆電話から研究所の極秘プログラムにアクセスしたところ,敵の反撃に遭い,その結果なんと,持っていた受話器が溶ける!

スキャナーたちを兵器として開発しようとする博士と研究所,これを阻止するためには殺人も厭わない組織(冒頭の頭部爆発はこの組織の首謀者レヴォックのスキャニングによる犯行)。果たして正義はどちらにあるのか,何が善で何が悪なのか。

★★★★


2022年4月6日

オレの獲物はビンラディン

(原題:Army of One)(アメリカ,2016)

神の啓示を受けて,アルカイダのリーダー「オサマ・ビンラディン」を捕まえにパキスタンに潜入した実在の男,ゲイリー・フォークナーをニコラス・ケイジが怪演。

ゲイリーはその日暮らしの便利屋。決まった家もない(みたい)。周りからは変人扱い。腎臓が悪くて透析を受けているが,妄想のせいで精神科の治療も受けている(みたい)。はたして,神の啓示は本当か妄想か。とにかくゲイリーは,神様から直々に受けた使命(オサマ・ビンラディンを捕まえろ!)を果たすべく,パキスタン潜入を懲りずに何度も試みる。しかし,一体どこにいるのか手がかりも何もないから,やみくもに探し回ることになる。

原題は,「一人の軍隊」って意味ですね。米軍がさんざん探してもなかなか見つからなかったビンラディンを,たった一人で探しにいく男G。

★★★


ジョーカー

(原題:Joker)(アメリカ,2019)

なんとなくまた観ました。やっぱり良い映画。存在を全否定された踏んだり蹴ったりの人生を全肯定して,自分を踏んだり蹴ったりにした社会に復讐するアーサーがジョーカーになる物語。

★★★★


2022年4月4日

Mr. ノーバディ

(原題:Nobody)(アメリカ,2021)

同じタイトルの映画はいくつかありますが,これはいわゆる「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」(ギンティ小林)です。しかもその要素をとことん強調してます。

毎日ルーティン生活を送るしがない中年男ハッチ。ある日の夜中に強盗が侵入するも,手も足も出せず,強盗に殴られた息子に”What the fxxx, dad!"と言われる始末。でも,手を出さなかったのには実は深い訳が・・・。

「あんた,何者?(Who the hell are you?)」「何者でもない(Nobody.)」nobodyは,名もない人,ただの人,取るに足らない人って意味なので,一義的にはしがないただの一市民ってことなのですが,ここではもう一つ,公式には記録を抹消されている死人(本当は存在しない人)って意味でもあるでしょう。

★★★★