2022年5月30日

シン・ウルトラマン

(日本,2022)

観ました。映画館で観ました。良かった。もう一回,いや,もう何回か観たい。

★★★★




翻訳がつくる日本語:ヒロインは「女ことば」を話し続ける

中村桃子 (2013) 白澤社・現代書館

外国人の発言や外国の小説や外国の映画は,どのような日本語に翻訳されているか。深く考えたことがなかったが,本書を読むと目から鱗。確かに,なるほど,そうだよね,そうなってるなぁ。

翻訳を眺めてみると,我々が強固に持ち続けている信念や価値観が浮き彫りになる。そして,こうした翻訳行為を通して,我々が持っている信念や価値観が繰り返し強化され続けていく。

この他,もっと色々示唆に富む話が分かりやすく語られているので,中村先生の本は他のものも含めて,いずれもオススメです。言葉に興味のある人,特に言語から社会を見たい人は是非。社会言語学は面白い。



2022年5月22日

将棋と勝敗

将棋は,勝ち負けを競い合うゲームです。だから,勝つときもあれば,負けるときもあります。良いときもあれば,悪いときもある人生そのものです。

将棋をやっていると,負けたときは悔しくて,こんなゲーム,もう二度とやるものかと腐ります。今まで費やしてきた時間が無駄だった,もう金輪際やらないぞ,と気分が悪くなります。そういう悔しい気持ちになりたくないから,次に勝負することに躊躇してしまいます。

かたや,勝ったときは嬉しくて,ああ,なんて爽快なんだ,将棋をやっていて良かった,今まで費やしてきた時間は無駄ではなかった,またやろうと,気分が良くなります。そういう楽しい気分になりたいから,また次の勝負をしてしまいます。

人生もそんなもんで,楽しいことなんてほとんどなくて,だいたいが大変だったり辛かったり面倒臭かったりすることばかりで,ああいっそもう辞めたい,どこかに遠くへ旅に出たい(私の場合は早く「ハワイ」に移住したい),と思うのですが,そんなことはできませんから,なんとか毎日生きています。

でも,ときどき良いことがあります。悔しいなぁと思う中に楽しいなぁという一時があれば,それが生き続けていく糧になります。「人間は何のために生きているのか」と問う満男に寅さんも言っていました。

何というかな,『あぁ,生まれて来て良かったな』って思う事が何べんかあるじゃない。そのために生きてんじゃねえか?」(第39作「男はつらいよ 寅次郎物語」)



と,将棋をやっていて,自分自身がいかに勝った負けたで浮いたり沈んだりするか,感情的にブレブレなのかが,よ~く分かるようになりました。そして人生そのものに重ね合わせたりもしているわけです。将棋よ,ありがとう。

実際の自分の人生では,そういう,勝った負けたで浮き沈みするのが嫌で,そういうモノサシのないところにいたいと常々思うわけですが(例えば,「研究」って,ある面でゲーム性が非常に高いので,そういう競争的な世界が嫌で,主流の一線から離れました),そう思いつつも勝った負けたの刺激を求めてしまうのは,浅ましい人間の性なのかもしれません。

そこで思うに,勝った負けたで一喜一憂せず,いかに将棋という勝負を楽しめるか,つまり,勝っても楽しい負けても楽しい,そんな風になれると良いなと思うわけですが,実際のところなかなかそうも行かずに,日々,これもまた心の修行だと思って,浮いたり沈んだりしています。

レイティングが下がったり,級位が下がったりすると(まだ全然,目標の「初段」は先の先),ホント悔しいし,気分悪いッス。


フェイクニュースを科学する:拡散するデマ,陰謀論,プロパガンダのしくみ

笹原和俊 (2018) 化学同人

フェイクニュースがなぜ拡散するかは,単に良識が無いとか情報に疎いとかではなくて,人間に伴う有限な認知資源や認知バイアスなどの元々の特性と,SNSなど現在のネット環境の特性(エコーチャンバーやフィルターバブルやパーソナライゼーションなど)との相互作用によって生じるからである,という話。こういう状況を「情報生態系」と言い,これを著者の計算社会科学によって紐解いています。

アンケート調査やシミュレーションによる多くの研究データに基づいて議論していますので,大いに納得することができます。昔から陰謀論や都市伝説はいっぱいあったけど,現代のソーシャルメディア環境はこれを大幅に増強する構造になっています。

私は,ツイッターもフェイスブックもやりませんから(やると,なんだか色々なものに巻き込まれそうで嫌なので),フェイクニュースの拡散具合をイマイチ実感できませんが,前アメリカ大統領とその周辺の人々の様子や事件を見るにつけ,ただ事ではないことは確かです。現在のウクライナ戦争でも,情報戦は凄まじいものになっています。

自分の信じたいことだけが事実となる「ポスト真実(Post-truth)」の時代の仕組みが良く分かりました。


2022年5月19日

禅問答入門

石井清順 (2010) 角川選書

「禅問答」(公案)というと,なんだか小難しくて哲学的で意味不明,というイメージですが,それがなんで意味不明なのかを説明するとともに,そもそもどういう意味なのかをそれが語られた状況や語り継がれる背景を踏まえて説明することで,難解に見える「禅問答」を解きほぐそうという本。なるほど「禅問答」がなんでこんなに分かりにくいのかが,少し分かりました。

禅の歴史もざっと解説していますし,禅問答がいかに禅の思想を表現しているかも解説していますので,いつもとはまた違う角度から禅を知る上で良い本でした。



2022年5月18日

ブラック・クランズマン

(原題:Blackklansman)(アメリカ,2018)

「ブラック・クランズマン」なんて邦題,さっぱり意味が分からないし,そもそも一体どんな映画なのかタイトルだけじゃまったく想像がつきませんね。ヘンテコな邦題を付けるよりはマシ,つまり配給会社がリスクを避けるために,単にカタカナに直しただけの映画が多い中,これはないでしょう,というぐらいタイトルからじゃ全く意味不明。

「クラン」はKKK(クー・クラックス・クラン)の「クラン」です。KKKとは,白人至上主義の秘密結社。だから,アメリカ人はタイトルからなんとなく意味が分かる。というか,おかしさに気がつく。あえて訳せば,「黒人のKKK(の男)」でしょうかね。黒人(アフリカ系アメリカ人)がKKK?どういうこと?ま,直訳が良い邦題かどうかはともかく。

監督はスパイク・リー。主演はジョン・デヴィッド・ワシントンとアダム・ドライヴァー。ロン・ストールワースという実在の元黒人警察官が書いた回顧録が原作。コロラド・スプリングスで初の黒人警察官になったロン(ジョン・デヴィッド・ワシントン)が,白人(ユダヤ人)のフリップ(アダム・ドライヴァー)とともに,KKKへ潜入捜査を敢行する。二人で一役。電話でやりとりするロンと実際に会合に出向くフリップ。いつバレやしないかとハラハラドキドキ。

主演の二人がとにかく良い。KKKのレイシズムぶりがまた突き抜けていて,アメリカにおける差別の歴史と実体が垣間見える。溜飲の下がる場面もあって,映画としても面白い。真面目なテーマなんだけど,ときどき笑える。

アダム・ドライヴァーは,スター・ウォーズのカイロ・レン役が良いのか悪いのかよく分からない配役でしたが,この映画では,すごく良い感じのはまり役でした。この人,体が大きいから場慣れしてしていて度胸の据わっている感じがしつつ,あの長いとぼけた顔からして決してやる気があるわけではない(良く言えばおおらか,悪く言えばええかげんな)役が良いのかも。良い味が出てます。

★★★



2022年5月9日

複製された男

(原題:Enemy)(スペイン・カナダ,2013)

監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ,主演はジェイク・ギレンホール。ヴィルヌーヴといえば,『DUNE/砂の惑星』(2020),『ブレードランナー2049』(2017),『メッセージ』(2016)と最近メジャーな(予算豊富な)映画を作っている監督。『メッセージ』は良かった。言語体系は違うけど飽くまで記号によるコミュニケーションをするところがちょっと強引な気がしますが(そもそも異星人がいるとして,かつその異星人が音声や記号によるコミュニケーションをすること自体,かなり低い確率だと想像するから)。『DUNE』はまだ観てません。リメイクなので,前作(デヴィッド・リンチ監督,カイル・マクラクラン主演)と色々比較されてますね。『ブレードランナー2049』は『ブレードランナー』の優等生的な回答,なんて言われたりしてますが,確かに謎が明かされてしまったようで,逆に残念と言えば残念。

主演のジェイク・ギレンホールは好きな俳優の一人で,あの悲しそうな弱々しそうな顔が良い味を出してます。『ミッション:8ミニッツ』が良かったし,若いとき(子役?)の『ドニー・ダーゴ』も良かった。その他,主役脇役で,えらいたくさん映画に出てます。

今回の主人公も,なんだか鬱々とした歴史学の大学講師(准教授)アダム。猫背のネガティブなやつ。日々,大学と自宅の往復と彼女との情事の繰り返しで,平凡な暮らしをしている。ふと,大学の同僚との会話でなんとなく観た映画に,なんと,自分そっくりの男が脇役で出演しているではないか!興味をそそられたアダムは,その俳優アンソニーを探しに行くことに。

映画冒頭の闇サロン的な描写も謎。二人がうり二つなのも謎。母親も何か隠しているような様子も謎。結末も大いに謎。ギレンホールが謎な映画に出てることが多いので,ホントこの人,いろいろややこしい謎に見舞われるなとメタに思ってしまうわけですが,しかし,ヴィルヌーヴの最近の映画のバターンからすると,複雑ないわゆる「パズル映画(パズル・フィルム)」系統がお好みなのか,今回もそういう系統。しかし,謎だけいろいろふりかけておいて,ちっとも回収されてない。おじさんに分かるように,もうちょい説明してくれ。

ちなみにパズル・フィルムとは,「断片化された時空間のリアリティ,時間の循環構造,異なったレヴェルのリアリティの間の境界の曖昧化,分裂したアイデンティティや記憶喪失を伴う不安定な登場人物,多元的な迷路状のプロット,信頼できない語り手,そしてあからさまな偶然性」(Warren Buckland)と定義されるそうです(木下,2017)。

★★


DELLコンの初期不良

購入したDELLコン(ノート)を,開封して立ち上げようとしたらナント,立ち上がらない!

今まで何台パソコンを購入してきたか分からない。大学院生になってからだから,かれこれ30年間近く経ってますが,おそらく20台は買ってるでしょう。いやもっとかなぁ。その中で,そもそも「立ち上がらない」という経験は一度もありませんでした。(一度だけ,Wi-Fiがどうしてもつながらず,理由として接続関連の部品が壊れていて回収修理したものはありました)

厳密に言うと,立ち上がりつつあるのかもしれないのですが,画面は真っ黒のまま,DELLのロゴは出ず,その状態で止まっている感じ。八方塞がり。さて困った。どうしよう,どうしよう。こういうときは焦ります。

何か必要な操作が足りないのか,あるいは壊れているのか。しかし,やっぱり普通,電源を入れたらロゴが出て,Windowsの設定が始まるでしょう。今回のケースは,そのロゴさえでない。これは初期不良(不良品)だと判断して,DELLのサイトの「テクニカルサポート」を確認。サイトを見てみると,今はLINEで問い合わせができるようで,早速,問い合わせることに。以前だと,電話対応で受話器ごしに待たされたりしたでしょうけれど,LINE対応は早かった。

結果,回収修理となりました。購入して10日以内なら返品可能なのですが,10日過ぎていたことと,返品したいわけじゃなくて,ちゃんとした同製品を使用したいわけだから,面倒だけど回収修理で仕方ないと諦めました。正直に言えば,新品と交換,というのが対応としてはベストだと思うけど,もうこれ以上やり取りするのは面倒なので,回収修理で良しとしました。LINEの対応が早くて丁寧だったので,その点は良かった。

いやしかし,パソコンも,初期不良ってあるんですね~。いやむしろ精密機械だから,シンプルな家電製品よりも確率は高いのか。よく分からんけど。


2022年5月2日

将棋の地元サークル

将棋を始めて1年ぐらいになるでしょうか。ふだんは将棋アプリでオンライン対戦をしたり詰め将棋をしたりしていますが,やっぱりやってみたいのは生身の人間との対戦。

近くにある有料の将棋センター(道場)に行けば間違いなくできるわけで,いずれ行ってみようとは思いつつ,なかなか敷居が高い。知らない人ばっかりだし,きっと上手な人ばっかりだろうし。じゃあ,近所でやっている同好会はどうかといえば,そちらはそちらで古くからの会員がいる中に入っていくのもこれまた敷居が高い。要するに,どちらにせよ人と接すると気を使うわけで,だったら生身の人間とやりたいと思うこと自体矛盾しているわけです。でも,やっぱり一度ぐらいはやってみたい。

そう思ってたまたま近所で将棋サークルが新しく開かれることを知り,参加させていただきました。小さい子中心ですが大人も数人。主催者の若いご夫婦はたいへん良い人たち。アプリを介してではなくリアルに対戦できて良かった。しかし反面,やっぱり,人と関わるから気を使います。初対面の人と勝負するってのは,なんとも気を使います。

というのも,どんなところにも,感じの良い人と悪い人,やりにくい人とやりやすい人がいる,ということ。センターや同好会に行くのをためらうのは,結局,人と関わるのが面倒臭いからであり,人付き合いの面倒臭さというのは,特にゲームという勝敗を競い合う状況でそれは増幅される,さらにそれが初対面の場合にはもっと増幅される,そんな気がするからです。そして案の定,思った通りでした。難しい。

確かにゲームは遊びだけれども,スポーツと同じく勝負ですから対戦相手をリスペクトすべきですが(それがスポーツマンシップの根幹),尊重や思いやりに欠ける人ってのは,残念ながら一定数存在する。

特にボードゲームの場合,手足と口は自由だから,態度や言葉一つ一つにデリカシーのない人と当たるとなんとも気分はよろしくない。体を動かすスポーツの場合だと,そんな無駄口を叩いている暇はないんだろうけど(笑)。

というわけで,自分はやっぱり人付き合いは苦手です。面倒臭い。社交性があるように思われがちですが,それは人と接することが強くストレスフルに感じていることから来る防衛的態度であって,過剰に気を使ってます(気の使い方が適切かどうかはともかく)。

なので,やっぱり自分はなるべく人と関わらないようにするのが良い,ということを再認識しました。だから,行って良かった。いつかセンターで指すためにと勉強したり練習したりしてきましたが,今は,アプリでのオンライン対戦で十分満足な気がしています。


男はつらいよ 寅次郎紅の花

(日本,1995)

というわけで,シリーズ最後の作品『寅次郎紅の花』を観ました。いやぁ,いいね,やっぱり。


寅さんの「日本」を歩く2

岡村直樹 (2021) 天夢人

前著『寅さんの「日本」を歩く』に続く第二弾。旅行作家の著者と一緒に,日本全国寅さん縁の地を訪ねる本。

自分は出不精でインドア派なのに,いや,そうであるからこそ,自由に色んなところに行く旅人がうらやましく,旅番組が好きです。太川陽介の「バス旅」シリーズ,ヒロシの「駅前食堂」,吉田類の「酒場放浪記」。ただし,ザ・観光地のグルメ番組みたいなのはそんなに好きではない。そうではなくて,人があんまり行かなさそうな田舎,町,駅を探訪・徘徊する番組。

寅さん縁の地はその点,ザ・観光地も多い。その一方で,どえらい田舎や無人駅に行くことも多い。そこで地元の困った人がいれば,助けずにはいられない。美しい女性に遭えば,惚れずにいられない。

48作もあるから,実はまだまだ観てない作品もある。まだ観てない作品を観たくなってきた。こうやってときどき寅さんに会いたくなるのだね。