2021年9月20日

ヴェノム

(原題:Venom)(アメリカ,2018)

宇宙で捕獲されて地球に降り立った地球外生命体シンビオート。地球にシンビオートを持ち帰ったライフ財団の宇宙船は事故で不時着したため,4体のうち1体は逃走したが,財団は残りの3体を研究し,その能力を利用して宇宙への移民を実現するため,人体実験を繰り返していた。その人体実験とは,シンビオートを人間に寄生させる非人道的な実験であった。

ライフ財団はこれまでにも非人道的な人体実験を繰り返してきたという噂を嗅ぎつけた,体当たり取材で人気のエディ・ブロックは,ライフ財団創設者ドレイクにこの噂をぶつける。ライフ財団は巨大な企業であり,この無謀な取材でエディは即座にクビ。しかし,非人道的な人体実験に悩んだライフ財団の研究者は,エディに真実を伝えるため,財団の研究所内に導く。そこで見たものは人体実験をされている知り合いのホームレスのマリア。彼女を助けようとするが,逆に,彼女に寄生していたシンビオートがエディに乗り移ってしまう。

シンビオートは,宿主に寄生して生きる肉食の凶悪なエイリアン。エディは,「ヴェノム」と名乗るシンビオートと融合し,スーパーパワーを得る。やりたい放題のヴェノムだが,やがて,エディと奇妙な信頼関係が築かれていく。

マーベルでは,ヴェノムはスパイダーマンの宿敵。映画『スパイダーマン3』で出てきた,黒いスパイダーマン。このときは,スパイダーマンと同じ模様が付いていましたが,今回の映画『ヴェノム』にはスパイダーマンは出てこないので,目だけがスパイダーマン的なだけで,後は真っ黒。凶悪でやりたい放題だが,けっこう素直にエディの言うことを聞くし,エディに協力的なところが憎めない。映像的にはスピード感があって,観ていて飽きさせない展開が良かった。続編の『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021)が公開されていますね。

★★


2021年9月19日

老子の毒 荘子の非常識

大野出 2009 風媒社

『老子』と『荘子』から一言二言取り上げて,それについて簡単な解説・コメントを付ける,という形式の,読みやすい本です。「毒」「非常識」とあるので,老荘を読むことは毒になる老荘を読むと非常識になる,みたいな内容かと勝手に想像していたのですが,全然そうではありません。老子は毒を吐くよ,荘子は非常識だよ,というストレートな意味でした。

中日新聞(懐かしい!)の文化面「ひもとく」というコーナーで2005年の平日(月~金)に掲載された記事をまとめたのが本書です。だから,小難しい解説というよりも,分かりやすい一言解釈が,味わい深い一冊になっています。読もうと思えば1時間ぐらいで読めてしまいますが,老荘の言葉を味わいながら読む方が良いでしょう。

これを読んで,『老子』と『荘子』を読んでみようと思ったら,著者の思惑通り。


2021年9月18日

ライフ

(原題:Life)(アメリカ,2017)

各国の優秀な科学者が集まる国際宇宙ステーションで,火星探査機によって採取された火星の土から,人類史上初の「地球外生命体」を発見。このニュースを聞いて歓喜に沸く地球では,その生命体に「カルヴァン」と名づける。国際宇宙ステーションのクルーは,試行錯誤しながらその成長を見守るが,装置の故障で動かなくなってしまう。焦ったクルーは,試しに軽い電気ショックを与えてみるのだが,これに対して突如,カルヴァンは恐ろしい力とスピードで反撃。凶暴なカルヴァンを危険と判断したクルーは駆除を開始するが,カルヴァンはことごとくかわし,次々とクルーを抹殺し始める。

映画『エイリアン』と同型の宇宙船閉鎖パニックホラー。”火星”からやってきたということで,タコ型であることがまた憎い(ペタペタヌルヌルと気持ち悪い)。最初はミドリムシみたいな状態から,どんどん成長し,人間はすぐに歯が立たなくなり,あっという間にやられてしまう。酸素と肉をひたすら欲するが,宇宙空間でもある程度は生きられる。とんでもない生命力。これが地球に入ってしまったら,人類は滅亡するかもしれない。絶対に地球に入れてはならない。残されたクルーのミッションは,カルヴァンの駆除,駆除が無理なら隔離,隔離が無理ならもろとも宇宙の藻屑となることを選ぶ。

真田広之が,日本人クルー「ショウ・ムラカミ」として出演。主人公はジェイク・ギレンホール。この垂れ目の疲れた(憂いのある)顔,どっかで見たことあるなぁ,確かこの人,『ミッション:8ミニッツ』(アメリカ,2011)の主人公コルター大尉では?と思ったら,やっぱりそうでした。そしてこの人なんと,あの『ドニー・ダーコ』(アメリカ,2001)の主人公ドニー(←高校生役)でした!いやはや,こんなところで,つながった。確かにあの垂れ目の疲れた顔は若いときも一緒。

エイリアンとの戦いになったら,あとはもうどうサバイバルするか,この小さいけど賢くて素早くて凶暴なタコ型とどうやって戦うか,それが見所。宇宙空間で未知の生物と戦ったらこうなる。

★★


2021年9月8日

ヴィジット

(原題:The Visit)(アメリカ,2015)

15年前に家出同然で駆け落ちした実家の両親から,自分をネットで見つけたと連絡があり,孫(つまり自分の娘と息子)と会いたいということになって,子ども二人で実家の両親に会いに行くことに。子ども二人は当然,初めて会う祖父母。電車で着いた田舎の駅まで車で迎えに来てくれた祖父母の家に,1週間お泊まりすることに。しかし,どうも祖父母の行動がおかしい。この二人,何か変だ。そのことをそれとなく尋ねると,「老人だからね。いろいろ病気があったり体調が悪くなったりするんだよ。だから許しておくれ」としか返ってこない。でもやっぱりちょっと尋常じゃない・・・。

『シックス・センス』『サイン』の監督M.ナイト・シャマランのサスペンス・ホラー映画。いやぁ恐かった。90分強の短い映画ですが,家に到着してほどなく,妖しさ全開で迫ってきます。ナイト・シャマランですから,話は簡単ではありません。だからこそ怖い。家族,老人,兄弟,親子などなど,テーマという意味でいろいろ要素は含まれていますが,そういうのとはまた全然種類の違った要素がじんわりと絡まっています。

15歳の娘(姉)のビデオカメラと13歳の息子(弟)のカメラの動画機能で撮る,全編ほぼPOV形式の映画です。POV形式を成立させるためにか,最初,主人公二人の母(つまり,舞台となる実家を家出した娘)が,駆け落ちした夫(つまり,子ども二人の父)との話を,娘がビデオカメラでインタビューしているところから始まります。だから,なんでビデオでインタビュー?どういう理屈でビデオ撮ってるんだ?と思いますが,そこんところは,映画全体を通して,徐々に分かってきます。

★★★


認知バイアス:心に潜むふしぎな働き

鈴木宏昭 2020 講談社ブルーバックス

「認知バイアス」という視点から,心理学の,特に認知心理学と社会心理学の研究を,分かりやすく読みほぐした本です。一般の人が読んでも面白いだろうし,私のような心理屋が読んでも面白い内容でした。世の中,一般向けの読みやすい「心理学」の本はたくさん出ていますが,人間の心の癖のようなものが心理学(で語られるもの)だとすれば,たぶん,この本がそれをそのままストレートに取り扱っている気がします。だから面白い。

ところで,著者の鈴木先生(青山学院大学)は認知科学会フェローという雲の上の存在でありますが,果たして「認知科学者」なのか「心理学者」なのか,どっちでもあって,どっちでもないのか(ご自身の認識はどうなのか)。というのも,世の中に認知科学会というのがありますように(私も一時期入っていましたが,入った割には何となく自分のやりたいことと違うなと思って,入ってすぐに辞めてしまいました),世の中には「認知科学」という学問領域があります。しかし,本書に書いてあることは基本的にすべて「心理学」の知見です。では,「認知科学」は「心理学」なのか,「心理学」であるならばなんでわざわざ「認知科学」というのか。

認知科学とはどんな学問領域かという定義的なものは,学会のウェブサイトなりウィキペディアなり見ればなんとなく分かります。でも,なんとなく,です。「心理学」だと学際的にできないから「認知科学」にして,いろいろ学際的に展開したいから,という思惑も分かります。

でも,それって,薬屋を薬局に入れ替えたり,床屋を理髪店に入れ替えたり,スーパーマーケットをショッピングストアに入れ替えたり,ただ単に言葉を変えただけではないのだろうか。扱ってる商品や客層は全く同じ。そう考えると,現代心理学が基本的に人の認知を扱うとすれば,両者はほぼ同じ意味だと思うんですよね。というのも,実際,認知科学のいう「認知」の射程ってかなり広いし(なんでも「認知」),なんでも「心理」の心理学とほぼ同じなのではないかと思うんです。

そんなことを前から思っていたのですが,当の認知科学者の人からすれば,両者の違いは自明であって,外野の無知な私が不勉強のために知らないだけで,今更問うことがナンセンスなのか,あるいは両者の違いは全くはっきりしていないのか,さてどうなんでしょう。

仮に両者は同じなのだとすれば,「認知科学」と「心理学」を区別する必要はありませんから,要するに現存する認知科学会という団体は,全日本プロレスである心理学会に対する新日本プロレスのようなものですね。だから,まぁ,存在してもいいですが,そこに格闘スタイルの違いを望みたい。うちはストロングスタイルです,とか。

一方で両者は違うのだとすれば,何がどう違うのか。認知科学の心理学でない面というのはどういう部分,どういう性質なのだろうか。逆に,心理学の認知科学でない面というのは何なのか。専門家(=特に自称「認知科学者」の人)に聞いてみたい。難癖とかではなくて,純粋な好奇心からです。誰か教えてください。

しかし,そういうことは置いておいて,いずれにしましても,本書は間違いなく良書です。



2021年9月6日

将棋

スマホのアプリでCPU相手に将棋(詰将棋や対局)をするのは,けっこう前から暇つぶしにやっていたのですが,ここ数年の藤井聡太九段の登場で,小学生のとき以来,将棋の対局番組(ABEMA)を観るようになりました。

観るのは,ただ観るだけじゃなくて自分でもやるからであって,当初はスマホアプリでCPU相手にやっていたのですが,欲が出てきて,最近とうとう,ネットの「将棋倶楽部24」に入って,知らない方々とネット対戦しています。

ネットゲームで対戦,なんていう世代では全くないアラフィフですので,見知らぬ人とネット上でやり取りすること自体経験がないですから(恐ろしいですから),最初,本当にドキドキしました。始めて間もない頃,画面上の操作が覚束ないのでモタモタしていると(未だにすべて把握していないですが),将棋倶楽部24にはチャット機能がありまして,なんと,見知らぬ人からチャットで話しかけられてしまってドギマギしてしまいました。

チャットで変な展開になるのも嫌だし,かといって何も返事しないのもきっとご気分を損ねるだろうと思って,当たり障りのないことを書いて,アタフタしながら退室しました。焦った。

その後,少しずつですが慣れてきて(しかし,未だに緊張します),20局ぐらいやりましたが,チャットで話しかけてくる人(つまり,おそらく,感想戦をしたい人)は,いません。「感想戦」なんて,やれるほど将棋の戦術を心得ているわけではないですから,やっても無駄なので,こんな初心者の素人に感想戦なんて恐れ多いので誘わないでもらいたいのですが,長く続けてるといつか,見知らぬ人と感想戦なんてしちゃうんでしょうか。そんな自分を想像すると,恐ろしい。

勝負事の緊張感は,ゲームですが,やっぱりそれなりに心地よいものです。勝つと気分良く,負けるとどんよりした気分になりますが,スポーツが好まれる理由の一つはここ(感情の振幅)にあるでしょう。普段,勝負事自体が好きではない分,縁がないと思っていたのですが,小学校以来の新鮮な緊張と興奮です。ただ,ネットで見知らぬ人との対戦ですから,トラブルにならないよう,気をつけたいと思います。

そのうち,ある程度打てるようになったら,街の将棋道場にでも行ってみようかとも思っています。そういえば,昔,親父も今の自分と同じぐらいの年のころ,囲碁にはまって毎週囲碁道場に通ってたことを思い出しました。親子なんてのはやっぱり,似たくなくても似るものなんでしょうかね。

そういえば一つ,ふと改めて,「ああ」と身体的に感じたことがありました。盤上は,常に全体を俯瞰しないとダメですね。初心者なのでついつい一点だけ見ちゃうわけですが,そうすると,だいたい,やられます(笑)。これはもう,全く以て,沢庵和尚が『不動智神妙録』に書いてある通りそのままです。




2021年9月3日

屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ

(原題:the Golden Glove)(ドイツ,2019)

第二次世界大戦敗戦の影をまだ残した1970年代前半のドイツはハンブルグ。フリッツ・ホンカは,近所の安いバー「ゴールデン・グローブ」で日々,飲んだくれている。自宅は安アパートの最上階にある狭い屋根裏部屋。冴えない容姿のフリッツは,抑えきれない性欲を抱えてゴールデン・グローブで娼婦(売春婦)を漁るが,誰からもまともに相手にされず,誘いに乗るのはいつも「熟女」というよりもむしろ「老女」の娼婦ばかり。自宅に誘って事をなそうとするのだが,フリッツは不能で,結局,何もできない。やりたくてもできないフリッツは,酒にくらんで誘いに乗って部屋までやってくる老娼婦を,カーッとなって次々と殺しては,始末に困った末に,切り刻んで(屋根裏部屋の)屋根裏に隠していた。

ヤバい映画を観てしまった。これ,実在した連続殺人鬼の映画です。始終アルコールで息が荒く汗をかいているフリッツ・ホンカは,強い猫背で,斜視で,遠視用眼鏡をかけていて,前頭部がはげ上がっていて,鼻が大きくて,歯並びが悪くて・・・と,とにかく見た目がひたすらよろしくない。絶対にもてないであろう孤独な男の部屋には,壁中にびっしりヌードポスターが張ってあることから,かなり強い性欲がうかがわれる。部屋は酒瓶だらけで,トイレは使うのがはばかられるぐらい汚い。それでも一度,車にはねられて大怪我をしたのを機に改心して,酒を断ち,仕事も変えたのだが,気に入った女を前にやっぱりまた飲んでしまう。

エンドロールで本物のフリッツ・ホンカの顔や部屋の写真,屋根裏部屋の見取り図,犠牲となった娼婦の顔写真,実際のバーの写真などが流れますが,二度見したくなるほど極めて再現度が高い。映画本編を見終わった後,エンドロールでこの再現度を知るわけですが,余計に気持ち悪くなりました。性欲と狂気に満ちた連続殺人鬼フリッツ・ホンカを演じるヨナス・ダスラーのメイクと演技に脱帽。ヤバいです。

★★★


2021年9月2日

スーサイド・スクワッド

(原題:Suicide Squad)(アメリカ,2016)

スーパーマン無き後,ゴッサムシティに降りかかるメタヒューマンの脅威を,悪党で結成したチームで対抗しようという特殊部隊,タスクフォースX。

主人公的位置づけのデッドショット(ウィル・スミス)が,どこからどう見てもやっぱり「ウィル・スミス」なので悪党感がほとんどない。残念。代わりに,ジョーカー(ジャレット・レトー)とハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)が光ってました。ジョーカーの気持ち悪さとハーレイ・クインの阿呆っぽさが分かりやすくて痛快です。

DCやマーベルは,ストーリーを楽しむというよりはキャラクターを楽しむものだと思うので,話としては平凡です。マーゴット・ロビー演ずるハーレイ・クインのキャラが抜群に良かったので,「ハーレイ・クイン 華麗なる覚醒(Birds of Prey)」(2020)として続編?が出たのは納得できました。「ザ・スーサイド・スクワッド ”極”悪投,終結」(2021)も公開されましたね。

主流よりも傍流,中心よりも周辺,直球よりも変化球,だからホラー・アクション・SFなど,ちょっと奇妙だったり変だったりする映画が好きなので,『映画秘宝』愛読者です。ただ,最近少し気になっているのが,このところ,DCやマーベルのアメコミ推しがやや目立つ気がします。推すから面白いのかと思って観ました。きっとアメコミファンには堪らないのだと思います。悪くは無いけど,単調かな。