2021年9月8日

認知バイアス:心に潜むふしぎな働き

鈴木宏昭 2020 講談社ブルーバックス

「認知バイアス」という視点から,心理学の,特に認知心理学と社会心理学の研究を,分かりやすく読みほぐした本です。一般の人が読んでも面白いだろうし,私のような心理屋が読んでも面白い内容でした。世の中,一般向けの読みやすい「心理学」の本はたくさん出ていますが,人間の心の癖のようなものが心理学(で語られるもの)だとすれば,たぶん,この本がそれをそのままストレートに取り扱っている気がします。だから面白い。

ところで,著者の鈴木先生(青山学院大学)は認知科学会フェローという雲の上の存在でありますが,果たして「認知科学者」なのか「心理学者」なのか,どっちでもあって,どっちでもないのか(ご自身の認識はどうなのか)。というのも,世の中に認知科学会というのがありますように(私も一時期入っていましたが,入った割には何となく自分のやりたいことと違うなと思って,入ってすぐに辞めてしまいました),世の中には「認知科学」という学問領域があります。しかし,本書に書いてあることは基本的にすべて「心理学」の知見です。では,「認知科学」は「心理学」なのか,「心理学」であるならばなんでわざわざ「認知科学」というのか。

認知科学とはどんな学問領域かという定義的なものは,学会のウェブサイトなりウィキペディアなり見ればなんとなく分かります。でも,なんとなく,です。「心理学」だと学際的にできないから「認知科学」にして,いろいろ学際的に展開したいから,という思惑も分かります。

でも,それって,薬屋を薬局に入れ替えたり,床屋を理髪店に入れ替えたり,スーパーマーケットをショッピングストアに入れ替えたり,ただ単に言葉を変えただけではないのだろうか。扱ってる商品や客層は全く同じ。そう考えると,現代心理学が基本的に人の認知を扱うとすれば,両者はほぼ同じ意味だと思うんですよね。というのも,実際,認知科学のいう「認知」の射程ってかなり広いし(なんでも「認知」),なんでも「心理」の心理学とほぼ同じなのではないかと思うんです。

そんなことを前から思っていたのですが,当の認知科学者の人からすれば,両者の違いは自明であって,外野の無知な私が不勉強のために知らないだけで,今更問うことがナンセンスなのか,あるいは両者の違いは全くはっきりしていないのか,さてどうなんでしょう。

仮に両者は同じなのだとすれば,「認知科学」と「心理学」を区別する必要はありませんから,要するに現存する認知科学会という団体は,全日本プロレスである心理学会に対する新日本プロレスのようなものですね。だから,まぁ,存在してもいいですが,そこに格闘スタイルの違いを望みたい。うちはストロングスタイルです,とか。

一方で両者は違うのだとすれば,何がどう違うのか。認知科学の心理学でない面というのはどういう部分,どういう性質なのだろうか。逆に,心理学の認知科学でない面というのは何なのか。専門家(=特に自称「認知科学者」の人)に聞いてみたい。難癖とかではなくて,純粋な好奇心からです。誰か教えてください。

しかし,そういうことは置いておいて,いずれにしましても,本書は間違いなく良書です。



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