2022年4月12日

沖縄を変えた男

(日本,2016)

松永多佳倫『沖縄を変えた男 栽弘儀ー高校野球に捧げた生涯』(2012)の映画化。「琉球水産高校」に野球部監督として赴任してきた栽は,超スパルタで野球部を芯から叩き直し(実際に生徒を殴りながら),甲子園を目指す。甲子園で優勝しなければ沖縄の戦後は終わらない,と。

この監督,実際に県立「沖縄水産高校」を二度準優勝(1990年と1991年)させた名監督。今では沖水は甲子園の常連校です(春夏通算12回出場)。その人の執念ともいえる高校野球指導。今だったらもう,完全に「アウト」な体罰とパワハラの連続です。しかしそこのところを一切隠すことなく映画化しています。なので,後味は微妙。感動の野球部再生物語,『がんばれ!ベアーズ』とか『メジャーリーグ』みたいな,弱小チームが努力と団結で勝ち上がっていくハッピーエンドの成長物語なんかではない。

栽監督(を演じた主演のゴリ)は,ものすごい非情な人間。幼少期に沖縄戦を経験した彼は,アメリカと本土への「恨み」のような感情がマグマのように詰まっている。それはまるで,野球でもって恨みを晴らそうとするかのような執念。とにかく野球で「勝つ」ことしか考えていない。「勝つ」ためにはどんなことでもする。奴隷のような扱いを受ける野球部員たちはたまったもんじゃない。お前達は何も考えるな。まさにマインドコントロール。でも,彼らは栽を信じて,ひたすらついていく。ひたすら練習に打ち込む。なぜなら,彼らも甲子園で優勝したいから。

うううん,だから,とっても後味は微妙。良いような,悪いような。悪くないけど,良くもない。これを良しとしては良くないし,でも,良くないからといってこういう映画は撮らない方が良いとも思わない。当時は日本中どこもこういう時代だったのだし,またこれは沖縄の当時の一面なのかもしれない。

映画の最後の場面。浜辺で楽しそうにキャッチボールをする少年たちを観て,栽は号泣する。「野球」への,自分の人生への,表現しがたい複雑な思いが嗚咽となって溢れてくる。

★★★


追記:なお,調べたら,実際の沖水はこの2年連続準優勝の前にもすでに甲子園に出ている常連校でした。映画で描かれているような,決して甲子園にはほど遠いチームというわけではありませんでした。栽監督自身も沖水の前に豊見城高校で甲子園に行っていてすでに名前の知れた監督でした。また,肘を痛めても投げ続けたピッチャーのモデルは,巨人とダイエーでプレイした大野倫氏。大野氏に関するインタビュー記事では,栽監督とは生涯に渡ってつきあいがあり,高校当時もお互いに信頼関係はあったとのことでした。


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