2020年12月19日

心理禅:東洋の知恵と西洋の科学

 佐藤幸治 1961 創元社

今更ながら自分の不勉強さに恥じ入ります。そして,恥じ入るとともに感動と歓喜の気持ちを抱いています。本書は,以前から存在することは知っていましたが,かなり古い本なので,なんとなく手に取ることなく過ぎていました。ちなみに,佐藤幸治先生は,僕が生まれる一月ほど前に66歳で亡くなっています。

まず,我が国では戦後ほどなく,すでに禅に関連する様々な研究がこれほどまで盛んにされていたとは思いもよりませんでした。当時は鈴木大拙を中心に海外で禅が紹介され注目されていた頃です。なのでもちろん,その当時から禅の研究がされていることは知ってはいましたが,どのくらい盛んだったか,当時の熱量までは分かりませんでした。しかし,何かのきっかけで本書を手に入れ,ようやく読んでみたわけですが,いやはや,今よりもはるかに熱い議論がされているように感じました。こりゃすごい。

この当時は生理心理学的な研究と言っても脳波や末梢反応ぐらいでしたが,それでもいろんな大学の著名な先生が禅の研究をしています。本書にはまた,ジェイコブソンの漸進的筋弛緩法だとかシュルツの自律訓練法だとかも出てきています。ヨーガや太極拳や肥田式強健術なんかも出てきます。当時から禅(坐禅)は身体技法だという認識の現れでしょう。

これは2020年の今,自分が「身体心理学」の授業で話していることそのままであり,な~んだ今から60年も前にすでに本になってるではないかと,深く感動したわけです。

マズローとか森田療法とかユングとか出てきて,これまた感動。日本感情心理学会の初代理事長であり同志社大学の総長も務められた故・松山義則先生が院生(?)として登場していて(p.78),時代を感じて感動。この他,ESPも出てくるし,アメリカの研究者からLSDもらってるし(!!なお,佐藤先生は使っていないと書いています:笑),猫の妙術もやオイゲン・ヘリゲルや白隠も出てくるし,当然,鈴木大拙や西田幾多郎も出てくるし,まるで煌びやかな遊園地か百貨店か宝石箱の如く,とにかく,自分が普段面白いと思うジャンルが,まるごとここに詰め込まれていました。

いやはや,ホントに恐れ入りました。限られた時間の中で,我々はつい,なるべく新しい著作や論文を読もうとしてしまいがちですが(そのように訓練を受けているためです),心理学の大先輩の著作(古典)も,ちゃんと読まなくちゃいけないことを,しみじみ感じています。

その一方,自分が今まで興味関心を抱いてきた射程は,一見脈絡がないように思われるかもしれないのですが,佐藤幸治先生とかなり被ることが分かり,相通ずる(もう亡くなれているからお会いできないので理解はしてくれないですが,僕の中では「理解者」と感じられる)先人がいたことに,深く安堵しています。佐藤先生の方向性の大枠は,東洋的な思想や文化を心理学的に研究することのようです。これ,今,自分がやっていることそのままです。

今更読んで感動している僕が言うのもどうかと思いますが,「身体」や「瞑想」をテーマに研究している人は,これ,必読書でしょう。絶対に読んだ方が良いです。



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