2024年3月1日

越前宰相秀康

梓澤要 2013 文春文庫

単行本2011年刊。結城秀康の小説2冊目。秀康が辿った大筋や,ところどころのエピソードはだいたい同じですが,なぜそういう判断をしたのか,そのときどういう思いだったか,誰がどこにいるか(どこに出てくるか)などは,当然だけど小説だから両者で違いますね。

歴史的な事実や,話として伝えられているエピソードや,寺社の縁起なんかを総合して,そこから想像して,話をつなげて,物語として構成するわけだから,話のタネは点であり,その点と点をどうつなげていくかがその歴史小説の面白さなんだなということが,読み比べてみて改めて分かりました。その意味では,この梓澤本より大島本の方が面白かったかなぁ。

梓澤本は,大島本に比べて,相対的に,秀康とその周辺があまり不遇ではない。それなりに遇されています。大島本の方が,不遇さ故の屈折した秀康の心模様が描かれています。父・家康に対して屈折した思いを描いている点は同じですが,その原因となる不遇さ・不条理さが,大島本の方がはっきりしいているのに対して梓澤本の方はその辺が緩い。それなりに好待遇だから,なんでそんなに屈折するのかに対して説得力が弱い。

まぁしかし,一方で大島本の弱いところは,服部半蔵をキーマンに使いすぎて,理屈づけやつじつま合わせに,暗躍するこの忍者に頼り過ぎなところがある点かな。あと,もう一人のキーマンに,黒人の従者がずっと付いているだけど,これは大島本の創作なのかもしれない。まぁ,忍者や黒人が出てくるところが,ある意味,エンターテイメント性を重視した,より「小説」的な小説だから,大島本の方が読み応えがあって面白いのかも。

もう一冊,植松三千里氏のものも買ってあるので,そのうち,読みます。


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