2021年4月27日

タクシー運転手:約束は海を越えて

(原題:A Taxi Driver)(韓国,2017)

泣けるな~,この話。主演はソン・ガンホ。いわゆる「光州事件」の話ですが,実話に基づくようです。1980年,ドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーター(トーマス・クレッチマン)が光州で起こっている出来事を報道するために,東京からソウルに向かう。記者を乗せてソウルから光州に向かう送迎が10万ウォンだと食堂で盗み聞きしたキム(ソン・ガンホ)は,先回りして記者を乗せて光州へと向かう。しかし,そこで見た光景は,軍が民衆を無差別に虐殺するという,悲惨な現状だった。

と,光州事件については実はほとんど何も知りませんでした。映画の冒頭でも触れられますが,かいつまんで書きますと,朴正熙大統領が暗殺され独裁体制が終わった後,全斗煥将軍(後,大統領)が起こした軍事クーデターと戒厳令下で起こった民主化・反軍部デモで,民間人の死者数154名・行方不明者数70名(5.18記念財団)と,民衆デモとしてはかなり凄まじかったことが想像されます。

だって,これ,1980年の話ですからね。私はすでに9歳,小学校3年生です。ちょうど1980円のミッキーマウスの腕時計を買ってもらった年です。毎日,ドッチボールに明け暮れていました(「ぱろぱろエブリディ」という当時の名古屋ローカル番組で,「さすらいのドッチャー」っていうコーナーがありました。そのくらい,ドッチボールが流行ってました)。そんなノホホンとした平和な日々でしたが,お隣の国では「自国の軍隊に国民が殺されてた」とは,夢にも思いませんでした。子どもだったし,全く記憶にありません。

これを思うに,現在のミャンマーがほぼ同じ構図の状況であり,報道では民間人が700名以上も死亡しています。私は大学院の時の先輩にミャンマーの女性がいて(彼女は現在も日本に住んでいますが),その意味でなんとなく昔から親しみのあるこのミャンマーの現状に毎日,心を痛めています。国軍の蛮行も許せないですし,そういう惨状をなんともできずにただ様子を見ているだけの国際社会にも憤りを感じます。

メディアや通信が制限されたり,日本人記者も逮捕されたりして,当初は入ってきた国軍の残虐な行為も,最近は流れてきません。これもすべて国民の民主化デモを封じ込め,国際社会からの批判を避けるための情報統制です。

そういうことを考える意味でも,また,冴えないタクシー運転手の主人公がこの惨状を見過ごせずに勇気を振り絞って侠気を見せるところも,良い映画です。色んな意味で,今こそ,この映画を観るべきかもしれません。今,アジアの一国で,リアルに,同じ事が起こっています。

★★★


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