2022年9月14日

「トランプ信者」潜入一年:私の目の前で民主主義が死んだ

横田増生 2022 小学館

端から見ればドナルド・トランプとその信者の妄想的な陰謀論は空虚で滑稽であり,分かりやすいほどに虚構的(フェイク,バーチャル)なのですが,しかし,アメリカ合衆国という国はその虚構が現実となっていた(そして今も,そのままなっている)ことを思うと,ものすごく奇妙であるとともにそら恐ろしく感じます。経済力・軍事力ともに大国ゆえに,そのトップが独裁的な陰謀論者となれば,世界規模での平和と安全が揺らぎます。ウクライナでは現実に,隣国である大国のトップの独裁(妄想?)により,その平和と安全が侵害されています。

トランプに話を戻せば,我々日本人からすれば,なぜこれほどまでに明らかな虚偽の陰謀論を語り続ける彼を支持する信者が多数(それもアメリカを二部するほどの多数)いるのか,不思議でなりません。アメリカ人は陰謀論に親和性が高いことは研究者の知見の引用として本書にも書かれていますが(キリスト教的背景と合理主義的背景によって,自分にとっての不合理さを解決する妙案として「闇の政府」などの陰謀論に帰結する),それはそうとして,そもそも「なぜトランプはアメリカ人(の多く)に人気があるのか」の秘密が,本書を読むと分かります。

特には,第七章が重要です。ここを読めば,人気の源泉が分かります。トランプ人気への根本的な疑問が解消されます。ああ,なるほど,だから人気があるのねと,納得できます。あの変わった髪型の攻撃的な暴走老人であるトランプがなぜこれほどまでに根強い人気があるのか,日本人にはイマイチぴんとこないのはなぜなのかの理由が分かります。そもそもの始まりにおいて,長い年月かけて,かなり脚色された虚構を現実だと思い込んでしまっている人が,アメリカ人の中に多数いる,ということですね。これは相当に根深い。

トランプ信者をただの暴徒や狂信者とみなすのではなく(つまり,個人の特性に帰すのではなく),様々なメディア(虚構)による影響がいかに人間の認知や感情を変容させるか,またそうした虚構にすがりたくなる原動力となっている不平や不満がいかに醸造蓄積されているのか,についての壮大な社会実験場となってしまっているアメリカ合衆国という国を,文化的社会的心理的に分析していく必要があるかもしれません。

トランプ禍は,これからも当面続きそうですから,アメリカという国がどこに向かっていくのか,対岸の火事とは思わないようにしつつ,観察を続けたいと思います。


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