2022年6月30日

人はなぜ宇宙人に誘拐されるのか?:自我を形作る「意識」と「無意識」の並列システム

エリエザー・J・スタンバーグ(著)水野涼(訳) 2017 竹書房

「目の見えない人は夢で何を”見る”のか?」「ゾンビは車で通勤できるのか?」「起きていないことを思い出すことはできるのか?」「人はなぜ宇宙人に誘拐されるのか?」「統合失調症患者にはなぜ声が聞こえるのか?」「催眠術で人を殺させることはできるのか?」などなど,突飛な,しかし,非常に興味をそそる<謎>を設定して,そこから人間の意識と脳の関係について探る,非常にエキサイティングな本です。

他にもいくつか章があるのですが,一連の流れの中で章と章の問がつながっていたり展開していたりして,単にテーマがオムニバス的に並んでいるだけではない,流れの面白さもあって,とても読みやすいです。

翻訳の日本語も非常にこなれていて,奇妙な直訳調の文章もなく,読みやすかったです。翻訳論として,原語に忠実に訳すか,翻訳する言語に近づけて訳すかは,議論があるところですが(どちらが優れているとか劣っているとかではなく),自分が訳すときは原語のニュアンスを残しつつこなれた訳を目指そうとする折衷派(といえば聞こえが良いが,要するにどっちつかず)。でも,読者の立場だとこなれた日本語を求めてしまう自己矛盾。

脳は,思考や記憶などの認知的な過程において,材料に欠落があると,適当に見繕って物語を構築してしまう。そんな「都合の良く」「うまいことやろうとする」脳の巧妙さと健気さに触れることができます。



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