2021年1月7日

トゥモロー・ワールド

(原題:Children of Men)(アメリカ/イギリス,2006)

人類に子どもが生まれなくなって18年。国際社会の平和的な連帯は崩壊し,不法入国者の取り締まりと強制収容に軍隊をも投入する政府と,反政府のレジスタンス(政府からすればテロリスト)が攻防を続ける。そんな中で,奇跡的に妊娠をした若い娘を巡って,元レジスタンスの闘士・セオが争いに巻き込まれる。原題は「人類の子どもたち」ということですね。

まず,子どもが生まれなくなる,という設定でもって,人類はいずれ滅ぶという暗いディストピアを描いているわけですが,その原因はここでははっきり描かれてはいません。あるときから妊娠した女性が流産したり,妊娠しなくなったりして,とうとう一番若い子どもでも18歳という,とにかくそういう時代だということです。

この,子どもが生まれないという現象と世界の混沌との関連がよく分からないところもありますが,人類にとって先行き暗い世の中で,世界の秩序が崩壊している,という状況です。

ただ,こういうディストピア映画でつくづく思うのは,ではどうやって電力や食料が安定的に供給されているのか,その辺りがよく分からないわけですね。願わくばその辺りもさりげなく描けばもっとリアリティが出ると思うんですが(たとえばときどき停電するとか,食糧の入手が困難とか),そこんところはあんまり問われません。コーヒーショップで朝にコーヒー買えるし,(おそらくガソリンで?)車も走ってますし,電車も動いてます。舞台は2027年のイギリス。

でも,人類に子どもが生まれなくなれば,悲観的で憂鬱になるのは想像に難くありません。なにせどんどん高齢化は進むし,死ねばそれだけ人類の数は減っていくわけです。残すは今生きている人だけ。萎んでいくだけです。

トゥモロー号という船に乗って「ヒューマン・プロジェクト」という人道的な組織へ赤ん坊とその母親を届ける,という雲を掴むようなミッションを成し遂げることが天命と悟ってひたすら頑張る中年男・セオ。そもそもこの「ヒューマン・プロジェクト」なる組織があるのかないのかも定かでないのですが,これがディストピアに対するユートピアとして設定されています。

ところで,アクション場面は,かなりリアルで良かったです。まず良かったのは,暴徒化した群衆に森の中で襲撃される場面。思わずそのリアルさに「おお」と声を漏らしてしまいました。暴徒が追っかけてくるところやバイクがクラッシュするところは,非常に生々しい。最後の,政府軍とレジスタンス(テロリスト)との攻防も,長回しのワンカットですごいです。不法移民の扱いや収容所の環境は劣悪極まりなく,そういう細かい描写もリアルでした。

★★★



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