2021年3月29日

殺人者の記憶法

(原題:Memoir of a Murderer)(韓国,2017)

なんだか凄い映画です。なんとなく邦画はあまり見ないのですが(それは,CMやバラエティに出る俳優の日常が透けて見えてしまって,見ていてあんまり感情移入できないから,というのが昔からの理由の一つ),韓国映画が凄いのか,日本映画もこのぐらい凄いのか,良く分からないけれど,この映画はとにかく凄い。タイトルやポスターはけっこう地味ですが,これ,ただの映画じゃありません。

きっと認知症やアルツハイマーを患っている人の世界(主観的な体験)は,(映画だからもしかしたら実際とは少し違うのかもしれないけれど)きっとこうなのかもしれない,と思わせる見事な記憶障害の描写と,それを軸にした恐ろしい物語です。

キム・ビョンスは,銀行で働く娘ウンヒと二人で暮らす60前後の獣医。認知症とアルツハイマーを発症している。物語は,留置所のベッドに横になって医療を受けているキム・ビョンスのところに検事がやってきて,聴取するところから始まる。検事の手には「日記」がある。どうやら「日記」はこのキム・ビョンスが書いたもののようだ。「日記」には自分の過去と現在進行形の出来事が,つまびらかに<告白>されている。この話はだから,この「日記」に書かれている内容と書いた本人である記憶障害(認知症)のキム・ビョンスの追想(記憶),ということになる。

ここ最近,キム親子の住む町で,若い女性が殺される事件が相次いでいる。連続殺人鬼か。若い娘のいるキム・ビョンスとしては心配で仕方がない。いや,しかし,実は問題はそこだけではない。実はキム・ビョンスは昔,連続殺人鬼だったのだ。

ある日,キム・ビョンスは霧深い道路で追突事故を起こす。すると,追突してしまった車のトランクからは血が滴っているではないか。車の持ち主は超イケメンの若い男。もしやこの車の持ち主が,今世間を騒がせている連続殺人鬼ではないか,いやそうに違いない!車のナンバーを覚えたキム・ビョンスは,警察に密告する。

イケメンの男ミン・テジュは警察官であり,キム・ビョンスの娘に近づく。キム・ビョンスは怪しむが,しかし,マズいことに,ときどき記憶を失って,自分が何をしていたのか,すっかり忘れてしまうのだ。だから,都度都度,ボイスレコーダーに録音することにする。キム・ビョンスはこれを聞き返してときどき記憶を思い出し,なんとかしようと行動する(これがこの映画のタイトルになっている,ということですね)。娘を守りたい一心で奮闘するが,残念なことに,肝心なところでまた忘れる。

これだけでもハラハラしますが,話はもちろん,これだけではありません。最後まで目が離せませんし,もう一回観たくなります。この物語は,映画論で言うところの「パズル・フィルム」というジャンルに入るのだと思います。最近は多く見られるジャンルですね。クリストファー・ノーラン作品とか。

パズル・フィルムとは,「断片化された時空間のリアリティ,時間の循環構造,異なったレヴェルのリアリティの間の境界の曖昧化,分裂したアイデンティティや記憶喪失を伴う不安定な登場人物,多元的な迷路状のプロット,信頼できない語り手,そしてあからさまな偶然性」(Warren Buckland)と定義されるそうです(木下,2017)。

パズル・フィルムは,観た後に反すうします。反すうする映画が良い映画の特徴だと思うと以前に書きましたが,つまり,パズル・フィルムの面白さ(良さ)は,複雑にすることで観た後に考えさせるところがミソなのかもしれません。ただ,何でもかんでも複雑にすりゃ良い,ってもんじゃないから,やっぱり,その複雑さっぷりが面白くないといけないのも確かだと思います。

★★★★


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